王都の組合と初依頼
宜しくお願いします。
冒険者組合に行くことになった。組合に行くにあたって、身なりを整えなければならない。といっても、帽子をかぶるくらいの簡単な変装だ。
持ち前の可愛い尻尾に関しては、大して気にしていない。なんだったら、腰に巻いてオシャレなベルトにすることもできるし、大きなスカートの中に隠すこともできる。だから、あまり気にした事はない。
だけど、大きな耳は、そんな範囲を超えてしまっている。とてもうまく隠せ通せるものなんかじゃない。だから厄介だ。帽子をかぶってしまえば、耳自体は隠せるが耳に違和感を感じてしまい、次第に痛くなる。
仕方なく帽子を被ると、後を追うように、扉から出て行った男を追った。どうやら待ってくれていたようで、ドアの前の壁にもたれかかっていた。
「お待たせしました」
帽子をさらに深くかぶった。
「僕、組合の場所わからないので、案内してください——あれ? なんで少し怒っているんですか?」
不覚にも少しむすっとしてしまった。何もないのに唯単に私を待つことなんてない。ということに、すぐに思い至るべきだった。
そう、この男の印象と一致することがあるので、何も腹をたてることなんてない。腹を立てている私がもうどうしようもなくバカだと思うことにしよう。
「……、そうですね。早く行きましょうか」
冒険者なのに、場所がわからないという男の前を歩いていく。ドカドカと歩いていく。走るように歩いていく。
「ちょ、ちょっと速いですよ。もっとゆっくりと行きましょ」
「もう! そんなことだとサキ様を見つけられませんよ」
悪態にも似たことを言ったものだから、男は、わあ、それは大変だ! と言ってネズミのように素早く動く後を若干早足で追いついてくる。
宿から出ると、そこはいつものように人がごった返しになっているし、行き交う人の喧騒も砂けむりのように巻き起こっている。
その喧騒に負けないようにいつもよりも声を張り上げた。
「ここ王都の冒険者組合は、とても充実しています。クエストの種類もそうですが、何よりもその中身に偏りがないのがいいです。簡単なものから、高難易度のものまで揃っています。サトシ様の強さなら、最上ランクの依頼までこなせると思いますが、なにぶん実績というものがないので、小さなランクからになってしまいます」
「う〜ん、実績ですか。それは仕方ですが、残念です」
私たちの会話に上機嫌で割って入ってきたのは、カリーナさんだった。
「当然だ。私の強さは無類。しかし、この国の仕組みがそうであるならば、まあ仕方がない」
ふんふんとして嬉しそうに鼻を鳴らした。
しかしながら、理解が追いつかない。精霊がここまで感情を表に出すのは珍しいと思う。もちろん、精霊にも感情があることは知っている。だけど、精霊の感情のツボは人間とは異なっているため、私の理解できる範囲で、カリーナさんが喜びを表したことに驚いた。
カリーナさんは、まるで人のように喜びを表現する。
「カリーナさんは、並みの精霊じゃないですよね。とっても高貴なかんじがします」
褒め称えると、さらに精霊のカリーナは鼻を高くした。いや、比喩とかではなく、実際に鼻が高くなった。
「ふふっ、ふはっはっは! 獣人の貴様には、わかるのだな!! そうだな、私より強い精霊は……、まあ、そんなにおらん。私は、偉大で高貴な存在なのだ!」
カリーナは、息を荒くして言うのだが、獣人の私でもカリーナさんが本当に高貴な存在なのかはわからない。ただ、カリーナさんを褒めたに過ぎない。だが、本当にカリーナさんは、人のように喜ぶ。
賑やかなこの状況を少しだけ楽しいと感じた。
この都は渦巻き状に伸びるメーンストリートがある。だけど、全ての道が曲がりくねっているわけではなく、建物とメーンストリートの位置関係上、4本の真っ直ぐなサブストリートと呼ばれるところがある。
4本のサブストリートは、東西南北で正方形をなしていた。
今、その道を使って、冒険者組合に向かっている。私たちが借りている宿は、冒険者組合の経営する宿であり、そのため冒険者組合までの道のりは、迷うことのない一本道だった。
つまり、この宿は、東のサブストリートに面していた。とても立地がいいところの宿なのだ。
ところで、街全体に広がるメーンストリートは、人通りは多くない。主に馬車などの大きな利用する傾向が強く、物流の肝を担っている。
ならば、この4本のサブストリートはというと、人の生活の基盤となる通路になる。だから、人通りが多い。4本のうちの1本である東の一本道商店街、私たちは賑やかな通りを人にぶつからないようによけながら進んでいった。
そんな時に横から質問が聞こえてきた。
「冒険者組合で僕に合うクエストはどんなのですか?」
