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旦那様と私

宜しくお願いします。

 長い時間を費やして、平静を装うことに成功したらしい男は恐る恐る聞いてきた。

「た、旅に出たってどうゆうことですか?」

 だから、あの方と交わした言葉をそのまま伝える。

「はい。ご説明いたします。まず、サキ様は、自分の力の無さをとても嘆いておいででした。昨夜の襲撃で何もできなかった自分が許せなかったらしく、“何もできない私なんて嫌だ!” と言って修行の旅に出て行かれた次第でございます。そこで助けられた私がサキ様に変わりサトシ様のお世話をお引き受けいたしました」

 説明を終えた後、男は二度ため息を吐いた。一度目は、気が抜けてしまったかのようなため息で、二度目はどこかまっすぐなため息だった。

「う〜む、確かに彼女ならそういいそうだけど、わんぱくにもほどがある。連れ戻さなくちゃ危険だ」

 男が立ち上がろうとした時に、私の第二射が放たれる手はずになっている。

「サキ様より伝言を言付かっています。お聞きになりますか?」


 すると、前のめりになり、すぐに話を促す。

「聞かせてください。お願いします」

 瞳孔が大きくなり、私から目を離さなかった。


 だから、テキパキと要点だけを丁寧に話して聞かせた。

「あの方は……サキ様は、連れ戻されることを予想されておりました。なので、“私を連れ戻そうたってそうはいかないわ。簡単に捕まってあげない。……、捕まえてみてよ。あなたにならそれができるでしょ? でも、あなたが近くにいるってわかったら、すぐに逃げちゃうけどね”と少し声を弾ませて言っておられました」

「なるほど……。あーもう彼女がほんとうにいいそうなことでどうすればいいんですか」

 頭を抱える男に第三射が放たれることになる。

「そう言われると思い、お優しいサキ様はヒントもご用意されています。お聞きになりますか?」

「いいから、言ってください」

「“あなたと私は冒険者。私は、冒険者として生き残るつもりよ。あなたがもし、まだウェディングドレスのことが気にしているんなら、ちゃんとしなさい”ということを言っておられていました。きっと冒険者として、活動しながら、修行をするのではないでしょうか」

「ではないでしょうかって、それはもう絶対そうじゃないですか。考える余地なんてないじゃないですか。わんぱくだ!!」


 全ての言葉を聞いて、ついに失意のどん底のように頭を抱えてしまっていた。私も同じ気持ちだ。

 しかし、私は内心笑ってしまった。こんなに苦しむとは思っていなかった。

 あの方は、男の行動をすべて把握して、そして、操るように言伝を頼んでいた。彼が力の限りサキ様を探さないように、ちょっと遊び心を加えて……、弄ぶように誘導している。性格を熟知していなければ、こんなことはできない。それだけあの方と男の関係の深さがわかり、苦しかった。

「どうされますか? 今すぐにサキ様を探しに行かれますか? それとも、いっときのサキ様のお遊びに付き合って、じっくり探しますか?」


 ただ、残念だったのは、その時の男の反応は素早く、まるで、決まっていたかのように明確で落ち着いていたことだ。もっと、悩みに悩んで、苦しんで、意向など無視してくれれば、私があの方ともっと早く一緒に居られるのにと思う。

「はあ、それはゆっくりと彼女を探すという選択肢しかないですね」

「……どうしてそうなるのですか?」

「え〜とですね。彼女がそう決めたなら、僕が探しに行ったら、必ず彼女にぶん殴られてしまいます。彼女は、そうゆう人なんです」

「でも、このままでは、いつ会えるかわかりません。そんなに簡単に決めてもいいんですか? これが最後の言葉だとは思わないのですか?」


 男は、少し私のことをじっと見てから、ああ、と言った納得の顔をした。

「普通は、そう考えるんですね。でも、違うんですよ。彼女がそう言った時点で、僕は、今は会うつもりがないんだなと思いました。それと同じく、会わないつもりもないんだと思いました。無理にこちらから出向いたなら、怒るパターンですね。サプライズを考えている感じですが、今回は僕の契約についてでしょう。まあ、彼女がピンチの時は、飛んでいくつもりです」


 この二人の関係性がまるでわからない。

 なぜにあの方はこんなどうしようもないダメな男を好きになり、愛してしまったんだろうか。それなら、すぐに解けるはず。だが、“恋の盲目”とも言えるこの男に魅かれる要素なんてない。だって、ひ弱でヒョロヒョロで何も持たない愚か者。サキ様は、この男ほど愚かなどではないのだから、この二人がどうゆう信頼関係の上にできているんだろうか、少し気になるところではある……。


