問題篇
評論家の三田慶彦が自宅の書斎で死亡しているのを、通いの家政婦が発見した。三田は書斎の机で絶命しており、右のこめかみから銃弾が打ち込まれていた。使用したと思われる拳銃は、机の右下に転がっている。
「これから自殺しようという人間が、次に出版する本の原稿をせっせと執筆しますかね」
机上に広がる書きかけの原稿用紙の束に、篠田警部は猜疑の目を注ぐ。警部の言葉につられ、私も机の上を眺め回した。そこへ三宅巡査が戻ってくる。
「警部、被害者の右手から硝煙反応が出ました。現場の状況からみても、自殺の線が濃厚ですね」
「焦りは禁物だ、三宅巡査。遺体について他に補足することはないのかね」
警部の一喝に、若き巡査は肩を竦ませる。
「そういえば、被害者の右手の人差し指に切り傷が残っていました。絆創膏が巻かれていたので剥がしてみて分かったことですが」
「ここにカッターがありますね」私は机の左端に寄せてあったペン立てからカッターを抜き取り、篠田警部に渡す。
「ところで警部。被害者に射撃の経験はあったのでしょうか」
「私も気になって家政婦に訊ねましたが、本人からそのような話は聞いたことがないと」
「そうですか……警部のおっしゃるとおり、本件を自殺で片付けるのは時期尚早かもしれません」
三宅巡査が「なぜですか」と素っ頓狂な声を上げた。
Q:「私」が三田の死を自殺ではないと疑っている根拠は?




