クロノスタシス
夕日が窓から射し込み、外からは部活に精を出す生徒の声が聞こえる。自分以外に誰もいなくなった放課後の教室に一人、田中は壁に掛けてある時計を眺めていた。
そこへ、部活を終え教室に戻ってきた鈴木が、田中の姿を認めると、意外そうに声を掛けた。
「なんだ、田中まだ残ってたんだ。丁度いいや、一緒に帰ろうぜ」
「…ああ」
田中は壁時計から視線を外さず、何かを考えている様子で返事をした。そんな田中の様子に、鈴木は思わず聞いた。
「おい、どうかしたのか?」
「ああ、そうだな…。あのさ、いきなり変な事聞くけど、時計の秒針が止まって見える事ってないか?」
鈴木は確かに変な質問だなと思いながらも答えた。
「あるよ。時間を確認しようとして時計を見ると止まって見えるアレだろ? 俺もよく知らないけど、確かクロノスタシスって目の錯覚らしいよ」
「…ふうん、目の錯覚ねえ」
「そんな事より早く帰ろうぜ」
「…」
鈴木の言葉に田中は答えず、やはり壁時計を見続けている。
「…おい田中。…田中? 田中!!」
少し声を上げ呼び掛けた鈴木の声に、田中は我に返り、
「…ごめんごめん、何だっけ?」
と謝った。明らかに普通ではない田中の様子に、鈴木は心配そうに言った。
「お前大丈夫かよ、しっかりしてくれよ。まるで時間が止まっているようだったぜ」