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レベルと限界

宜しくお願いします。

 屋根裏部屋は埃っぽい部屋だった。

 窓は対向に二つ。階段から遠い窓のところの窓にはソファーが置かれており、その近くにはセミダブルほどのベッドとサイドテーブが置かれていた。

 二人で寝るには十分な大きさだったが、未だ彼女と一夜をともにしたことのない僕は、緊張をしてベッドを譲り、ソファーで寝ることにした。

 そう言ったら、彼女は不思議そうな顔をのぞかせた。


 しかし、この部屋は随分と不衛生だ。彼女は強い人だけど、生まれが高級であるためにこう言った場所ではアレルギーが起こってしまうのではないかと心配した。

 ここで眠りにつくことになる彼女にはあまりにも埃っぽい。その時、ちょうど彼女が少し汗を流してくるわと言って中庭にある大噴水まで行ったので、僕は彼女が帰るまでの間に掃除をすることにした。


 ちなみに僕は、掃除が得意で部屋のどんな汚れだって取り除けた。

 彼女が帰ってくる10分程度で、彼女が寝ても、くしゃみ一つでないだろうくらいには掃除することができた。いや、10分やそこらで掃除できるほどにこの部屋は、ベッド、ソファーとサイドテーブルしかなく手狭であり、だいたい7畳ほどの部屋であった。


 換気のために二つの窓を全開にして空気を入れ替える。

 彼女を待っている間に、ソファーで横になった。窓から見える星は、あっちの世界と大差ないと思える。だが、星に詳しくない僕でもわかる確実に違う点がある。月が二つあるのだ。

 その月を見ながら、うとうとしていると、そのままソファーで眠り込んでしまっていた。




 チュンチュンと小鳥のさえずりと清々しい空気で目が覚めた。しかし、反対になんだか息苦しいことに気がついた。胸焼けのように胸のあたりに違和感を覚えた。

 だから、何か悪いものでも食べたのかと思って、胸元を見た。

「あの……、そんなところで何をしているんですか?」

「おはよう! あのね、サトシさんがソファーで寝てしまっていたから、寂しくて……つい、そばに来ちゃったの!」

 彼女は明るく言う。本当にやめてほしい、こんなに朝早くから彼女の顔を見たことなんてなかったから、びっくりしてしまう。

 そして、確信犯であることを呆気らと言う彼女を怒ることなどできないで、はにかむことしかできないでいた。

 いや、とても可愛いのだけれど、朝のゆっくりとした鼓動に突然彼女の顔なんて見てしまったら、鼓動が速く高く跳ね上がってしまう。こんなに近いと、今、心拍音は爆音に近いと思うから、心臓の音が聞かれてしまうではないかと心配になる。

「おはようございます。そんなところでよく眠れましたか?」

「あれ? もっと慌ててもいいのに、至って冷静ね。もっと、こう、可愛すぎて胸が張り裂けそうだよとか、ち、近すぎだよ! とか言ってもいいのに」


 彼女は、オーバーに僕の真似をする。その様子を見て、それを真似るように口を開いた。

「か……、か、かぁ、かか、」

「か? かわ? かわい?」

 彼女は、僕の言葉を誘導する。

「か、か、かーーーみ切ったんですね。い、いいと思います」

 彼女は、一瞬止まった——。

「そうじゃ、ないでしょぉぉおおお!!! ちょっと、ちょっと。ええ、そうですよ、確かに髪を切ったけどね! もう! 気づいてくれてありがとうっ!!!」

 彼女の髪の毛は、昨日男に少し引き千切られたからか、まばらだった毛先を揃えるほどには、髪を切っていた。

 それよりも、彼女は寝起きであるのに、テンション高めで、彼女が少し怒っていることが少し怖い。

 いつも彼女のことをかわいいと思っているんだけど、何もないのにかわいい、かわいいということはできない。それは男としてのプライドなんていうものではなくて、ただ単に恥ずかしいというありふれた感情でしかなかった。


 足をソファーに伸ばしている僕の足元辺りに座って、なんでそうなるのぉぉぉ、と小さく怒る彼女を見た。その彼女もとてもかわいいのだけど、やはり、言えるものではないなと諦めた。

