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意識の指揮者

明けましておめでとうございます。

 ニコクは、嘲るように高笑いを続ける。

「やはり人間は愚か者だ。こんなことでも笑える」

「お互いにな……、我らは互いに愚か者だ」

「何を…減らず口を……。証明してもらおうじゃないか。私が愚か者なのかどうかをなッ!!!」


 ニコクが動こうとした時、その行動は止められた。それはニコクが感じた違和感だった。

 目の前の敵が自らの行動の先の先を予想した魔力の流れをしたのだ。

「ほう。動きを予想したのか。先ほどのことを考慮すれば、まあわからないことはないのが…」

無防備な意識の底に風が吹くような心地よい気分の刹那。アデルバードは、1つ欠伸をした。その完璧な隙を完全な使徒のニコクが見逃すはずがなかった。

 ニコクは脅威的な膂力を以って、地面を抉った。そして、欠伸が終わる前にアデルバードに近づいた。

 知覚が認識するよりも速くニコクは移動したのだ、つまり、ニコクは誰からの干渉を受けないことを意味していた。

「見ていないとは飛んだ大間抜けだ。その阿呆をあの世で過去の己に謝れ」

 ニコクはニヤリと笑い、

「もし、あの世があるのなら、なッ!」

 ニコクの右手が命を刈り取ろうと銃口に変形した。その口から魔力が光となり、光弾となって放たれた。光と思わしき怪しげな魔力がゆっくりと対象を包み込んだ。

 包み込んだ——。包み込んで何が起きた。いや、何も起こらなかった。対象が包み込んだ姿を見て、ニコクは勝利の笑みを浮かべたが、その期待の割に何も起こらず、目の前の対象は平然とニコクを見下すように見下ろしていた。

 さも何かしたか? とでも言いたげな表情までしていたのだから、ニコクの怒りとも驚きとも取れない表情は誰に向けたらいいのか。


「君の選択は本当に君のものなのか? そこに疑いを持つことはなかったかい?」

「何を言っているんだ……? 選択? 何を突然に!!」

 今度、ニコクはただ単純に拳を振り上げた。だが、今度もまたその攻撃が当たることなどなかった。その不可解にニコクは考えた。

「貴様、選択といったな?」

「そう、選択。君は、自分で考えて行動していると思っているのか?」

「当たり前だ! 私が私の意思で貴様たち人間を殺したいのだ」

「そうじゃない。君の行動は、君の意思に基づいているのかと言う問題じゃない。君の行動は、君が考えて選択したのか?」

「貴様こそ何が言いたい? 考えて選択だと……?」


 アデルバードは、問い始めた。

「俺は、使徒と戦ったことがある! だが、そのどれもがまだ未熟で支配されたものたちだった」

「支配だと? 私は、もはや意識の底に押しつぶされ、押し付けられていた小さなものではなくなった。この体を支配するに足る意識を手に入れ、そして動かしている」

 アデルバードは、首を横にゆっくりと振る。

「体を支配しているのは、セラームから君に変わった。そう、君は勘違いしている。君の意識が成長したのではない。セラームの意識が限界を迎えただけだ」


 そして——そう続けるアデルバードは、話の核へと迫った。


「君は迷うことなく効率的に相手を倒すことしかできない。——使徒とは、駒にすぎないのだ。へその緒につながった赤子の意識がないことと同じように君はマスターブレインの命令で動いているだけだ。そこに意志は存在しない」

 ニコクは、首を傾げた。

「つまり、君は選択しているようで、実はそうじゃない。君とて操られていることに君自身が……いや、君だからわかっていない。だから、君の行動はわかりやすく、対処できる」



 そして、ついにアデルバードが確信とも呼べるもの話す。

「使徒とは、未完成の不完全体だ。自らが別の次元に足を踏み入れたといったが、それは低次元に落ちたにすぎないんだ」


 その話に不快に思っている者がいることに気が付いている。

「貴様は、私を蔑むというのか……?」

「蔑む? 別に馬鹿にしているわけじゃない、君の気づいているない自我(マスター)が存在しているということを教えてやったに過ぎない」

「その言い草が愚弄しているというのだ!!!」


 ニコクが魔力を大きく、荒々しくした。

 アデルバードは、無駄だと言わんばかりに魔力を大きくみせた。その大きな魔力はニコクの荒々しい怒りに任せた大きな魔力とは違い、揺らぎのない魔力だった。


 その魔力は、正に聖。悪を討ち滅ぼさんが為に、強くまっすぐな魔力だった。


「君を滅ぼすことに勇気がいる。君はセラームの体だから。中身がどうであれ、それはセラームの身体(モノ)だ。それをこの手で破壊するというのは、とても勇気がいる。でも、どこからか来たわからない何かに! その体を支配されることの方が我慢ならないんだ!!」


