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安心と不安(不満)

 どうやら、私は、遅筆なようです。自分では、速いと、違うと思っていたのですが、思うように文章が書けない、速筆になりたいものです。

 今回もよろしくお願い致します。


 後書きは、思いつき、番外編のようなものです。幕間で場所を取るようなものではないので、本編と繋がりがあるようにかければと思います。一つは、短く簡潔に書く予定です。

 私と男が宿に戻ってくると、男は疲労困憊のようにぐったりとしていた。どうやら、クエストの受付の雑談が後になってきてしまった様子。

 部屋に着くなり、すぐにベッドで横になった。男が倒れ込むと、同時に、眠りについた。その寝息が帽子を外してより多くの音を拾えるようになった耳でより鮮明により立体的に聞こえてくる。

 なぜか……、男の人の寝息なのに、とても静かで、とても落ち着いた。

 それは雨上がりの時に聴こえてくるしっとりとした音調の有名なクラシック曲のように部屋にゆっくりと時間とともに流れているようだった。


 ここでの生活は、どこよりも落ち着いていた。私が村にいた時よりも、ゆったりと、静かに、そして、善く時間は流れてゆく。

 憎いと思っている人の中にいても、私の心はとても穏やかに進んでいくのを感じていた。それは、何の感情もないと思えるほどにとてもゆっくりと静かに……。

 穏やかさに包まれると、檻の中にいた時とは違う不安(というよりは不満)や焦りが生まれていった。



 寝息おんがくに一時耳を澄ませて、その音楽を楽しんだ後に、あの方の指示通りにお風呂に入ることにした。私がお風呂に入ろうとした時、カリーナさんが私の肩に乗ってきたので、一緒に入ることになった。

 心がいつになく不安定であった時、そんな時に近くにいる存在に寄りかかってしまったり、頼ってしまうことは、私以外にもあるはずだ。

 その不安定さは、歩いている時、手の動きがどういったものだったかを考えてしまうと、歩くことさえもままならなくなるくらいに混乱してしまうことと似ている感覚だった。

 今、人ではない精霊に、人の私が相談をすることは、まったく違う答えを示されることがあるかもしれない。人のような振る舞いを見せる彼女の答えを聞きたいや私の話を聞いてほしいという気持ちが私に言葉を選ばせた。


「……私、ね……、今まで感情を強く表に出したことないの。そうすることが私自身を守ることだったから。でも、今回はそうゆうわけにもいきそうにない。つい、感情的になってしまいそうになる。許すことなんてできないの。こんな時があるなんて思いもしなかった。カリーナさんは、こんなことを思うことがあった?」

「唐突な話題だな。だが、私もそんなことがあった。どうしても感情的になってしまうことが……。どうしても許すことができないことがあった」

「……、やっぱりあるんだ。それは、やっぱり水を汚されたりすること?」

「……、んー。私は、いや、私に限ったことではないと思うが、私が許せないことは、愚かさを目の当たりにした時だ。その時、私はとても許せないと感じる」

「愚かさ?」


 カリーナさんは、私に同情とも、哀れみともどちらともとれない目を向けた。のちにこの時のカリーナさんの目がどういった目であるのか理解することになる。

「……。私は、察しがいいからお前の言いたいことがわかる。だが、これはお前の為を思っていうのではなく、私がそうしてきたことだ。ただ、それを伝えるだけに過ぎない。参考にもならないだろう」

 カリーナさんは、湯船のお湯を両手でチャプチャプと手遊びをしながら、軽く言ってのけてしまう。

「……。私は、感情は押し殺すべきではないと思う。許せないなら、無理に許すことはないと思うぞ。許すことも重要だと他人ひとは言うかもしれない。他人を許すことで、自分が許されるのだというかもしれない。だが、許せないというのは己の軸だ。歪んでいようと、ひん曲がっていようと、捻れてしまっていると言われても、それを無理やり真っ直ぐに直したり、見せたりする必要はない」

 私が言い淀んでいるとカリーナさんは、何かを察したように、続けて話した。

「わかっていないような顔だな。なら、もう少し話を広げようか。————私は精霊だからか、不思議に思うのだ、人は分かり合えないのだと前提を忘れている。自分とは違う人間の考えは、わかるようでわからない……。それを忘れて人は、わがままに『わかって!』と押し付けてくるように思うのだ」


「うん……」

「愚かな私は、押し付けられたら、それを完全に理解しようとしてしまう。そして、それができてしまうんだ。しかし、理解してしまえば、人は、必ず悪の部分を持っていた。それは理解したくない部分だった。ならば、知らない方が良かったと思うのだ。————他人を理解しようとすると、私は私を理解していた。私がどれほどに愚かで醜いのかを理解していたのだ」

