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楽しい楽しい設定を考える時間

 三つだけ好きに。これはとても重要なことだ。

 この設定次第で俺の異世界ライフはバラ色になるか絵具のバケツの水色になるか決まると言っても良いだろう。


「なんでも自由なのか?」

「ジョーシキの範囲内なら大丈夫よ」

「何言ってんだこいつ、異世界に常識とか持ち込むなよ」

「……キミ、その思ったこと口にする癖やめた方が良いよ……」


 異世界の常識って言われてもなぁ。

 一つ一つ確認して探ってみるしかないか。


「弓使いにしてくれってのは可能なのか?」

「もちろんオッケーだよ」

「その場合は当然イケメンになるんだよな?」

「なんでそうなるのよ」

「異世界で弓使いって言ったらみんなイケメンだろ、常識ないのかよ……」

「……」


 女神は少しイヤそうな顔をしながら例のスマホを取り出すと耳にあてた。


「……あ、もしもし、はいお疲れ様ですぅー」


 女神も電話するときは母さんみたいに少し高いトーンの声になるんだな。


「はい、それで人間の要求なんですけどぉー……えぇ、弓使いの設定にしたらイケメン成分もついてくるのかってぇ……はい、弓使いですぅー……え? そうなんですかぁ? わかりました失礼しますぅー」


 露骨に語尾がかわってることに少しイラッとくる。

 俺にもその猫撫で声で対応しろ。


「弓使いにすれば自動的にイケメンになるみたいよ」

「その場合消費する設定は1つだよな?」

「えぇ、そうみたいね……それじゃまず弓使いになるで良いのね」

「いや、良くないけど」

「え」

「例として聞いただけだし」

「えぇ……」


 困惑している女神には悪いが、これで道筋が決まった。

 それはできるだけ上位互換になるようなものを選べばお得だということだ。

 力持ちを選ぶよりも上位互換の戦士、炎魔法の使い手を選ぶよりも上位互換の賢者、イケメンを選ぶよりも上位互換の弓使いと言った具合だ。


「待てよ、じゃあこれ最強なんじゃ?」


 すばらしい閃きが俺の脳内を駆け巡る。

 まさに天啓。まさに悪魔的発想。

 イケメンであり優れた剣士であり魔法も使えて実質最強に近いチート設定があるじゃないか。


「女神よ……我が願いを一つ叶えさせてやろう」

「なんなのその急に上から目線」

「俺を勇者にしてくれたまえ」

「もうやだこの人間」


 女神はため息をつくとスマホに何か入力しようとし……手をとめた。


「ユーシャって何?」

「は?」


 勇者なんて義務教育で誰でも習うだろ。


「勇者知らないってマジ?」

「し、知ってるわよ!」

「どーんな漢字でー書くんでーすかー?」

「ううぅぅ、腹立つぅー」


 反応がちょっと面白い。

 このまま女神をいじっても良いが、俺はとても寛大な男だからな。

 助け舟を出してやろう。


「しょーがない女神だな、勇敢な者って書いて勇者だ」

「えぇーっと……ユ・ウ・カ・ン……」

「勇者ってのは物理も魔法も得意で光と闇があわさり最強で」

「ちょ、ちょっと待って! ……モノってどういう漢字?」


 あ、この女神ただのバカなんだ。


「忍者のジャな」

「あー! 忍者ね! 忍者! わかるわかるニンニン!」

「お前その欄に忍者って入力するなよ」

「わ、わかってるわよ、失礼ね」


 とにかくこれで俺は勇者として異世界に降り立つことができる。

 能力・容姿・地位的にはこれで問題ないな。さて次の設定だが……。


「転移先の異世界って独自言語なのか?」

「えぇ、そうね。日本語とか英語とかではないわね」


 ここで異世界言語系のスキルを選択するのは素人だ。

 言語が理解できるからと言ってコミュニケーションが取れるとは限らない。


 そう、忘れもしない……あれは去年の文化祭の打ち上げに強制参加させられたときのこと。

 六時間四十四分で俺が発した言葉は「え?」「あ、他の席あいてなくて……へへ」「あつっ」だけだった。

 いっそ言葉が通じない方がマシだったと思う。


「お前とはこうやって会話できてるけど、言葉が通じるのに話せないのってきついんだぜ」

「私と会話できてるつもりだったのに驚くし、ナチュラルにお前って呼ぶのね」

「だから俺は抜群のコミュニケーション能力を要求する。ドゥーユーアンダスターン?」

「私はあなたとのコミュニケーションを拒否したい」


 これで俺は能力・容姿・地位に加えてコミュ充が約束されてしまった。


「さて、設定はあと1つだけど……どうするの?」


 残り1つ。これは慎重に考えなければいけない。

 俺はいつもこういうところでの詰めが甘い男だ。


 そう、忘れもしない……あれは小学五年生のときのこと。社会の授業で都道府県をすべて書かせるテストが出た。暗記にかけては俺の右に出るものはいない。だが自信満々で提出したテストが返却されたとき、俺は絶望した。


――何点だったと思う?


 二点だ。百点満点中二点だ。何かの間違いかと思って俺は教師に詰め寄った。すると教師はテスト用紙の一部分を黙って指さした。


 都・道・府・県も忘れず記入すること。

 埼玉県が正解で埼玉は不正解だってことだ。クソが!

 結局俺は北海道以外すべて間違えて二点で終わったのだった。


「ちなみに配点は島根と鳥取が五点で他は全部二点だった」

「どうでも良いけどキミ早口だよね」

「へへ……そう言われたの初めてで嬉しいかも」

「ほめてないほめてない」


 異世界でもお金は大事だよなぁ。

 最初からお金持ちという設定にするか……いや、お金をいくらでも稼げる設定の方が上位互換か?

 成長率をあげたり不死身になるっていうのも悪くないな。

 ここは時間をたっぷり使って最善の選択をしな


「ヒーラーの可愛い子と旅したい」

「はいはい、ヒーラーの……」


 くてはいけないな。

 あ、待てよ。最初から伝説の装備を持ってるなんてのも良いな。

 そうすれば装備にお金かからないし実質不死身みたいなもんだし。


「カワイ……イコ……」


 ……。


 ん?


「……送信っと!」

「ま、待て! 今のは心の声だ! 取り消せ! 取り消してください! なんでもしますから!」


 俺の言葉を聞いた女神はニヤリと笑うと右手を高々とあげた。


「もう送信しちゃったもんねー! 1名様異世界にごあんなーい!」


 女神が右手を振り下ろすと強烈な光が部屋中にさしこんできた。

 あまりのまぶしさに目を開けていることができない。

 急激に意識が落ちていく感覚。


(あ、これ電車の中で寝そうで寝られないときのやつだ)


 そう思ったとき、俺は完全に落ちた。

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