問題篇
金曜日の昼下がり、とあるマンションの一室で刺殺体が見つかった。第一発見者の女性は、被害者である高井正哉の恋人だという。
篠田警部に呼び出され現場のマンションに向かった。駐車場の一角の、白線をはみ出しそうな斜め具合で停められた車を横目に建物の中に入る。
「仏さんは右のわき腹をナイフで一突き。死亡推定時刻は昨夜20時から22時といったところだ」
渋沢検視官の説明を聞きながら、室内をざっと見渡す。特に荒らされた形跡はないが、私の目は南の壁に据え置かれた机に留まった。机の左横の棚にはオーディオセットが置かれている。
「被害者は音楽を聴くことが好きだったのか」
よく手入れされたオーディオ機器を前に呟く。机上も整頓されていて、ペン立てにはノック式のボールペンばかりが収まっていた。
間もなく姿を見せた篠田警部に、私は軽く頭を下げながら訊ねる。
「第一発見者の女性から、有益な証言は得られましたか」
「花菱警部補が相手をしていますが、恋人の死を前にすっかり取り乱していて」
「そうですか。ところで警部、その恋人だという女性に訊いてほしいことがあります。そして、そのときの彼女の反応を注意して見ていただきたい」
篠田警部にあることを耳打ちする。警部は両目を丸くして私を見やったが、無言で頷くとさっと部屋を後にした。
Q:「私」は、第一発見者の恋人に何を訊くよう篠田警部に頼んだのでしょう?




