表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/68

とある会議の様子

 よろしくお願いします。

 スゥと扉が優しくしまった。

みなが揃うのは、久しいのう」

 扉と同じく優しい言葉が放たれた。


 簡素ななんの飾り気のない空間に楕円形の机が置かれた。こじんまりとした部屋に10人ほどのツワモノが立って待ち構えている。

 老の席は、扉から最奥の上座で、その老から時計回りにオリーブ、ジェニファー、ノア、ザッジ、ベンジャミン、マーニィ、バッカス、イーサン、シルビア、フランチェスコという順に座る。

 それだけで壮観だったが、最後に入ってきた白のヒゲを蓄えた老が上座に座ると、それに合わせて皆が敬意をもって一礼をもって迎えた。

「楽になさい」

 老がそう言うとツワモノどもは、示し合わせたように一糸乱れず座る。それは組織の結束力が垣間見えたようだった。


 老人から見て左手のオリーブが話を始める。

「ご老公! 遮断の魔法をかけました。外部に話は漏れませぬゆえ、ご安心を。本日は、ザッジから器について重要な話があるとのことでご足労いただきました」

「な〜に、気にするな。これも役目」

 そう言い、老は、難しい顔をしてザッジの方に目をやった。

 それを認めたザッジは、さっと立ち上がり、資料を配る。


 全員に資料が配られると、ザッジは気分が良さそうに話し始める。

「まず初めに、老。改めて、お時間をいただきまして、ありがとうございます」

「ほぉっほぉほぉ。気にすることはない。我々の本懐の為ならば…」

 老の言葉を聞き、老以外の部屋の中の全ての者が頭を下げる。

 そして、再びザッジが続きを話し始めた。


「本日は、先ほどのオリーブ様からもあった通り、器になり得る人物を発見いたしました」

 邪悪そうに笑い、イーサンが疑いを持ってザッジに問いかける。

「ほう。それは確かなのでしょうか? ザッジ。君は、一度失敗している」

「はい、イーサン様。間違いありません」

 イーサンは、ザッジの確信のある言葉を聞いて笑みを漏らした。

 そして、一際喜びを表現するものがいる。老の右手側に座っているバッカスだ。

「かあぁぁ! やっとか。やっと見つけてくれたんか! これで……、これで、この不安定な治世から抜け出せる。——んだら、詳しく聞かせんかい、ザッジ!」

「はい、バッカス様」

 話し始めようとするザッジに向かい、帽子をかぶったマーニィが手をあげて発言する。

「少し待ってくださいまし、ろう。私とベンジャミンは、ここでは新参者でございます。もう少し、その“器”についてお聞かせくださいまし」

 マーニィの発言を受けて、ザッジが辺りを見渡した。

 そして、老が許可を下す。

「そうじゃったな。マーニィちゃんとベンジャミンちゃんは、この会議は初めてか……。我々の目的も含めて…、ザッジちゃん話してあげなさい」

「かしこまりました」

 そう言うと、ザッジは一礼をする。

 それから、何も知らない二人に向き直り、ため息をこぼす。

 ザッジの態度に扉近くのマーニィとその正面にいるベンジャミンがザッジを睨む。

 そんなことを意に介さずにザッジは淡々と話し始めた。


「まず、器とは、王の器のことだ。ある条件を満たすと、王になるための審判が下される。それを乗り越えた者こそ精霊の王。青の国の真の王となるのだ」

 それを聞き、ベンジャミンが話の内容が掴めず聞いた。

「ちょ、ちょっと待ってくれっ! 王だと? それは一体どうゆうことだ。もうすでに青の国に王はいるだろうっ!? 精霊王・バーナード=フォレス様がおられる。それなのに! また王だと!? そんなことをしたら、国が傾くどころか叛逆だ!!」

 ベンジャミンが机を叩く。部屋に大きな音が響いたが、誰もそれを意に介さず、老の前で乱れたベンジャミンを静かに睨んだ。

「そうだ。我々は、今、王のくら替えを行おうとしている。と言っても、我々の集まりは、厳選した王を置くこと! その一点に尽きるがな」

 ベンジャミンは、狼狽して乾いた声を上げる。

「おいおい! それはあまりにも不敬じゃないのか!? なら、今の王はどうなる? 殺してお払い箱か? そんなに簡単に……」

 ザッジは、ベンジャミンの言葉を鼻で笑う。

「っふ! そもそも、この国に王などいない。今、この国に君臨しているのは、王の器ではないからな。言ってみれば、なりそこないの王。我々はあの方を置かねばならなかったのだ——」

マーニィが驚き、しどろもどろにいう。

「そ、それはどう言うこと? 王は、国の最高戦力。王が存在しないってことを他国に知られでもしたら、この国は攻められるわ! それどころじゃない。国自体が跡形も無く吸収される……」


「ああ、そうだ! だから、我々は、今のバーナード様を王に据えた。あの方がこの国で最も王の力に近いからなっ!」

「だ、だったら、それでいいじゃないの。あの方の強さは、本物だわ。なんたって精霊の力を100%引き出せるんですもの。まさに比類なき王」

 マーニィの言葉にザッジが口を開きかけると……、老が割って入った。


「それが問題であり、それでは足りんのじゃ。バーナード様は、確かにお強い。だが、精霊王の強さは、そんなものではない。精霊王は、この世界の全ての精霊を統べるお方。強さの次元が違うからのう」

