次にやるべきことは
よろしくお願いします!
サトシは、ドアを勢いよく開いた。
「ただいま〜。次のクエストが決まりましたよ!」
サトシの元気のいい声にカリーナ、アルシア、フウの三人は驚いた顔を向けた。
そんな三人の元に歩いていき、皮袋をアルシアに渡した。
「これが初依頼の報酬です。結構ずっしりしてます」
「良かったですね〜。それで次の依頼とは、どんな依頼ですか?」
「えーと。次の依頼は、確か……、カメリアというところにこのアデルさんを連れて行くことになっています」
アデルバードがサトシの後ろから入ってきた。
「ワシがアデルバードじゃ。長ったらしい名前じゃ、以後アデルと呼んでくれていい。——今回は、ほんに助かった。ワシは死ぬ気で一人、行こうと思っていたところにこのサトシくんが依頼を引き受けてくれた」
アデルは、その場で胡坐をかき、頭を下げた。
しかし、アデルの誠意に誰も口を開くことをしなかった。
それもそのはずである。カメリアは、魔法現象による集中豪雨からくる地滑りがあったかと思うと、日照り続きの日が続いたりする。魔力濃度が高いため自然変動が多発し、極悪環境で人が定住することができない。
いつも自然に牙を剝かれる場所だった。
カメリアは死因は多くあるが、資源には乏しく、好き好んで向かう場所ではない。そんなカメリアという地を聞いて、誰もが黙することを選んだ。
だが、ついに沈黙に耐えきれなくなり、フウが真っ先に口を開く。
「サトシがそこに行くんなら、アタイもそこについて行くよ……。でも、カリーナとアルシアから聞いたけど、サトシは異世界からきたんだろ? だったら、カメリアの危険性について知らないのも無理はないけど、あそこは本当に危険なんだ」
フウは、サトシの目を見据えていう。
「知っていますよ。ここに来る前にアデルさんに散々聞きました。確か……、魔物もいるんでしたっけ?」
「そうだ。黒の国の近くだからね。魔物は、社会を営む。一匹いたら、何匹いるかわからないんだ」
「だったら、なおさら、そんなところにアデルさんを一人で行かせるわけにはいかないです。生きて送り届ける。だって、もう依頼料ももらっていますしね」
サトシは、薄っすらと笑った。
その様子を見て、アルシアは小さなため息と呆れた口調でサトシをたしなめた。
「はあ。報酬を前払いでもらうなんて信じられません。前払いでもらうってことは、100パーセント成功させるって意思の現れですよ? もし、失敗したら、プロとして失格の烙印を押されちゃいます。それとも、その決断は、サトシさんのスキルのせいですか?」
「アルシアにはお見通しなんですか。そうです。僕のスキルのせいです。アデルさんの気持ちがわかってしまう……。だから、放っておくことなんてできない」
その言葉を聞いてアルシアは、目を細めて笑ったが、急いで眉間に小さなシワを寄せた。
「本当に厄介な人です。——うん、うん。仕方ないですね。私もついていきます。でも、勘違いしないでくださいよ。サキ様との約束のためです。ここであなたを放っておくことはできませんからね! サキ様に叱られてしまいますっ」
アルシアは、ついにサトシに笑顔を向けた。それに頷くサトシ。
「よかった!! これで全員一致したので、次は、カメリアに行きましょう!」
◆
一人誓いを持って旅立ったサキは、ハクアの村で殺人事件の解決をした。
「ハクアは、この村の人じゃないのね……」
「はい……。私は、村長に拾われました。村長は、私のお父さんでした」
サキとハクアは共に歩く。二人に目的地はなかった。
時は、おおよそ1日前まで遡る。
サトシを助けるために強くなる決意と精霊契約を破棄するために王都から飛び出したサキ。その最中に力尽きたハクアを見つけた。ハクアをスキルで助けた成り行きで、ハクアの事件を解決することになった。
この村では、事件が起きていた。それは突如一夜にして消えた屈強な男。その事件現場には、無残にも波打つような返り血だけが飛び散っており、死体はどこを探してもないという不思議な事件だった。
そこでサキは、事件現場を検分する。