 ギシッとベッドがさらに深く沈んだ。

「強く信じられているんですね」

「そんなに大層なものじゃないです。よくあることなんです、彼女がいなくなることは」

 きっとあの方は、いつもこんな感じでいなくなるんだろう。この人のために自分の身を切って何かを行うために身を隠す。

 ああ、何と優しい方なんだろうか、こんな何も持たない男に何かしてしまうほどに何も見えなくなってしまっている。

「では、これからは、冒険者として活躍をしながら、サキ様をお探しになることでよろしいでしょうか?」

「んー、そうですね。僕の名前が国中に、世界中に知れ渡れば、彼女を幸せにするためには十分でしょう」


 男は、目を輝かせた。

 やはりバカだ。この男は、本当に勘違いをしている。女の幸せ……、ひいては、あの方の幸せは、名誉ある男や英雄と呼ばれる男と一緒になることではないことに気がついていない。こんなにお門違いのことを平気で言えるし、ベクトルが違う努力を平気でするのだろう。

「かしこまりました。では、お伴いたします」

 私が頭をさげると、男の言葉の前にカリーナさんが言葉を挟んできた。

「言葉を一ついいのか? 一つ、お主は、この娘を守らなくてはいけない。お前の嫁がそう私に頼んだのだ。その約束は守らなければならない」

「この子を守りながら、冒険をしろということですか。まあ、いいでしょう」

 やれやれといったように、私に視線を向けた。

 ムカつく……、私が感じた感情だった。



 あの方は、旅に出る前にカリーナさんに頼み事をしていた。それはつまり、精霊との契約を意味することであった。

 その“代償”が長く伸ばしていた髪。あの方が旅に出るときには、肩口までの短い髪になっていた。それは、私のためにあの方は、長く伸ばした大切な髪の毛を担保にしてくれたということ。その様子を見ると、私は思わず涙を流さずにはいられなかった。

 その代償とともに、私を守ってくれるようにお願いしてくれたのだ。

 だからだろうか、散々この男を裏切ってやろうと言ってはいるが、私はあの方を裏切ろうとは思わなかったし、裏切らない。あの方に触れれば触れるほど、あの方が大好きになっていく。心の火が大きくなってゆく。

 だから、あの方が旦那だと言っていたこの男のダメさ加減をあの方にわかってもらうことを私の目標としようと思う。

「では、これから、この王都を拠点に冒険者として、活動をなさるということでよろしいでしょうか?」

「はい。それでいいです。ところで、あなたの名前は?」

「ああ、申し訳ございません。私の名前は、アルシア=フォーキンスともうします。どうぞこれから宜しくお願いします。……旦那さま」

「あはは、旦那さまなんてそんなかしこまらなくてもいいですよ。サトシと呼んでくれれば、いいです。宜しくお願いします」

「はい、わかりました。では、サトシさんとお呼びいたします。こちらこそお願いいたします」


 サトシは、少し照れたように首を背けると、おもむろに立った。

「すみません。僕は、冒険者についてあまり詳しくないので、冒険者として活躍するためには、どうしたらいいのか教えてくれませんか?」

 私は、目を大きく見開いて、驚きを隠せなかった。冒険者ならば、なる以前に自分がどういう風に活躍するのか思い描いているものだ。基本的には、その思い描いた通りに冒険者として活動をし始める。

 二人は王都に蔓延っている犯罪者の討伐を目的に活動をしているものだと思っていた。それは、私を助けた時に冒険者では珍しい闇商人の拠点を襲撃したからそう思ったのだが、それはどうやら違ったらしい。


「私はてっきり犯罪者の捕縛や掃討をしているのだと思いました。では、なぜ昨日はあのようなことを?」

「ああ、あれは彼女が君を助けたいって言うもんだから、助けに行ったんですよ。僕たちは、冒険者には成り立てで、活動方針なんていうものはないんです」

 ああ、またあの方だ。あの方の一声で私は助けられた。あの方はなんと素晴らしいお人なんだろうか。

 私は考えた。活動方針がないというのは些か心配だ。冒険者は、未踏を主な活動場所にしている。それが冒険者の本来の姿であり、皆がそう望んでいる。

 しかし、ごく稀に依頼を専門にする冒険者がいる。

「ではまずは、依頼をこなしてみてはいかがですか? そこから自分が何になりたいのか、検討してみてはいかがでしょうか?」

「じゃあ、そうしましょう。冒険者組合に行けばいいんですか?」

「はい、王都の冒険者組合は、城の近くにあります。行ってみましょうか」

 サトシは、腰に刀を刺すと、行きましょうとこちらを見ずにいった。

最近忙しく、不定期連載になって申し訳ございません。

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