「老は、ご存知なのですか……?」

 老は、昔を思い出すかのように目を瞑った。


「先代の戦いは、人の想像を超える。“自然”その全てを操り、戦うのじゃ。その戦いこそが、他国の王と渡り合うために必要なもの。じゃが、今のバーナード様は、それができない。似たようなことができても、それでは足りんのじゃ……」

 マーニィとベンジャミンは、大きく目を見開いた。

 そして、ベンジャミンは黙りあぐねてしまった。だから、代わりにマーニィがいう。

「では、私たちが力を合わせましょう! 国民全員が力を合わせれば、他国の王にだってきっと対抗できます! 足りない力を補えるはずです!」

 老は、薄く笑った。

「青い……、青いのう。王とは、我々が束になった所で指一本とて触ることはできぬ。——ワシも以前、竜王・ユーラシス・ナーガラージャに戦いを挑もうとしたことがある。しかし、その後ろ姿を見ただけで、膝が折れてしまった。一歩も動けなかったのじゃ。彼らは、別の高次元に足を踏み入れた存在。同格の存在でなければ、その偉大すぎる存在を前にして立っていることすら叶わぬ。指一本触れられないとは、そう言うこと。いくら有象無象が集まったとて、戦うことができなければ、意味のない」


 ザッジが頷く。

「老の言葉…その全てが今の我々の窮地を表現する……」

 ザッジは、新参者であるマーニィとベンジャミンに向かっていう。

「同盟国である竜王、機械王、霊王、そして、我々精霊王が束になってようやく、黒の国に太刀打ちできる。四カ国の王は、それぞれ重要な役割を担っているのだ。——それが、もし、我々の王が王でないと判れば、パワーバランスが崩れる。ましてや、魔王に気づかれれば、国が滅ぶ」

 その場の全てのものに暗く影が落ちる。


「魔王とは、それだけ強いのですか……」

「疑うことなく強い!! しかし、勘違いしてはならない。魔王と他の王の強さは、同等……」

 上座のシルビアがいった。

「では、なぜ全ての王で攻めないのですか?」

 シルビアは、ため息を吐きながら、マーニィへ子供を諭すようにいう。

「ザッジが言ったのは、子供がこの世界の力関係を理解するための方便。だけど、王が国を離れてしまったら、誰が民を守ると言うの? 魔王は、その単体の強さもさることながら、全ての魔物を従える強さを持っている。魔王の強さの真実は、……群の強さ。これが厄介なの。それこそが私たち4つの国が長い年月を攻めあぐねている理由。どこの国にもいる魔物が目的を持って攻めてくれば、我々だけでは対処しきれない……」


 そのことを初めて聞くマーニィとベンジャミンの絶望の温度差は大きい。


「だったら、私は……、なんていうことをしてしまったのでしょうか……。その冒険者をカメリアに送り出してしまいました……」

 マーニィがそう言うと、ザッジが追及する。

「!! それは一体どう言うことだ!! 事と次第では、マーニィ、君の責任を問うぞ」


 マーニィは、恐る恐る話し始める。

 サトシがカメリアに行ってしまった経緯を自らに責任が問われないように——。

「ザッジが見つけた冒険者をサトシと言います。その冒険者は、組合の審査を通らなかった一人の老人の依頼を独自に受けてしまいました。あまり推奨されることではないことですが、何よりも、冒険者は自由な存在という理念から、それを黙認してしまいました……」


 ザッジは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「……なんてことだ……」


 ザッジは、そのことを聞き、怒りのままにマーニィを責め立てる。

「なんてことをしてくれたんだっ!! 彼がこの窮地を打開する唯一の希望だったんだぞ! それをよりにもよってカメリアなぞに送りおって!!」

 その剣幕にマーニィは、萎縮して、何も言わずに黙り込んでしまった。

 そこでオリーブは、その場の収拾をつけるため、ザッジを納めたが、オリーブ自身もマーニィに対して思うことはあるらしく皮肉めいたことをいう。

「しかし、カメリアとは……。普段でも危険な場所だが、それに加えて今は時期が悪い。各国に使徒が歩みを進めている頃だろうな……。国境線は例年通り、過激になるだろう」

 不穏な空気感を打ち砕くように老がいう。

「ほぉっほぉほぉ。まあ、仕方なかろう。冒険者は、自由じゃ、それを止める権利をマーニィちゃんは持ち合わせん。それに使徒の時期のカメリアならば、ザッジちゃんの探し出した冒険者の真実も分かろう。——では、ワシはバーナード様に使徒の迎撃の願いを請いに行くとしようかのう。また、吉報があれば、報せてくれい」


 そう言うと老は出て行く。その場の全員が最敬礼を行い見送った。


 春になろうとする頃、奴らはやってくる。改修や改造を加えて、進行してくるのだ。

 目的は、復讐。より多くの人間を殺すために進行をしてくる。

王の役目の1つにその迎撃がある。——

楽しいですね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