「……」

「他人を受け入れることは、自分を曲げることと等しい。曲げてしまえば、必ず歪みが生まれる。多く他人を受け入れた後の私の軸は、ねじれ、ひねくれ、曲がりくねっていた。もはや、どれが本来の私なのかわからないほどに。————結局は、他人など関係ないのだ。戯言を言う輩など“勝手にしろ”と言えばいい。自分を保つことは、なかなか難しいのだ」

 そう言うとカリーナさんは、浴槽の縁に登り、湯船目掛けてダイブをした。楽しそうに泳ぐカリーナさんを見ていると、今悩んでいる事を一旦放り投げてしまう事ができた。


 大なり小なり、誰もが通る道のように思った。

「他でもない、私は私の愚かさが許せない。だから、貴様は、貴様らしく生きようとしろ。私はそうしている。他人に向ける感情はそれほどに意味のないものだ。憎しみで悲しむよりも、忘れてしまって笑っている方がよっぽどいい。忘れるとは、孤独に感じるかもしれない。しかし、孤独は救いでもあるということを覚えておくがいい」

 湯船のお湯を両手で掬って、泣きそうな目を洗った。


「そうだよね。わかってる」

 そういうと、カリーナさんは、手を銃の形に象ると、銃口から水を飛ばして、バシャッと水鉄砲を私に当てた。

「バンッ。——よし、これでこれまでのお前は死んだ。新しく生きていくといい」

 小さなカリーナさん(カリーナさんは、水に入ると、大なり小なり大きくなるらしく、今は、両手で持てるかわからないサイズになっていた)から、そんな可愛いことをされれば、当然、可愛いと思わないはずがなかった。

「な、な、なにそれ? 超かわいい。精霊ってこんなにかわいいことするの?」

 思わず、子供のような気遣い方をするカリーナさんを抱きしめてしまっていた。

「可愛いなどというな! 私は、賢明で、かっこよく、美しい精霊なのだ! 断じて、このようなことをされるような精霊では、な〜〜〜い」

 カリーナさんは、泳いで、私の縛りから逃れようとするけれども、狭い浴槽と大きな体格差では、逃れることなどできるはずがなく、捕まり、なすがままになってしまっていた。

 一通り、すべすべのカリーナさんに頬ずりをし終えると、少し疲れ、小さくなったカリーナさん(実際にカリーナさんは、手のひらサイズほどに小さくなっていた)は、私を追い出すように言った。


「さあ、十分あたたまったろう。もう上がれ。今日の夜に備えてしっかりと寝るといい」

「うん。そうするよ。カリーナさんありがとう」

 私は、体も温まったことで、湯船から出て、しっかりと体を拭いて、寝ることにした。隣で寝ている男は、いつまでもそこにいるように感じて、

「おやすみなさい」

 とそっと言った。

『サキの一人修行.Ⅰ』

 真夜中。一人、どこに向かおうかと悩む一人の少女、その名は、”サキ・ザイゼンジ”。彼女は、異世界から来たばかりの冒険者である。

「ああ、彼ってなんであんなに素敵なんでしょう。寝ている顔なんて、本当に素敵。思わず、キスなんてしちゃって、はしたないわ」

 その最愛の人と離れて、”彼”を救うために、情報を集めようと飛び出した直後の一場面。ただ、問題なのが、どうすればいいのかわからないのが、今のサキの状況だった。

 ちょっとこれまでのことを整理すれば、彼は、精霊と過度とも言える契約をしてしまった! そして、このままでは、すぐに死んでしまう。そこで見かねて、立ち上がったのが、サキだった。

 彼を救うための条件は、恩人である牧師の話によると、精霊との契約の破棄すること。その方法は、契約の履行ができない状況を契約自体に認識させることだった。

「はあ……。彼には、本当に困ったものだわ。でも、自覚がないから、可愛いんだけど。それにしても、ものには限度っていうものがあるんだから、際限なく限度を超えちゃうのも考えものよ。尻拭いは、いつも私の役目なのよね」

 彼の内的心理を参考にすると、サキを守りたいという一点だけであると当たりをつければ、サキがやるべきことは、自らが守ってもらわなくてもいいように強くなろうという結論だった。

 そのことを考えたサキは、この考えがどう転んでも無駄ではないという公算が高いと思い、スキルを使って、こっそりと王都から抜け出すことにした。

 とりあえず、王都から遠く離れたところに行こうと、未知の方へ常人と言えぬ速度で走っている。すると、流れ行く景色の隅に傷だらけの女の子を見つけた。サキは、急ブレーキをかけて、そっと少女に近づいた。

「こんな時間に、こんなところでどうしたの? 傷だらけじゃない!!」

 と優しく声をかけた。

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