村の家は、立派な丸太を積み重ねたシンプルな作りの温かみを持った家で構成されていた。被害者となるラルフの家もその造りで、一人暮らしの男が住むには十分な広さを持つ家だった。
そんな家の中に入って、サキはため息交じりに悲しそうに言った。
「この事件は、不思議がたくさんね。部屋中血でべっとり。ひどい殺され方……。楽しんで殺したとしか思えない……」
ハクアは、サキの言葉に苦しそうな顔をした。
「ということは、快楽殺人者のような通り魔的な事件なのでしょうか。または、部屋の散らかり具合から見て盗賊という線もありえますね」
部屋は、ひどく散らかっていた。ものは、そこらかしこに散乱し、机の脚は折れ、椅子は倒れている。注意深く観察するまでもなく、物色された形跡や抵抗した形跡があった。
しかし、サキは、
「んー、そうとも限らないわ。……あたりの様子を見るとね、散らかっているけど、被害者に抵抗はないし、ものは取られていないと思うわ」
と推理を展開した。
さらに推理を展開しようとすると、ハクアの様子が異常であることに気がついた。
「どうしたの? すごい汗だけど……?」
ハクアは、額に滲んだ汗を腕で拭き取る。
「いいえ、大丈夫です。彼とは、仲が良かったですから……、この場所にいるのがとてもつらかっただけです……」
「そうなの……。それはつらいわね」
「はい……。さあ、これからどうしますか? 犯人探しをするんですよね?」
「そうね。——う〜んと。まずは、さっきの続きから。この様子だと私の推理では、この事件は、村の人の犯行が濃厚なの」
「そ、そんな!! 村にそんな人はいません!」
ハクアは、サキを責め立てるように詰め寄った。
「私もそう思いたくないけど、私の推理ではそうなの。だから、協力してちょうだい。——ハクアには、これが何に見える?」
「……笑っている彼が見えます。彼に会いたい……」
「ハクアは、ラルフさんのことが大好きだったのね。私にも、大好きな人がいるからわかるわ。その人にもう二度と会えないって思うと、この世の終わりかと思ってしまう」
「彼とは、小さい頃から仲が良かったんです。それなのに、こんなことになってしまった。でも、彼は、私の中で生きている。それだけで、いいんです」
「……ハクアは、強いのね。——任せて! 私がすぐに犯人を見つけてあげるから!」
「はい……。お願いします」
サキは、部屋中を見渡して、
「指紋とかわからないし、そう言った機械とかもないから、素手で触っちゃお!」
というと、気にするわけもなく、部屋で気になるところを隈なく調べだした。
そして、サキはあることに気がついた。
「やっぱりそうだわ……」
「どうしたんですか? 何かわかりましたか?」
「この部屋ね。散らかっているけど、おかしいのよ」
「おかしいですか? 普通に散らかっているように見えますけど。やはり、盗賊とかが押し入ったんじゃないんですか?」
「うん。普通に見れば、そうよね。でも、これはラルフさんを殺害した後にわざと部屋を汚くしたの。盗賊の仕業に見せかけるために。その証拠に、この床に落ちている鍋ね、血がついているでしょ? でも、落ちている鍋の周りには血なんてついていない」
「それでも、盗賊が来て、急いで金目の物を探して散らかしたかもしれません」
「いいえ、盗賊なら、こんなに無意味に鍋を落としたりなんかしないわ。だって、落としたら大きな音がなっちゃうでしょ? ここは、それだけ無意味に散らかっているのよ。盗賊だって、家主がいないとわかっている場所をひっくり返して捕まる確率を高めるなんてしないわ」
サキは、鍋を手に取ると、それを元あった場所と思わしき場所に戻す。
「この鍋は、ここにあったの。このなべ敷きはそっちね。あの本は、あそこ。そこの椅子は、もともと倒れていなかったはず。散らかっている物を整えてしまえば、本来の姿が見えてくる。これは強盗目的なんかじゃない。もっと他の理由よ」
「確かにそうですね。サキさんの話を聞けば、そうです。争った形跡ではないのなら、この散らかりようはおかしいですね……」
「そうね。わかってもらえたかしら? この事件は、村の人の仕業なの……。この村の中にこの事件を犯した人がいる!」
どうしましょうか。では、また後日!




