問題篇
「僕も、ワインが似合う大人の男になりたいです」
三宅巡査は白い息を吐き出す。ダッフルコートがよく似合う彼は、大人の男より大学生の風体だ。
私は今、三宅巡査とともにバーへ向かっていた。強盗殺人事件の犯人が潜伏していると警察に匿名のタレコミが入ったのだ。
「バー『三神』。洒落た外観ですね」
イギリスで見かけるようなガス燈が店の看板を照らし出している。優雅なクラシック音楽のBGMに耳を傾けつつ、私はカウンターでグラスをせっせと磨いているバーテンダー服の男に声をかけた。
「赤ワインで飲みやすいものはあるかな」
つるりとした顎のバーテンダーは手際良くワインボトルとグラスを準備する。
「メルローはいかがでしょう。フランスのボルドー産、なめらかな口当たりと豊かな果実味が楽しめワイン初心者にもおすすめです」
飲み口の部分が広めのワイングラス2つを、私と三宅巡査の前に差し出す。バルーン型の丸みを帯びたグラスに、血のような色合いの赤ワインがなみなみと満たされた。グラスの長さが短いので、少量でもたっぷり注がれているように見えるのだ。若巡査は「これがよく耳にするボルドーのワインか」と感嘆の声を上げる。
「なるほど。タレコミの信憑性はともかく、偽のバーテンダーに接客されては黙っていられませんね」
バーテンダーはさっと顔色を変えた。
Q:「私」がバーテンダーを偽者だと見破った根拠は?




