問題篇
「聞いてくれ、探偵野郎。今の俺はとてもツイているんだ」
ロバート陣内が夜のバーに私を呼び出した。愛用している色褪せたコート姿の私とは対照的に、陣内はいかにも高級そうなスーツに身を固めている。
「どうした、その格好は」
「最近、臨時収入があったのさ」
カウンター席に坐り、グラスに注がれた赤ワインをうっとり眺めながら陣内は語り出す。
「この前、ちょっとした用があってアメリカに行ったんだ。そこで知り合った地元の奴らに誘われて、初めてクラップスをやったんだが」
「クラップスって、カジノの一種の?」
「そう。その日の俺は、カジノの女神にとことん愛されていた。初心者にもかかわらず、俺は参加者の中で最高額の賞金を手に入れたのさ。特にゲーム終盤の緊張感はたまらなかった。俺はエニークラップスという賭け方をしていたんだ。サイコロ2個の合計が2、3、12のいずれかであれば勝ちなんだよ。テーブルに落ちたサイコロが2つの赤い目を出した瞬間、俺の勝ちは確定した。あのときの盛り上がりは、今思い出しても震えてくるよ」
両肩を大袈裟に上下させる陣内に、私は「ふうん」と相槌を打ちながらウイスキー入りのグラスを傾ける。
「自慢話は結構だが、少なくともお前の羽振りが良いのはカジノのお陰ではなさそうだな。そもそも、お前はカジノになんか行っていないんだろう」
「ばれたか」
Q:なぜ「私」は、陣内のカジノの話を嘘だと思ったのでしょう?




