問題篇
「た、大変だ! 道明寺さんが、道明寺さんが玄関で倒れている!」
老紳士の叫び声に、屋敷の滞在者が一斉に集合する。荘厳な玄関ホールのど真ん中で若い男が仰向けに転がっていた。とうに息はしていない。
「道明寺さん。どうしてこんな」
パーティの主催者であるタキシード姿の男は、膝からがくりと崩れ落ちた。
「見てください。首筋に何かに噛まれたような痕が」
医者を名乗った男が道明寺の亡骸を調べている。白い首筋に、僅かだが噛み痕のようなものが残っていた。
「吸血コウモリの仕業だ」声を震わせる主催者に、医者が怪訝な顔を向ける。
「この屋敷には、吸血鬼とその遣いである吸血コウモリが住んでいたという伝説があるんです。貴方たちも屋敷に着いたときに見たでしょう。建物の周辺を飛び回るコウモリの群れを」
「たしかに見ました」老紳士が頷く。
「待てよ、じゃあ屋敷の中に彼を殺したコウモリが侵入しているってことか」
さっと顔色を変えたのは、銀縁眼鏡がよく似合う製薬会社の若社長だ。
「大変だ。屋敷の中を調べてコウモリを追い払わないと。それから屋敷中の戸締りを厳重に行わなければ」
玄関に立ち尽くしていた人々は一斉に散り、恐ろしい人喰いコウモリの襲撃に備えた――。
「ダメだな。それじゃあ殺人鬼と一緒に密室に閉じこもるようなものだ」
暇つぶしにサスペンスの邦画を観ていた私は、そんな感想を呟いた。
Q:「私」が道明寺の死を殺人と疑った理由は?




