問題篇
「では、ドアを壊して最初に部屋へ突入したのが銀鏡さん。その次が塩谷さんだったのですね」
篠田警部の問いに、白衣姿の男2人が頷く。大柄で屈強そうな男が銀鏡鉄也、黒縁眼鏡にスレンダーな体形のほうが塩谷水斗。彼らは、被害者である河西宗次の助手を務めていた。河西はその方面では有名な化学者だったのだが、密室状態の書斎で刺殺体となって見つかったのだ。
「遺体はデスクの椅子の下に倒れていた。銀鏡さんは遺体の脈を確認されたということですね」
「はい。そのとき、この部屋の鍵が遺体の下敷きになっているのを見つけました」
「この部屋の鍵は、博士が所持しているその1本のみです」
塩谷の補足に、警部は渋面をつくる。事情聴取はひとまず彼に任せることにして、目下私の任務は、被害者が残したと思われるダイイング・メッセージの解読だ。デスク上のノートパソコンは電源が入ったままで、被害者は絶命する前に付箋機能を呼び出しそこに謎めいた言葉を打ち込んでいた。
ちき はい
化学の専門用語だろうか。仮にそうだったとしても寡聞にして知らない言葉だ。ちき、はいの間のスペースは、恐らくここで区切れという意味なのだろうが。
「待てよ。もしかして被害者は……やはりな。となると、犯人はあの男だ。密室も、罪を逃れるための工作だろう」
パソコンをちょっといじった私は、ひとりほくそ笑んでいた。
Q:ダイイング・メッセージを解読せよ。




