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真実のおしゃべり

よろしくお願いします。

 先導する最中、久しぶりの人間との邂逅に会話がないのは、寂しいと思ったジュンは使徒について話す。

「あなたたちは、使徒についてどれくらい知っている……の?」

 と、ただの退屈しのぎのつもりだった。

「使徒についてですか……」

 ジュンの質問に対して、一番無知なサトシが反応したが、答えられるわけもなく、アルシアに助けを求めるべく視線を送る。

 それに気がついてアルシアが、

「使徒は、なんと言いますか。世界が5つに分かれる前から存在していたと言われていますね。過去の(マイナス)ということを本で読んだことがあります。その実、彼らの正体は、まだまだ研究が進んでいないのが真実ですね。青の国は、特に進みません」

 ということを説明した。


 使徒について全く見当違いの答えを聞いたジュンは呆れ返っていた。

「そう……ね。使徒は、過去の負……ね」

 ジュンが答えられたことを復唱するように、または、記憶の検索エンジンにかけるように言った。

 サトシたちと出会った時、サトシたちは使徒の首を断つことで勝利を確信した。それがジュンにとっては不思議だった。

 この季節に、この場所に訪れる冒険者なのに、使徒に対抗し得る情報を持ち合わせていない——そのことがジュンは心配だった。


「はい、その存在自体が、竜巻、地震、暴雨、洪水、土砂崩れと同じ自然現象なんです。だから、誰もそれに腹を立てない……。仕方ないと諦めているんです」

 そういうとアルシアは、どこか暗い表情をした。

 アルシアの言うそれは方便だ。

 使徒がそんな災害なわけがなく、敵意がないわけではない。決まった季節に決まった対象を殺戮するために動く使徒が害意なき自然と同じなわけがない。


 使徒に意識がないようにいう青の国の民。

 ジュンは、迷っていた。真実を話すべきか。それとも、このか弱き少女の暗い表情を見なかったことにして、使徒について肯定するか……。


 しかし、ジュンは決めた。——この見ず知らずのか弱きものに使途についての真実を話すことを決めた。情報に踊らされないようにとの願いを込めて——。


 暗い表情など普段から元気いっぱいのアルシアとしては、珍しいことだった。

 ジュンに対してフウは、怪しんでいた。突然、現れた女……。


 その女がやけにサトシと近いのだ。一夫多妻を認めている竜族の娘ではあるが、これ以上不要な女を増やしたくないのもまた事実。

 だから、フウは怪しんでいた。もしかして、ジュンもサトシの魅力に惹かれているのではないのかと……。


 フウは諸々を込めて、

「……、何か知っていそうだな」

 と聞いた。


「そう…ね。知っている……わ。あなたたちが知らない真実について……」

「真実だと? もしかして、貴様もサトs ……」

「さと……?」

 ジュンとフウは一時、目を見合わせたが、フウが話そうとしないのを見て次の話を始めた。

「あなたたちの言うこと、違う……わ。使徒は、黄の(イエロー)の失敗作。——いいえ、イエローの実験動物たち……なの」

「失敗作!? それに実験動物!!??」

 物騒で聞きなれない耳を疑うような内容だった。だから、フウが調子外れの声をあげて、重苦しい汗を流すほどに——。

「そ、そんなバカなことがあるかい!! あれが失敗作!? じゃあ、成功したもっと強い奴がいるってことかい? それが虎視眈々と私たちの国や他の国を狙っているってこと!?」

 フウの驚きにジュンは、可笑しそうに笑った。



「成功作……。いいえ、完成体がいるじゃない……の。もっとも有名でもっとも強い……」

「完成体……? もっとも有名でもっとも強い。機械……黄の国……。まさかッ」


 この世界に生きる者が思い浮かべる機械仕掛けの存在で、強い存在など一体しか思い浮かばない。

「そう。現機械王:BC・ラウンダー……よ。——動物の機械サイボーグ化は、人体のサイボーグ化の足掛かりでしかない……の。そして、その人体のサイボーグ化も、王を生み出すためのものでしかない……のよ」


 答えを聞いたアルシアが腰を抜かして、そのまま、地面に吸い付くようにへたり込んだ。

「ジュンさん……。使徒とは……、つまり、機械王を誕生させるために作られた失敗作だと、あなたはいうんですか……?」

 アルシアのそうであってほしくないという心の声が聞こえて気がした。

「そう……よ。彼がこのゼロワン計画の完成体。それに利用された彼らは、人を恨んで、憎んで、怒り狂っている……の」

 アルシアは、フルフルと震えだした。そして、静かに、静かに声を出した。


「……、誰も知りませんよ」

 小さな声だった。だから、ジュンは、聴きなおそうとしたが、アルシアが先にいう。

「誰も知りません。そんなこと……、誰も知りませんよぉッ!!——使徒は、古代人が生み出した、負の遺産よ! 全ての国にとって脅威となる自然災害よ! そうじゃなくちゃいけないのッ! 黄の国の失敗作!?じゃいけないの!!」

