問題篇
「それでは先ほど犯行が起きたとき、この道を通ったのはあなた達だけなのですね」
街頭に設置された防犯カメラを見上げる桜子。
「ええ。俺は、ちょうどこの先にある友人の美容室に寄っていました。ったく、髪も髭もきれいさっぱりになったときに傷害事件の犯人扱いなんて」
黒髪を短く刈り込んで顎のつるりとした男性は、気分を害したように吐き捨てる。
「僕は、ここを真っ直ぐ進んで左に曲がったところにある花屋でお見舞いの花を探していました。店員にすすめられてトルコキキョウって花を注文しました。なんなら直接お店に行って訊いてみてください」
栗毛頭の青年は、己の無実を主張するように両手を大きく広げてみせる。
探偵事務所の助手を務める桜子は、プライベートの出かけ先で偶然事件の現場付近に居合わせた。買い物帰りだった主婦が、何者かに襲われ財布を奪われそうになったのだ。
「この道は大通りに抜けられるので、犯人が引き返す様子はカメラには映っていないでしょうね」
「防犯カメラも大して役に立たなかったってことか」
黒髪の男性が鼻を鳴らす。だが桜子は首を横に振ると、
「監視カメラの力を借りずとも、私には怪しい人物の見当がついています。おそらく――」
「――私も同じように推理したよ。お手柄だったね、桜子さん」
私が差し出したココア入りのマグカップを、桜子さんは笑顔で受け取った。
Q:桜子さんが怪しんだ人物とは?




