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三度目の風

 よろしくお願いします。頑張れるかな、体験授業を受けてみる。

 アルシアは、目を回しているサトシを連れて壁を背もたれにして座らせた。力を使ったため頭が働いていないサトシのために、ゆっくりと丁寧に話しかけた。

「大丈夫? これ以上力は使わないでください。死んでしまいそう」

「多分……大丈夫。まあ頑張れば、後1組くらいならいけますよ。それにもう夜明けも近いでしょ? 敵も来ないですよ」

 アルシアは、東の方を見て様子を伺った。

「ええ、だいたいあと一時間くらいですか……」

 一安心だと思った二人の会話に図々しくも割り込む人がいた。

 その声が三度みたびとなる訪問者のものであることに、アルシアは目を瞑り奥歯を噛み締めた。

 突然——。その女は、双月で明るい深夜の陰から現れた。

「そりゃ良かったよ。こんなところまで来たんだ。相手をしてくれなきゃ、アンタを殺してた。いや、それは抵抗して殺されるのか、そうではないかの違いでしかないんだけどね!」

「えー、とあなたは?」

 いまだに立てないサトシは、座りながら無防備に聞いた。

  四人の前に現れた女は、大きな男の頭を一つ右手に持っていた。

 おそらく、その肩に背負っている女の身長ほどの大太刀で切断したのだろうことが容易に想像することができた。

 アルシアは、その鷲掴みにされている頭を見て尻尾が鋭く尖り、毛が逆立った。


「アタイは、フウ! 上から89・60・91で、ここらで傭兵をしているんだ! よろしくねえ!」

 少し特徴的な声調だった。だが、決して人を下に見ていると言うわけではなさそうだ。

 サトシは少し吹いた。

「うーんと。まずは、いつもそんな挨拶の仕方を?」

「当たり前さね! 自己紹介は、自分のことを紹介することだろう?」

「いや、そうですけど……」

「足のサイズは24センチ」

「間髪入れず、また……」

「身長は、168センチで好きな男のタイプは強い男! 恋人はいない!!!」

「へ?」

 フウがそんなことをいうものだから、サトシとフウの間に沈黙が流れた。


「ナイスプロポーション……」

 アルシアがボソッとフウに対して感想らしきものを述べた。だが、沈黙は終わらない。

 なぜならフウは、ぼてっと何かそういったものを投げるように簡単に面白おかしく男の頭をサトシとアルシアの方に投げてきた——。

 アルシアは、ごろっと投げられた男と目があって、一瞬目をそらした。身の毛がよだって——。

 無精髭を生やし、頰には二つの傷がある。ある程度の死線をくぐり抜けた漢の風貌だった。

 頭の大きさから2メートルは超えるであろう大男。その大男が例え不意打ちであったとしても、二人の間に忽然と現れたクールビューティーな女に頭を切り落とされる事なんてあるのだろうか。

 アルシアは、難しい顔をしてフウを見た。

 まるで生きているかのように躍動する紅く光る大太刀。

 その大太刀をブンっと振り下ろして、切っ先を地面すれすれのところまで持って来る。


「さあ、アタイと真剣勝負しよう! 楽しくなりそうだよ!」

 やる気満々のフウ。

 だが、話があまりにも急であるためサトシはそれについていくことができずフウの気持ちに割り込んだ。

「あの。一ついいですか?」

「なにさ!」

 サトシの質問に短く答えるフウ。そして、大太刀を肩で背負った。

「あなたは、何のためにここに?」

「アタイは、アタイよりも強い男を探している最中でね! そんな中強い魔力の波動を感じたのさ! 見逃せるはずなんてないだろう?」

 フウは、元気よくそう告げた。

 サトシは、「んー」と唸るような声をあげた。ちらっとアルシアの方に視線を流してからゆっくりと壁に手を添えて立ち上がる。足取りは、未だ覚束ない。フラフラ、ゆっくりとフウの前に向かっていた。


