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俺の真の力

「女神……お前……」


 間違いない。

 目の前にいるのは俺をこの異世界に引き込んだあげくちょいちょい出てくるあの女神だ。

 基本的に女神はオープニングで出てきたら、その後一切登場しないものなのになんなんだこいつ。


「ふふ、私に何か言うことあるでしょ?」

「ヒーラーの可愛い子はいつになったら登場するんだ?」

「それ今する話じゃないよねぇ!?」


 俺と会話をしている間にもギュンターは大剣で切り込んでくる。

 しかし女神はそれを軽く受け流しては鋭い突きを繰り出す。


 よそ見しながらだぞ?

 もう女神が魔王倒せば良いんじゃないか。


「クソがっ! なんで女神が人間の争いに手を出しやがるんだ! ルール違反だろうが!」


 ギュンターが怒声と共に大剣を振り下ろす。

 女神はそれを華麗に身体をひるがえして避けると、槍の穂先をギュンターの首下に突きつけた。


「人間の争い?」


 澄んだ、それでいて透明感のある声。

 俺と話してるときのふざけた感じが一切ない声。


 ちょっとこの声でなじられたい。

 踏まれながらなじられたい。


「私が気づいていないとでも思って?」


 女神の表情が急に真剣になった。

 対照的にニヤリとするギュンター。


「ほう……」


 女神の頬に冷や汗が一筋流れたのが見えた。


「ばれちまってるなら隠すこともないわなぁ!」


 咆哮と共に衝撃波が森を駆け巡る。

 俺は思わず女神の背中に隠れてしまった。


 鉄がきしむような、骨の折れるような、得体の知れない音が鳴り響く。

 びりびりとした空気が周囲に張り詰める。

 たなびく女神の髪が美しい。


「これは……想像以上の大物かもしれないわね」


 ぽつりと女神がつぶやいた。

 背中越しにこっそり様子を伺うとそこには異様な光景が広がっていた。


 黒い針のような体毛で覆われた筋骨隆々の腕。

 厚い皮膚で覆われた象のように太い脚。

 頭の上に大きく生えている二本の角。


 これはドワーフではない。

 化け物だ。


 奴はゆっくりと口を開くと、地底の底から響くような声を出した。


「魔王ヒンメル様の四天王の一人、ギュンターとは俺のことだ」

「四天王? ふつうそういう大物は物語の中盤から終盤に出てくるものだろ!」

「貴様の言う物語がどんなモノか知らんが、厄介なやつは早々に刈り取るのが当然だろう?」


 くっ、ぐうの音も出ないほどの正論だ。

 なんでアニメやゲームの悪者は主人公の成長を待ってくれるんだろうな。


「マサオ……よく聞きなさい」


 かすかに女神の声が震えてる気がする。


「私の力では恐らく勝てないわ。あなたの力が必要なの。だから――」


 そこまで言いかけたときだった。

 ギュンターの太い腕がうなりをあげながら女神に襲い掛かった。

 女神はすんでのところでそれを避けると目にもとまらぬ速さで槍を繰り出した。


「やったか!?」


 思わずそう叫んでしまった。

 女神の槍がギュンターの胸を貫いたように見えたからだ。


 だが、胸騒ぎがする。

 やったか!? と言うと大体やってないもんだからな。


「ん~? ハエでも止まったかあ?」


 ギュンターは槍を掴むと、女神ごと持ち上げて地面に叩き付けた。


「あぁっ! くぅ……」


 苦悶の表情を浮かべる女神。

 余裕の笑みを浮かべるギュンター。


 ウソだろ。

 あんなに強かった女神がまるで相手になってないじゃないか。


 こんな化け物相手に俺がどうしろって言うんだよ。


「マサオ、早く……!」

「何をすれば良いんだよ!」

「剣を――」


 そこまで言いかけた女神の首をギュンターの右手が捉えた。


「やめっ……あっ、んん……くっ」


 仰向けのまま足をバタバタさせて抵抗する女神。


 このままでは女神がやられてしまう、そう思った瞬間だった。

 ギュンターはなぜか手を離して女神を解放した。


「げほっ、ごほっ、な、なんで……」

「へっへっへ、生かさず殺さず何度も絞めてやるよ。俺はそれが大好きなんだ」


 舌なめずりをしながら手をすり合わせるギュンター。

 よほど興奮してるのか俺のことは完全に眼中にないようだ。


 こいつやばい趣味してやがるな。

 これに比べれば俺なんて正常の中の正常だよな。


「剣を取って! 早く!」


 剣? 剣を取れ?

 あたりを見回すとプリンの聖剣が目に入った。


 そうか、危機に直面することで俺の真の力が解放されて聖剣を扱えるようになるということか。

 ここから俺の異世界無双がはじまるってわけだ!


 俺は素早く聖剣を手に取るとギュンターに向かってかっこよく切り上げた。


「これでも喰らえぇえええええ!」


 刀身から青白い光波が飛び出し、辺りを巻き込みながら地面を走っていく。

 女神に気を取られていたギュンターは、一瞬それに気がつくのが遅れた。


「ば、馬鹿な! お前のどこにこんな力が!」


 光波に飲み込まれたギュンターは断末魔を上げながら消え去った。

 後に残されたのは服の裾が少しはだけた女神の姿。


 ちょっと見えそう。


「マサオ、きっとあなたならやってくれると思ったわ。魔王とかどうでもいいから私と一緒に暮らしましょう」


 こうして俺は女神とラスとエミーと一緒に新たなハーレムメンバーを探す旅に出たのであった。


 ――と、なる予定だった。


「何も……起きねぇ……!」


 そこにはただ聖剣を素振りしただけの哀れな俺の姿があった。

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