問題篇
「被害者のダニエル・バルトさんは大学でドイツ語を教えていました。背中にナイフが刺さった状態で机に突っ伏しているのを学生が発見したのです」
篠田警部はデスクを示しながら説明してくれた。
「遺体を発見したのはヨハン・シューベルトという留学生です。廊下でうずくまっているのを見たでしょう。ショックのあまり気分を悪くしたみたいで」
「中世の音楽家みたいな名前ですね」私の場違いな所感に警部は苦笑いで応じる。
「それから、沢田俊彦という男性も研究室を訪ねていました。ヨハンが遺体を見つけてすぐのことです。沢田は被害者が懇意にしていた靴屋の専属靴職人です」
「事件が起きたら第一発見者を怪しめ……が定石ですが、彼らに不審なところは?」
警部は顎のあたりをしきりに擦っていたが、やがて溜息とともに私に1枚の紙切れを手渡した。
「Schubert、と書かれていますね」
「ヨハンのラストネームです。これを握りしめて被害者は絶命していました」
私はいかにも怪しい紙切れをしばらく眺めていたが、
「篠田警部。被害者のスマートフォンか手帳か、とにかく知人友人の連絡先が分かるものはありますか」
「被害者のスマートフォンなら」
警部から借りたスマートフォンには、シューベルト姓の連絡先が複数登録されていた。私は、ヨハン・シューベルトは殺人犯ではないとあたりをつけた。
Q:ヨハンが犯人ではないと考えられる理由は?