 だから、アルシアはそれを制止させるようとサトシの肩に触れた。

「フラフラじゃない! なんで? どうして、そんな状況で闘おうとするのよ!!」

 サトシは、アルシアの方をちらっと見た。そして、すぐにフウと向き合った。ただ、その言葉はフウには向けていなかった。

「アルシアを守るためですよ」

「あはははは。いや〜、よくわかっているじゃないかあ! そうだね。あんたが戦うまでアタイはその女を死ぬまで痛めつけていただろうね。アンタには、そのことがわかっているんだね!」

 アルシアは、一瞬にして大きく目を見開いた。そして、フウを鋭く睨むと、唇をちぎれるほどに噛み締めて「最低!!」とアルシアは、フウに言い放った。


 サトシは、なんの躊躇いもなくカリーナを肩に置くと、すぐさま精霊化を実行に移し、戦闘準備をした。

「そういうわけです。この人は、アルシアが人質として、価値のあるものだと理解している」

「ヒュー! そんなことしたくなかったから助かったよ——まあ、もう思い通りにいったから、そんなことはどうでもいい。今この瞬間が愉悦の時。感じる! 感じるよ、これがアンタの力か! 胸が高鳴ってきた。ここまでの男は、そう現れるもんじゃない。見つかりそうだよ。見せておくれよ! アタイにアンタを見せておくれ!!」

 フウは興奮のあまり高笑いをあげた。その声は、深夜のこの街に響いて、どこまでも広がってゆく。

 魔力が風を起こし、それがサトシを目掛けて風が集まっていく。アルシアは、後ろからくる風のままにサトシのところに流されそうになったが、踏ん張った。

 そして、風はサトシを中心に上昇気流を生んだ。

「暖かい風……」

 その風が上風に雲を作り、雨を降らせた。記録的豪雨とは言わないが、その雲から降る雨は、大粒で視界を遮るほどには、強いものだった。


 雨音だけしか聞こえなかった。そのはざまにフウがいった。

「いくよ」

 サトシに狙いを定めるように、武器を構える。しかし、戦闘態勢のフウとは違い、サトシは何もしない。じっとフウを見るだけだった。

 それを見て、フウは不快感を隠すことをしない。

「その沈んだ目で何を見ているのかわからないけど、バカにしてくれるね!! これで弱っちかったら切り刻んでやる!」

 フウは、一気に間合いまで詰め寄り、その華奢な体から振り出されたとは思えないほど、鋭く大きな一振りを横に一線させた。

 ブワっと少し離れたところにいたアルシアに届くほどの剣風。その剣風の強さから、アルシアの大きな耳は震えるようにピンと立った。

「すまない、フウとやら。条件を整えさせてもらった」

 一瞬、サトシの居場所を見失ったフウ。しかし、刹那、後ろから漏れ出た魔力に気がつき、ゆっくりと後ろを振り返った。

「一体、どうゆうことだい? あんたの魔力には殺気がないじゃないか」

「殺気……?」

 サトシがひっそりと呟いた。

「殺気なんていうのは無い。なんせこやつは、お前を殺すつもりなんてないのだから」

「いいや。アタイはわかるよ。その男は、アタイを傷つける意思すらない。戦う意思すらないようだ。今の一瞬でもアタイとの戦闘を終えることはできたはず」

「それは傷つけないでも、制圧できるからだな」

 フウの持つ大太刀がフルフルと揺れる。

「ああ、なんだ。そうゆうことか。なんて日なんだ。こんなに、こんなに幸福なことが訪れるなんて。今日は、なんて素晴らしい日なんだ」

 途端にフウは、大太刀を飲み込んだ。

 口に入れたら血だらけになるだろうし、口に入るわけなどないはずだが、フウは大道芸人のように大太刀を飲み込んだ。そして、すべて、どこかに収めた。

「アタイも本気を出すよ。アンタを全く見くびっていたもんだ」

フウは、体全体で力んだ。

「???」

 途端に硬直した。

 ではまた、後日。

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