 アルシアの毛が重力に逆らうように逆立つ。アルシアは、激情に駆られていた。

 サトシの体の中で隠れていたカリーナは、この変化に見覚えがあり、以前見せたことのある獣化だとわかった。しかし、どこか違う。そう感じていた。

 そして、すぐにわかった。その変化は、わかりやすかった。この魔力が濃い土地で、アルシアにだけ魔力が集まっている。



 その変化を見て、フウが一雫の汗を垂らした。

「なんだいなんだい。これじゃ、魔法だよ。アルシア……、その変化を制御できるんだろうね……」

 以前、フウが見たことのある獣化……、それはあくまでもアルシア自身の特異体質によるものであり、魔力の有無は関係なかった。今行っているのは、つまり、魔法と同じ変化であり、魔力の不思議な力によって起こされた“奇跡”だった。



「…私のいた村は、使徒の侵攻によって滅び……ました。……グッルッ。使徒の侵攻は、自然現象だと思うことで、この怒りを抑えてきました。ガッルッ——でも、そうじゃないのなら!! この怒りは!! この如何しようも無い怒りは!! どうしたらいいんですか!!!」

 数十種類の獣が混在するアルシアの躰。見た目だけでは、その全てを把握することはできない。それはアルシアの強さを測りきれないことと同義だった。

 しかし、全ての生きとし生ける獣の結晶に近いアルシアの容姿にジュンは……焦りもなく見定めていた。


「あなたの怒りはもっとも……ね。——ほら……、ぶつけていい…よ」

 その言葉が開始のゴングとなり、アルシアは驚くべきスピードでジュンに襲いかかる。その姿は、まるで蛇のような獲物を狙う瞬発力だった。

 しかし、ジュンは臨戦態勢どころか、回避行動すら起こさない。防御しない。反撃しない。アルシアの怒りをただ受け止めるが如く、突っ込んでくるアルシアを優しく抱きしめた。その怒りを外に漏らさぬように。


 アルシアとジュンがぶつかった——触れ合った瞬間、巨大なトラックの正面衝突でもしたかのようなけたたましい衝撃音をあげた。


 アルシアのイノシシのような突撃は、ジュンにぶつかっても止まることなく、次々と大木をなぎ倒し、大岩を破壊しながら突き進んでいく。そして、ついに、絶壁を以て止まった。 

 圧倒していたはずのアルシアの様子だけがおかしい。凶暴な肩を鳴らしていた。いや、決して息が切れているというわけではないようだった。

 それは涙。アルシアは、泣いていた。


「どうして……、どうして。どうして、何もしないんですか。私がしていることは、ただの八つ当たり。そんなこと私自身が一番わかっているのに……」

「そんなことない……よ。あなたの怒りは、至極当たり前。私と使徒は、同じ存在。だから、私はあなたの怒りを背負うべき……なの」

「でも、あなたは執拗に人を襲わない。それなのに、私は……、自分の怒りを押し通すばかりで……」


 ジュンは、アルシアに対してニコリと笑った。

「気にしない……よ。あなたの気持ちは、よくわかってる……よ」

 その言葉でアルシアの姿が解けた。そして、ジュンに対して幾度となく謝罪の言葉を口にする。

 泣き始めると、アルシアの姿は、元の変わらぬ姿へと変わっていく。


「使徒はね。絶対に王になれない失敗作……なの。彼らは、犠牲者。人にその技術を応用するための……ね」

「詰まるところ、使い捨てのモルモット」

「そう。倫理観を無くした人間が作った悲しい実験的失敗作(ノン・アニマル)……なの」


 知能の低かった動物は、倫理観のない実験を繰り返された。

 生存最低限の餌しか与えられず、狂気的な実験の対象にされ、幾度となく子供を産ませられた。——屈辱的な日々——。

 抵抗することができなかった。——彼らは、ただの実験動物だから——

 悲しい哉。その実験で低い知能の動物は、高い知能を獲得し、低度の攻撃しかできなかった動物は、より強力な兵器を使用し、感情の乏しかった動物は、強い復讐心を持つまでに至った。

 この強さは、人間がくれたもの。ならば、人間に使うべきだ。実験的失敗作は、そう考えた。


 世界中に散らばる多くの使徒は報復を誓っている。この醜い姿にした人間への復讐を……。この屈辱を与えた人間への復讐を……。心に持つ恐怖への復讐を……。人間が支配する世界に復讐を!!

 ——全ては……人類を滅亡させるために——


 使徒の恨みは深く、冷たく、黑い。

 彼らは、日々自らを改修し、改造し、開発して強くなる。

 開発した愚かしい人間には、想像すらできない高みの果ての強さだった。だから、王を持つ国々は、使徒を“予想できない脅威”や“近付かざる災害”と認定し、『自然』と冠した。


 国民にとって、最大の幸福は、使徒が特定の季節だけに現れるものであることと世界の頂点に君臨する王の存在だった。

 それだけが——王の存在が——国民にとっての希望の光で、王だけが使徒の迫り来る恐怖を軽くした。

来週にも投稿したいものですが、頑張ります。

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