揺さぶられるような人間にはなるな
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「確かに濃密な魔力だ。この私も、ここまでの魔力を喰らったの(・・・)は、久しぶり……」
ニコクの言葉に同調したのは、カリーナだった。そのカリーナがたまに見せる人間大の大きさになり、アデルバードの隣に立っていた。
しかし、サトシはその違いに気がついた。それがわかったカリーナが語りかける。
「気がついたか、サトシ。私の姿の違いに!」
サトシは少し戸惑った、その違いが自身がカリーナを使役していた時とは、まるで違う性質になっていたから。だから、感じたことをそのまま言うことで答えとした。
「…ええ、すごく圧迫されます。まるで、キャンプファイヤーの近くにいるみたいです」
少し核心に気がついたことを嬉しそうに
「なるほど、そう感じたか。その感覚になる事が精霊を“つかう”と言うことだ。お主からただ垂れ流されている魔力では、こうはいかない。だから、早く魔力の制御をものにしろ。そして、サトシの力で私の真の姿をとらせろ」
と説教とその力をみせる。
「それだけの魔力を喰らえば……」
カリーナの存在力とも言えるものが大きくなった。それは引力、それは光、それは熱、それは重さ……。確かにそこに存在する“何か”で、触れることのできない“何か”だった。
「精霊が実体化するなんて……すごい、です。……そして、なんて恐ろしいんでしょうか。認識できるのに、それが何かわからない。サトシさん、カリーナさんは“何”になってしまったんです?」
アルシアが恐る恐る言う。
「……わかりません。ふわふわしていたカリーナがとても重く感じる。僕は、今にも押し潰されそうです」
遠くから見ていた二人が口を揃えてカリーナの存在を確認した時、カリーナが少し悲しそうに口を開いた。
「私は、水で実体を象っているが、普段の精霊には実体と呼べるものがない。お化けや想像物みたいなもの。しかし、何かのきっかけがあれば、こうして世界に存在し、認識される」
それにアデルバードが付け加えた。
「そう。しかし、精霊はこの世界では大き過ぎる、大きすぎたのだ」
突然——そう突然、背後から花火が上がるようなインパクトがあった。また、そのインパクトに誰もが振り返るだろう。それは必然であり、同時に、その美しさに見惚れることも必然なのだ。
「な、なんて魔力なの。小川のせせらぎのような穏やかさと大河のような雄大さが共存している。なんて……、美しいの」
口に手を当てて、アルシアが言った。
これが精霊を使うと言うこと——魔質の変化である。アデルバードが力を使う時、扱いきれぬ魔力の放出はなく、全てが静寂する。
「だが、大いなる存在を召喚することは、魔力の操作を容易にする。それが精霊使いと言うことだ!!」
アデルバードの魔力とは、反対に大きく、ただ大きく地響きを起こしてなお、大きく膨張する魔力があった。
「私の魔力を横取りしたなああああああ」
ニコクが大きく感情と魔力を高ぶらせた。ニコクの高ぶりと呼応して、胸のうちに潜むカロリーストーンが真っ赤に輝きだし、魔力があふれ出た。その勢いのまま、地面に向けて膨れ上がった莫大な魔力を叩きつけた。
その大きな魔力が、常に魔力にさらされ続けた土地の土を変質させるに至った。
「水の精霊なら、この意味がわかるね」
嬉しそうに、意地悪そうに笑みをこぼすニコクは、その土を荒く握り取り、そのまま、ゆっくりと手のひらを傾ける。
「いい顔だ」
まるで水のように落ちていく土にアデルバードの顔が醜く歪む。
「砂にしたのか……」
ニコクの放出によって、見渡す限りの緑豊かな大地は、生物が住めぬ砂地へと変わっていた。そこには、木も草も、そして、当然に水もなかった。
尋常ならざる量の魔力によって成される地質の改変。——しかし、重要なのは、その行為がニコクにとって戦いを有利にさせるためだとか力の証明だとかではないことだろう。人間の悲痛に歪む姿が見たい、そんなただの暇つぶし程度の意味合いしかない。
ニコクは、そんな理由で草木が生い茂る緑豊かな土地を一瞬で生物が住めない死の土地に変えた。
無意味な行為をセラームはしない。
アデルバードは、ニコクが漏らす笑みでその意味を察した。
「使徒……。やはり、お前はセラームではない。あんなに優しかったセラームがこんなことをするはずがない」
その時、アデルバードが未だにセラームに囚われているのだろうとニコクは、考えた。だから、暇つぶしのように人の嫌がることをする。
「いや、私はセラームでセラームは私だ。そう思わないか? よく考えてみろ。人は、時に残酷に成れ、慣れる。この私もセラームと言う人間の一部だとは思わなかったか?」
「何が言いたい……」
アデルバードは、ニコクが言いたい事がわかっていた。だが、認めたくなく確証を得ようとする。
「人は、本音と建て前で生きる。それは裏と表があると言う事……」
アデルバードにとって、それは聞きたい内容ではなかった。——ニコクが言う内容が、己が考えては、消滅させた内容と酷似しているのだろうから——。だから、聞かないように努めようとニコクに攻撃しようとした。
しかし、その間にもニコクの言葉は続けられる。その言葉のどれもが口八丁手八丁で、その場しのぎのものでしかないと第三者は考えることができるが……。
「天使と悪魔。お前は、セラームのいい部分しか見ようとしなかったのだ。それが本当に愛だといえるだろうか」
ニコクの言葉を全て聞き入ってしまった。その全てが“あり得る”事だった。言い争いをしようにも、その言葉すら見つからなかった。——だから、アデルバードの攻撃が止まった。
考えてしまったのだ。その可能性に——。
ニコクには、こうなる事がわかっていた。だから、どす黒い笑みを内側でこぼした。
彼女は、アデルバードの様子に計画の成功を見て、さらに醜く歪む感情を見たくて、追い打ちをかけることにした。
「アデル? 私は私。嘘偽りなんてないのよ? ここにいる全てが私で、あなたの知る私は、ほんの一部でしかないの。だから、私の全てを受け入れて? ね?」
ニコクがセラームの声色で、表情で、喋り方で、マネをした。それが決め手となる。
アデルバードの手が攻撃できないと判断した。が、その攻撃は即座に放たれていた。
小さな小さな水滴の弾丸の攻撃は、ニコクのすぐそばを掠めて、どこかに飛んで行った。
「面白くなりそうなのに、勝手に攻撃をしたのか……。なんて邪魔なじゃじゃ馬なんだ」
ニコクの言葉に張り合うように、カリーナが言う。
「使徒とは、なんと狡猾な真似をするのだろうか。力ではなく、人のうちに入り込もうとする使徒がこれまでにいただろうか」
明らかに演技であると、ニコク自身が言っているようなものなのに、アデルバードは口すら動かさなかった。そんなアデルバードの無反応にパートナーであるカリーナが諭す。
「一体……、一体誰がわかるだろうか。もう、いないものの真実を。——ああ、誰もわかりはしない。わからないのだ。それなのに、お前は迷ってしまう。セラームは、変わらぬ想いをお前に見せ続けたのに、何もかもがわからなくなったか……」
そして、横目でアデルバードを見ると、彼は笑った。
「人間とは、不思議なものだな。——なあ、アデルバードよ」
アデルバードは、カリーナの言葉を無視して、無言のままだった。
これからも頑張ります!




