問題篇
主不在の探偵事務所で年末の掃除をしていた桜子は、デスクの上に置かれた封筒に目を留めた。
「これ、所長の筆跡だわ。しかも、私宛てになっている」
封を切ると、1枚の便箋と小さなメモ用紙が出てきた。達筆だがやや癖のある字で書かれた中身を、桜子は読み上げる。
「私は年末年始の休暇で事務所を不在にする。ついては、桜子さんへ課題をひとつ。休暇の合間の暇つぶしにでも解いてみてくれ。休み明けに解答が聞けるのを楽しみに待つ……所長の茶目っ気かしら」
桜子は、同封された便箋に目を通した。
「マグレ警部、大変です!」
「何だね、騒々しい」
「プレハブ小屋でヤマダという男の射殺体が発見されたのですが、その現場が完全な密室だったのです」
「何だと」
「司法解剖の結果は明らかな他殺なのですが、現場は出入口のドアも、窓も内側から施錠されていました。外から細工をして鍵をかけた形跡もなし。部屋の中には抜け穴の類も存在しません。こんな状況ってあり得ますか」
「ふうむ」
「こんなことができるなんて、犯人は忍者か何かですかね」
「馬鹿者、そんなことがあってたまるか。何かあるはずだ、犯人が我々を欺くために仕掛けた罠が……」
「これだけで密室の謎を解けというの? 所長も随分強引ね」
掃除を再開しながらも、桜子の頭の中は課題のことでいっぱいだった。
Q:ヤマダを殺害した犯人はいかにして密室を完成させたのでしょう。