依頼の難易度は、上から護衛、討伐、採取となっている。討伐までは、誰でも受注できるが、依頼者などを伴う護衛ともなるとある程度実績がなくてはならない。
というのも、依頼主が実績のない、信頼に足るものか判断できない者をそばに置きたがらなかった。
ちなみに冒険に出て、未踏を踏みなぶることは、冒険者の本分ではあるのだけれど、言っちゃえば、趣味の領域で依頼されていくわけではない。
だけど、ほとんどの冒険者は、死を伴う冒険ですら、競うように嬉々として出る。冒険者とは、そのような“変態”的な連中の集まりであるのだ。
なので、ふつうは冒険者組合にあるクエストは冒険者によってはあまり消化されず、主にアンダーなどのアマチュアによってこなされることが多い。
しかし、王都のクエストに限って言えば、冒険者によってこなされる。だから、アンダーなどは闇商人などの割のいい仕事で稼ぐようになった。その理由は金額の高いクエストは、依頼専門の冒険者がこぞって受注したからだった。
しかし、そのような冒険者は、冒険にでる冒険者に冷たい視線を向けられており、依頼専門の冒険者—“依専”と呼ばれていた。
私はそのことを知っている。だけど、冒険者でない私が冒険に行く意味などはまるでないので、何も知らない冒険者に依頼主体で話を進めた。
「そうですね〜。簡単に採取クエストなんてどうですか?」
横をチラッと盗むように反応を伺うと、明らかに嫌そうに口が一の字になり、開くことがなさそうだった。
「僕なら、討伐クエストくらいしたいです。ねえ、カリーナ」
「……ああ、そうだな。私ならそれは“できる”が、あまり力を使うことはしたくない。とてもめんどうくさいからな。それに勝手に力を使われてとても不快だ」
カリーナさんは、不機嫌そうに姿を隠した。
どうしたのかと思ったが、どうやら冒険者組合についていたよう。組合の中入るとすぐに窓の近くにいる案内嬢が話しかけてくる。
「いらっしゃいませ、冒険者様!! 今日は、受注依頼がたーくさん来ていますよ」
王都の組合の案内嬢はとてもハッピーな女性であるらしく、頭の中にあるお花畑でくるくると回っているのかと思うほどに華麗に回りながら近づいてきた。正直意味がわからない。
「旦那様が依頼を受けたいとのことです。何かいい依頼はありますか?」
「まあ、それは実によかったですわ。ちょうど、冒険者様案件があるのです」
案内嬢は、大きな声を一転させ、秘密の話をするように声を潜め、口の動きで言っていることがわからないように手で口を周りから隠した。
「ここだけの話、昨日闇商人の一団が皆殺しにあいまして、今日の組合は、その処理でてんやわんやなんですよ」
言われた瞬間、一気に血の気が引いて、脂汗のような濃いドロッとした血が身体中を鈍く循環するのを感じた。
だから、私はとっさに聞いてしまった。
「そ、その闇商人を殺した犯人を探して、殺したりするのが依頼ですか?」
案内嬢は、明るく笑いながら否定してくれた。
「いえいえ、そんなことはしません。所詮は闇商人ですので、殺されても、こちら側としては、痛くもかゆくもないです。闇商人って腐るほどいるんですよね。それが、一組消えたからってあまり重要視はしません。それに、昨日の実行者は、冒険者の仕業が濃厚なので、恨みでも買ってしまったんでしょう。なので、組合としては、不干渉に徹するようですね。——しかしながら、この事件で生じた問題があります」
私の後ろで、それを聞いていたサトシが割って入ってきた。
「それで、どんな依頼なんですか?」
「はい、それで……これは組合からの緊急依頼です。報酬は、弾みますよ。依頼内容の概要は、闇商人の家にまだある多くの財を狙うハイエナの退治になります。もちろん、そんな輩は殺していただいても構いません」
「即決! 依頼を受けます。だって、早い者勝ちなんでしょう?」
「はい。もちろんでございます。依頼は全て早い者勝ちです。受注いただきまして、ありがとうございます」
受付嬢は、こちらにどうぞ、と手で個室に案内してくる。私は冒険者ではないので、その個室には入ることはできないが、サトシは一人でそそくさと促されるままに入っていった。
30分ほど経ってから、説明を終えたようで出てくると、頬はこけてげっそりとしていた。
「どうしたのですか?」
「いや、それがですね。話が怒涛のように出てきて、対応するのにとても苦労しました」
「それで、どんな内容だったのです?」
「サキがいないので、僕が覚える必要があると思って身構えていたんですが、手続きの人は、話が長い上に無駄話が多い! 理解するのに苦労しましたが、内容は簡単でした。ただの世間話でした」
「へ? 世間話ですか?」
「はい、依頼内容は、部屋に入る前で終わっていたそうです」
後々、組合長の話が長いのだと、人伝に聞いた。
時間があれば、明日も投稿いたします。宜しくお願いします。




