静かなる会議
よろしくお願いします。
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暗く閉ざされた場所で“静かなる会議”は行われる。それは誰にも知られずに、粛々と進み、大事を為す会議。そして、その特徴として少人数で行われることが多い。
今回の会議も、そう言った会議の内容になっている。
どこからともなく、暗闇の中から声が聞こえてきた。
「どちらにしても、人間は憎い。私たちを醜い姿にし、無感を貫く。ましてや、エゴイスティックな理想のため作り上げた我が同胞たちを危険だといい、殺す。——人間とは、酷く矛盾を抱えているものだ」
どこから声が聞こえてくるのだろうか。光が全くない暗闇で、胸の辺りで通称:カロリーストーンが怪しく光り、複数の存在の有無を報せてくれる。
1、2、3、4……、12。——全部で12のカロリーストーンが動くたびに、赤い線を残しながら光り輝いた。
「……全滅。それしか方法はない」
1つの血生臭い赤がそう言った。
続くように大樹のように生命力に漲る赤が言う。
「早く決着をつけたいものだ。我々もいつまで自我を保っていられるかわからん。自我を失ってしまえば、世界中に散らばる同胞は、無策に人間どもを襲うだろう。それでは、この憎しみは晴れん」
黯い(くら)昏い(くら)暗闇で、静かなる会議は粛々と進んでいく。
しかし、それはここが特別だと言うことではない。今、まさに各国で弱き人間も会議を行っている。この使途との戦闘に備えて——。
これはいわば、使徒と国の全面戦争。終結は、どちらかが全滅をするまでのデスゲーム。——デットオアリベンジ。
全滅するまで、彼らの報復は終わらない。たとえ、たった一機になったとしても……、一人でも多くの人間を殺すまで動き続けるだろう。
「そうは言っても、事は簡単には進んでくれん。奴らも、我々の殺戮に備えているのだから、このままでは、又しても、全滅が先送りになってしまう」
「そうだ……。特に、王を持つ国は、惨殺が容易ではない。攻め込むと憎っくき王ら動き出し、驚異的な強さで形勢が逆転する。あれはどうにかせねばなるまいて……」
使徒は、確かに強い。だが、それは王のなり損ないの強さにすぎない。しかし、そうはいっても、多くの一般的人間は、使徒にとって的でしかなく、羽虫を殺すがごとく、その存在を跡形もなくなくすことができる。
そして、国民たちの期待を一身に背負う冒険者だとしても、一機の使徒が相手となれば、単騎では勝つことは困難を極め、チームを組んでようやく勝利を収めることができる。——その勝利の確率は、30%。決して、高くない数字だった。
それなのに、使徒は、さらに強くなろうとしている。
「やはり、王をどうにかするとなると、カロリーストーンが要となろう。良いカロリーストーンを探したいものだ」
「カロリーストーンは、純度が重要。高純度のものでなければ、この体の本来の力を発揮できない。——魔石の力を十二分に使い、生物を超える力を振りかざす。故に、人間は怯える」
カロリーストーンは、魔石と呼ばれる魔力増強石である。その存在は、どの国でも、希少で知られている。
「否! カロリーストーンは、己が体との相性が重要である。故に体にあうストーンを探すことが必要」
と言うと、一機の使徒がそれを否定する。
「何を言っているの。カロリーストーンは、慣れが重要なのよ。どれだけそのストーンの癖を理解しているかでパフォーマンスに差が出るってことを知らないの?」
胸のカロリーストーンが熱を持っているかのように、強い赤で光出し、それに共鳴するように、奥にあった所有者不在の大量のカロリーストーンが怪しげに光る。
その石の使用について、一般的に指輪などのアクセサリーとして身につけて使用する。なぜなら、カロリーストーン、その扱いは容易ではないからだ。
特に体から離れた状態での使用——これが難儀だった。
カロリーストーンの性質として、もっとも近い魔力現象に魔力を流すと言う性質がある。だから、体から近くで使うことで、カロリーストーンに蓄えられ、増幅した魔力の受け渡しを簡単にした。しかし、毒ともなり得る魔力に常に晒され続ける事になる。
ゆえに、多くの使用者は脱着可能な形として魔石を使用した。
強い力の源となる魔石は貴重だが、決して手に入れられないというわけではない。青の国の王都でも、当然のように取引をされている。しかし、使徒たちが持っているカロリーストーンの数。それは異常とも言える数だった。
