問題篇
とあるビルの3階、テナント募集中の空き部屋で撲殺体が見つかった。私は篠田警部に呼び出され、土曜日の昼下がりに血なまぐさい現場へ駆けつける。
「3階のオフィスの従業員が、階段を駆け上がる怪しい人物を目撃しています。髪を背中まで伸ばした女で暗い色のスカートを着用し、スカートから伸びる引き締まった脚が印象的だったと。ただ、この証言を信じていいものか」
警部が半信半疑である理由はすぐ理解できた。事件当時ビルの4階以上にいたのは、デザイン事務所で休日出勤をしていた堂島と名乗る男のみだったのだ。捜査員がビル内を隈なく捜索したが、女の痕跡はどこからも発見できなかった。
「休日真面目に働いていただけなのに殺人事件に巻き込まれるとは」
黒い薄手のコートを着こなした堂島は、皮肉を垂れる。ざんばら髪が妙に似合う垢抜けた雰囲気の男だ。
「女の痕跡といえば、女子トイレにはそれらしき物証は残っていないのですか」
篠田警部は肩を小さく上下させ、
「3階の女子トイレからは剃刀、綿棒、歯磨き粉が見つかっていますが、普段は女性社員もいますからね」
「そうですか……ところで堂島さん。あなたの事務所にハサミは置いていますか」
「ハサミ? ええ、ありますけど」
不思議そうな顔をする堂島をひたと見据える。
「堂島さん。今回の事件について何か我々に隠してはいませんか」
堂島の顔がさっと青ざめた。
Q:私が堂島を怪しんだ根拠は?




