問題篇
「大葉房江の遺体はこのリビングで見つかりました。毎日弁当を届けに来る弁当屋の娘が、玄関に鍵がかかっていないのを不審に思い中へ入り、背中をナイフで刺され倒れている被害者を発見した」
三宅巡査の話を聞きながら、私はリビングの窓から庭へ降り立った。鉢植えに咲いた色鮮やかな朝顔は、まさに夏の風物詩である。
被害者が死亡直前に会った人物は3人。3日前、息子の幹也が生活用品を届けに来た。弁当屋の娘が前日に弁当を届けた。そして2日前に保険営業員の西﨑という男が保険の勧誘に訪れた。
「保険の営業というと良い顔をしないお客様もいますが、大葉さんは丁寧にお菓子まで出して、笑顔で私の話を聞いてくれて……本当に優しい人でした。庭で咲いていた可憐な朝顔が印象的でしたね。大葉さんに会ったのは、その一度きりです」
西﨑は無念の思いを吐露する。彼の聴取を三宅巡査に任せ、私は隣に住む老人に聞き込みを行った。
「保険営業の男ね。うちにも来たよ、昼の3時くらいだったな。この日照りの中、スーツをきっちり着込んで大変そうだった」
「大葉さん宅の庭にある朝顔の鉢植えですが、あれはいつもあの場所に?」
「そうだよ。よく朝顔に話しかけていて、寂しかったんだろうな」
私は篠田警部に電話をかけ、4日前から昨日までの気象情報を調べてくれと頼んだ。間もなくして、警察は大葉房江殺害の容疑で西﨑を逮捕した。
Q:「私」が西﨑を疑った根拠は?