また違う使徒が胸で光るカロリーストーンに吐き捨てるように、
「カロリーストーン……。こんなものは、今すぐにでもぶち壊してやりたい」
と、生物のように唸り声をあげた。
そして、続けて、
「しかし、幾度となく繰り返された機械化の影響で、多くのエネルギーが必要となった。それは生物が生産できるエネルギー量を超え、生命維持ができなくなるほどに……。この石なしでは、命すら危うい」
また、どこかのカロリーストーンが
「ただ……生き物として死ぬことすらできぬ体にされた。ただ……死ぬことすら許されぬ体にされた。ただ……命の尊厳を奪われた。だからこそ、人間が憎い。今の私たちが命ではないかのような振る舞いを見せる人間が憎いのだ……」
と悲しげに漏らした。
1つの白色が混じる石が言った。
「皮肉なものです。こんな石で捨て去ってしまいたい体を維持させている」
また、別の使徒がいった。
「仕方があるまい。人間に復讐するためには、強き兵器が必要だ」
「それが飛んだ皮肉というのです」
カロリーストーンが強く灯った。
「ならば、貴様は人間が憎くないというのか……!?」
「そうは言っていない。私とて、人間が憎い。偶然見つけた人間にも、飛びかかってしまいたいくらいに……」
「ならば、何を迷う必要がある? 報復とは、対象に我々の悲しみや憎しみをわからせること。この無残に切り刻まれた体と心を思い知らせることに他ならない」
その時、十二の使徒は、一斉に同じ方向を見た。
視覚よって識る者、匂いによって識る者、痛みよって識る者、エネルギーの消失よって識る者、念波によって識る者、その方法は十二機で、それぞれ違うが、互いに同じことを識った。そして、カロリーストーンが揃って、赤黒く光を放った。
「お前も気づいたろう? また、同胞が死んだ。人間によって殺された。——人間はそういう生き物だ。慈悲を思ったり、くだらぬ矛盾に頭を捻っている暇などないのだ……」
同じ使徒が言う。
「わかっていた! くだらないと。実にくだらないと。人間が無理やりつけた兵器で人間を殺すことが復讐ではないと感じた私がなんともくだらないッ!! 殺し尽くそう!! この人間が取り付けた忌むべき兵器で、人間が植えつけたこの憎むという気持ちで、奴らに全滅という報いを!!」
白が混じっていたカロリーストーンは、黒が多く混じり、言葉の最後を言ってしまうと、他の使徒と変わらぬような黒が強いカロリーストーンになっていた。
——カロリーストーンについて、使用者や有識者、そして、誰よりも身近に使用している使徒ですら、その存在を詳しく知らない。
魔石の来歴、生成、原産、役割、そして、その作用。その全てにおいて、いまだに研究が進んでいない。その存在自体が多くの謎に包まれていた。
しかし、魔石が周囲の魔力を蓄え、独自に増幅させ、望む者に受け渡す、と言う奇妙な情報だけで人は魔石を使用する。
人は、魔石をただのエネルギーの貯蔵庫としてしか考えていなかった。だから、魔石を熱量……、エネルギーの石としか捉えていない。
果たして、魔石はただのエネルギーの貯蔵庫なのか。はたまた、また別の何かなのかは、今の所誰も知らない。
ただ魔石は……、最近になって、ようやく使用されたものに過ぎない。
魔石が一際輝きだした。魔石を輝かす使徒が全体に対して言う。
「王……、私が奴をおびき出せるかもしれません……」
「王らは、一人一人が用心深く、何より、その強さに似合わない臆病さがある。そんな王をおびき出せると言うのか?」
「ええ。少し気になる情報が入ったのです。それが事実ならば、今回は、少しだけ重点的にそこを攻めてみるのも……、また、面白いかもしれません」
一人の使徒の発言に、その場の全員が耳を傾けた。
「ほう? 主がそこまで言うとな? 興味がある。どこの国か教えてくれぬか? ジルよ」
ジルと呼ばれる使徒の言葉を待つ。そして、ジルが狂気的な笑い声をあげる。
「ジシシシッ。青です。あそこの王は、欠陥があると聞きました。だから、私が切り刻んでやるのです」
仲間内からは、親しげにジルなどと言われているが、この使徒の名前は、ジル・ザ・リッパー。もちろん、他の使徒と区別するために人間が付けた名前だった。
彼女は、通称:斬り裂きジル。全世界において、もっとも恐れられている12使徒の一員である。
その彼女が今回の標的に選んだのが、青の国・『バーナード・オペレッタ』だった。
また、お願いしますね。




