問題篇
「人間の群れの中で生活していると、知らずのうちに心がささくれ立っていく。そんなときはどうすれば良いか? 簡単さ。人間のような邪心を持たない動物と触れ合い心を癒すんだ」
舞台セリフのように揚々と語るロバート陣内を、私はまじまじと見やる。
「お前はストレスなんかと無縁だと思っていたがな。で、今回はどこへ飛んだんだ」
「羊と自然の国ニュージーランド……なんだが」
なぜかしょんぼりと俯く陣内。空のワイングラスを玩びながら唇を尖らせる。
「タイミングが悪かった。日本を飛び立ったのが先月の8月だったんだが、南半球のニュージーランドは冬真っ盛りだ。クライストチャーチという地域の牧場に羊を見にいったが、ほら、羊は寒い冬には放牧されていないんだよ。小屋に引きこもっていてな」
「じゃあ、草原に羊の群れがわんさかいる光景は」
「残念ながらお目にかかれなかったのさ。季節が逆転していることを失念していたよ」
陣内のジャケットの襟首についた白い毛を摘み、それを観察しながら私は言った。
「そろそろ作り話も終わりにしようぜ。お前はニュージーランドに行ってきたのか、それとも国内旅行で羊と触れ合ってきたのか?」
Q:「私」は陣内の話のどこが嘘だと見破ったのでしょう?