 彼女は、立ち上がった。

「牧師様が朝食をご馳走してくれるそうよ。身支度を整えて、行きましょう」

 彼女は、そういうと僕の手を握って起こしてくれた。そして、一人で、屋根裏部屋の階段を慌ただしく降りていく。

 再びソファーに座って、目を覚ますために両手で顔をマッサージする。

「さあ、行きますか」

 彼女追って階段を降りた。そうしたら、階段を降りた先に彼女が待っていた。

「遅い! 何してたの?」

「少し、考え事をしていたんです。そういえば、今日は何をする予定なんですか?」

「今日? 今日から、レベル上げよ。牧師様にレベル上げの条件を聞いてからしましょう。その前に腹ごしらえだわ。“命は食にあり”よ」

 大噴水で顔を洗い、歯を磨き、身だしなみを整えた。そして、牧師の待つダイニングへと足を運んだ。



 その時の牧師は、なぜだかエプロン姿で主夫のようになって出迎えた。

 その牧師は、違和感でしかないが、慣れればよく似合っている。

「さあ、席に着いてください。ご飯にしましょう」

 牧師に促されるままに、席に着いた。それを確認した牧師は、手を組む。

「主よ、私たちと恵ある食事に祝福を。命の糧に、体の糧になりますように。今日、食べ物に困る全ての人にもまたお恵をお与えください。アーメン」

「「アーメン」」

 牧師の言葉を続けた。食事は、会話の中で行われる。静かな食事は、味気なさをもたらし、食への感謝を与えないと牧師はいった。

 彼女は、その言葉を聞き、いや、別に彼女は、その言葉がなくても、会話をしていただろうが、彼女は話題を出す。

「牧師様、レベルについて教えてください。主にその上げ方について」

「レベル上げですか……。基本的には、鍛錬でそのレベルを上げるんです。筋トレをしたり、修練をしたり、魔のモノや使途を倒したりして実経験を積んだりです。魔法や戦略の勉強なんかでも、レベルが上がったりします。まあ、普通に鍛錬ですね。レベルは、相対的評価ではなく、絶対的評価です。個体値とかありますし、レベルが高いと強いと言うことはないですね」

「え!? そうなんですか? じゃあ、レベルって一体……」

「う〜ん、レベルは、契約の一種です。自分自身の潜在能力値から100分割してレベルとして表示してくれます。つまり、レベルが高いと言うことは、自分自身をよく理解し、開発していると言うことです」

「そうなんですかあ。簡単にレベル上げとかできそうにないですね」

 牧師は、食事の手を止めて腕組みをした。なにやら、唸り、その延長で言葉を作る。

「簡単な方法は、あります。ですが、あまり実践をする人はいません。何よりもお勧めはしませんが、教えると簡単です。冒険に出ることです。それをすると、すぐにレベルは上がりますよ」


 彼女は、考えて物を言った。

「では、皆さんはなんで鍛錬をしますの? すぐにレベルが上がるのなら、その方が圧倒的にいいじゃないですか。なぜ、実践する人がいないんです?」

「それは邪道だからです。順序が逆だと言い換えてもいい。冒険によるレベル上げは、冒険者カードを持って初めて成り立つ荒技なのです。しかし、カードを持つためには、レベル上げをしなくては、お金は貯まらず、冒険者にはなれない。それが、この方法が邪道と言われる所以です」

 この会話はよくわからない。

 レベルという概念もそうだが、牧師が彼女に冒険者カードの有用性について、説明したことに合点がいった。この世界だとて、多くの仕事がある。それなのに危険性が強い冒険者を勧めた理由の一つがこれだった。


 そんな中、彼女が不思議そうな顔をし、皿にあるブロッコリーのようなものをフォークで刺した。それを口に運んで、もぐもぐと咀嚼し飲み込む。

「なんだか、レベル上げには一定の条件がないように感じます。冒険でのレベルアップなんてそうです」

 彼女の言葉に牧師は、笑みをこぼした。

「そうですね、そう考えるのも無理はありません。ですが、それは見方が固定されすぎています。レベル上げには、一定の条件が存在します。……、それは、“限界を超えること”です」

「「限界を超えること?」」

「はい。それはできることを増やすこと、識らなかったことを識ること、新しい自分の可能性を見出すことに他なりません。冒険は、うってつけなんです。”百聞は一見に如かず”なんて言うでしょ? 冒険者カードは、契約でそれを補助してくれるんです」

 と牧師は、締めくくった。


 彼女は今日の行動は、レベル上げだと言った。だが、牧師の話が本当だとそのレベル上げを行うことはできない。

 だから、難しい顔をしている彼女に聞いた。

「今日の予定はどうしますか?」

「今日から全ての予定を変更して冒険の準備をしましょう。だって、冒険に出た方がワクワクするわ。——サトシさんだってそうでしょ?」

 彼女の真っ白な頬が赤く、色づき、彼女の瞳が光を取り込もうと大きく開く。

 興奮しながら、彼女は食事の終わった皿を洗いに洗い場に向かった。

また、投稿します。明日は、難しいかもしれません。

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