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ああ、哀れなバルトロメウス!

 王国に帰還した俺たちは、ゴブリンのことを報告すべく冒険者ギルドに真っ先に向かった。

 ギルド員のアンナと十年間を無駄にしたバルトロメウスが相変わらず話をしている。


 筆頭軍師の仕事ってのはアンナと話すことなのか?

 俺もそんな仕事したいです。


「あ、マサオさん! ご無事だったのですね!」


 アンナが俺に気づいて声をかけてきた。

 バルトロメウスも振り返って手をあげる。


「当然さ、だって俺はマサオさまだぜ!」

「はい、それはわかってます。それでオンセーン村はどうなりました?」


 アンナちょっと冷たくない?

 あまりにも事務的対応すぎない? 事務員だけども。


「えーっと、そもそもゴブリンたちは温泉に入りたいだけで……あ、オンセーン村には温泉があるんだけど。そうそう、その前にゴブリンたちと遭遇して戦ったらラスが素手でなぎたおして、そんでしゃべる馬が」

「ちょっと何を言ってるのかわかりませんね……」


 クソっ! 俺に状況説明なんかできるわけないだろ!

 そういうのが一番得意そうなのはプリンだが、こいつの言葉は俺しかわからないしな。

 ラスは明らかにしゃべるの苦手そうだし……。


「ゴブリンたちとは和解しました。そもそも彼らはオンセーン村を攻めたのではなく温泉に入りたかっただけなのです」


 ウソだろ、めっちゃしゃべるじゃん。

 え、なんでラス俺とはしゃべってくれないの? 好きだからなの?


「ゴブリンと和解……どういうことでしょう?」

「詳しくはゴブリン王に直接尋ねた方が良いと思います」

「ふむ、その件は冒険者ギルドの手に余るだろう。私から使者を向けるとしよう」


 バルトロメウスまで加わって、俺を置いて話がどんどん進んでいく。

 修学旅行で班ごとにわかれて行き先を決める時の感覚に非常によく似てる。


「オンセーン村からゴブリンが撤退したことは確かなようなので、とりあえず報酬はお支払いしますね」

「金貨五十枚くらいか?」

「いえ……銅貨二百七十枚となります、はい」


 多いのか少ないのかわからん。

 銅貨二百七十枚の価値ってどんくらいなんだよ!

 一度市場などで物価を確認しないとダメそうだな。


「そういえばバルトロメウスよ、この剣についてなんだが」

「ん?」

「光と闇の魔法が込められてるらしい、なんかわかるか?」

「どれどれ、ちょっと貸してごらん」


 バルトロメウスは聖剣を受け取ると宝石と柄を丹念に調べ始めた。

 所詮ラス以下の魔法しか使えないバルトロメウスのことだから当てにはしていないが。


「うーん、確かになんらかの魔法がかかってはいるようだけど良くわからないな」

「だと思ったよ」

「いやいや、マサオくんちょっと待ちたまへ」


 そう言うとバルトロメウスは聖剣の刀身部分を得意げに指さした。


「これを見てもらえるかな?」

「指の皮膚がささくれてるな、むしったら痛そう」

「刀身を見てもらえるかな?」

「なんか記号みたいなのが書いてあるな」

「その通り!」


 なんでいちいち両腕を広げて話すんだろう。

 こういう英語教師っているよな。


「これは古代文字と呼ばれているものだよ。これによるとこの剣は二千年前に鍛えられたもので……先代勇者の魔力が込められて……えぇっ!?」

「バルトロメウスさま、これってもしかしてあの……!」

「間違いない、私の祖父ウォルフガングが使った聖剣だ!」

「行方不明になってから王国が総力をあげて捜索して見つからなかったアレですね!」


 総力あげて捜索とかぜってーウソだろ。

 となり村の温泉で台座に刺さってたぞ。


「これを持ち帰ったということは、やはりマサオくんは勇者なのか……?」

「いや、それがこれを入手して使いこなしたのはプリンなんだよな」

「プリンくん?」


 バルトロメウスが俺の足元でじっとしてるプリンを見つめる。

 その後、聖剣に視線をうつしてから俺を見る。


「あっはっはっは! マサオくんも面白い冗談を言うようになったね!」

「冗談じゃないんだが」

「犬が聖剣を扱えるわけないじゃないか! あっはっは!」

『俺自身もそう思うけど、なんか腹立つな』

「ちょっとそれ返せ……よし、プリンぶんまわしてやれ」


 口で言ってもわからないなら実際に見てもらう方が早いだろ。


 プリンは聖剣をくわえると身をひるがえして剣を大きく振り下ろした。

 刀身が白く輝き、光波が斬撃にあわせて飛び出してゆく。

 それは周囲を巻き込みながら凄まじい轟音を放った。


「す、すごいです……」


 アンナが目を丸くして驚いている。

 どうだ、見たか。本当に犬が聖剣を扱えるんだぜ。


 ただ、問題はここが冒険者ギルド内だったことだ。

 そしてバルトロメウスが光の刃に巻き込まれたことだった。

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