 アデルバードは、その大きな魔力を濃密な薄い膜のように体表面に集中させて、ニコクの大きいだけの魔力に侵入した。


「馬鹿が!! この魔力の中は私のテリトリーだぞ!!」

 ニコクが合唱した。その動作が生殺与奪に対しての礼儀の所作とは、正反対に力強く握り潰すようにニコクの魔力がアデルバードに圧をかけた。

「な、なぜだ! なぜ潰れない」

 ニコクの頬を汗が伝う。

「正しい選択だ。魔力を変換せずに使用することで変換時間のロスをなくした……。だが、それもわかっていた。経験済みだ」

 ニコクは目を細めて憎たらしそうに睨んだ。

「もうおしまいにしよう。幼い君に勝ち目はない……。君は、自我と言うモノが芽生えた時に、この場から逃げるべきだったんだ……。君に意志と言うものがあるならば」

 ニコクは、逆転の一手などない状況にも関わらず、危機的状況にも笑った。


「さらばだ、人間。貴様のいうことが正しかった。だが、今はそれだけのこと」

 ニコクの最後とも取れることを聞き終えると、アデルバードはニコクの魔石を破壊しようと腕を振り上げた。

 ニコクの膨れ上がっていた魔力が大きく熱を帯びて、アデルバードを含む全てのものを焼き尽くさんがため、エネルギーを辺り構わず暴発させる。


 だが、自らも犠牲にしたニコクの破滅の攻撃は、ほんの一瞬だけ——そう、ほんの一瞬だけ意識を手放さざるを得なかった。——その一瞬を見逃さない。



「ねえ、アデル? 早くやってしまいなさいよ。私は、大丈夫だから。私たちの過ちを清算しましょう」

 一瞬の隙間を縫って出てきたセラームにアデルバードは、戸惑ったが、すぐに自分の使命に戻ることができた。

「……そうだね、セラーム。ニコクは、死ぬつもりなんてない。この爆発を使って逃げるつもりなんだね」

「ええ。ニコクは、あなたを初めて敵と認識した。そして、今は勝てないと言うことも…。彼女をこの世界に野放しにしてはダメよ」


 諭す彼女の声は、アデルバードには聞き覚えがあった。アデルバードが迷った時、彼女はいつも諭すように話してくれた。そしていつもその選択は正しかった。

 だからこそ、アデルバードは自身の迷いがわかっていた。

「タチの悪い冗談だ。こんな時にセラームの選択を聞くことになるなんて。でも、わかっているよ、セラーム。でも、この腕が動かないんだ、この手が動かないんだ……」

「迷わないでいいの。私は、いつもあなたのそばにいた。今ならそれがわかる。ただの距離ではなく、心の距離。あなたと私はいつも一緒だった」


 アデルバードは、前が見えないほど涙を流していた。

「……これからもそうかな…?」

「いつもね——だから……ほら?」


 その満ち溢れた愛とともに言われる言葉でアデルバードの涙はスッと止まった。

「わかった。けじめをつけよう」

「ええ。私たちでこの過ちに!!」


 アデルバードの魔力を纏った拳がカロリーストーンのある心臓部を貫いた。

 手のひらが捕えたカロリーストーンを握りつぶそうとする時、ニコクが意識を取り戻した。自らの胸に刺さっているアデルバードの右手を見て叫んだ。

「き、貴様ッ!! 何をしているんだあああああ!!」

「さらばだ、ニコク。もう会うこともないだろう」


 そう言ってニコクのカロリーストーンを握り潰す。パリンッとカロリーストーンが粉々に砕け散る音がニコクの体を飛び越えてあたりに響き渡った。砕けた石クズは魔力が抜けて、空に消えていく。

「いつ見ても麗しい懺悔だ……」

 カリーナがそう言ったが、誰にも聞こえるはずがなかった。

本年もよろしくお願いします。

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