問題篇
「私、見たんです」
錆びた螺旋階段を上りながら、女性は声を潜める。
「最上階の窓から、首を吊っている人の赤い影を」
「本当なの、頼子? 見間違いじゃ」
念を押すような口調で問う桜子さんに、頼子嬢は「ほんとよ!」と声を荒げる。
「まあまあ、落ち着いて……ここが最上階ですね」
巷では「幽霊塔」と呼ばれているこの小さな塔は、その昔、軍の見張り役が使っていたものだという。こうした場所にはありがちなことだが、塔の最上階で退役軍人が首吊り自殺を図ったという噂がまことしやかに伝えられているとか、いないとか。
「しかし、首を吊るようなところといえばあの電灯くらいですよね。とてもロープを投げて届くような高さではない」
最上階の足場から天井にぶら下がった電灯まで、ざっと10メートルの距離がある。プロのカウボーイでもあの電灯にロープを引っかけるのは至難の業だろう。
霊が見えた窓は、塔の外壁に四角い穴をぶち開けただけの粗末なものだった。窓の反対側には薄汚れた白い壁。穴から顔を突き出すと、底なし沼のような果てない闇が下界に広がっている。
「やっぱり、あれは退役軍人の幽霊よ。この世に未練があって、成仏できずに塔を彷徨っているんだわ」
顔を蒼白にする桜子さんの友人に、私は苦笑を噛み殺す。
「頼子さん。これはほんの子ども騙しですよ。赤い影の霊なんて存在するわけがない」
Q:首吊り幽霊の正体を暴いてください。




