表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/68

状況確認とそれから

宜しくお願いします。

 一旦落ち着くために、状況を整理しよう。

 僕は、無理やり結婚させられそうになっていた彼女を結婚式場から連れ出した(正確には、彼女が僕の手を引いて走り出した)。でも、教会から出たら、目をつむりたくなるような強烈な光が視界を遮った。

 だけど、教会を出てすぐに見えるはずの大聖堂正面にある庭園のきちんと手入れをされた植木たちはどこにもなく、馬車が平然とさも当然のごとく走っているというあり得ないことになっていた。

 広がった外の光景は、僕たちの知っているものとは似ても似つかない。全く違う光景だった。

 この状況をいかに支離滅裂にならず、理路整然とまとめることができるのか……。それは到底に無理なことだった。僕の知っている知識では、説明できない(僕が知っていることなんていうのは、そう多くないのだけれど)。そして、これはどんな高名な科学者などの知識人でも耳を塞ぎたくなるようなことだろう(興味を持ちそうなのは、怪奇研究者くらいかな……)。



「ねえ、サキさんや。僕たちはタイムスリップでもしたのかい?」

「……、そうね。とりあえず、落ち着きましょう。そんな老夫婦みたいなノリはしないんだからね!」

 まるでタイムスリップのように、時代を遡ったように感じた。

 彼女は、僕を置いてけぼりにして、プイっと今さっき飛び出した方向に体を向けた。そして、数歩歩くとすぐに僕の方向をちらっと見て僕が付いてきているか確認してくる。これがとても、かわいい。

 そんな彼女を少し愛でてから、いつもより少し早い速度で彼女に追いついて“聖ルイス教会”の中に再び入った。


「んー、戻ってみたはいいけど、中に変わりはないようす。私たちが知っている教会そのものね」

 彼女は、教会の中央辺りまで進み、ゆっくりと360度の全方位を見渡した。その様子は、まるで探偵のような印象も受けたし、どこか謎解きの快楽を得ようとしているようにも感じる。非日常だとも思えることなのに、この落ち着きっぷりに僕は一種の疑問を抱いた。

 彼女は、とても好奇心が強いということを念頭に置くと自ずと答えを得ることができた。


「もしかして、この状況を少し楽しんでます?」

 その時の彼女の慌てぶりは、図星を突かれた時のそれで、目を細めて疑惑の目を向けることになる。

 彼女は、少しの間、図星を衝かれて赤くなった顔を手で隠した。そして、開き直った。

「いいじゃない。私たち、これからあのお父様のしつこ〜い追っ手から逃げる生活になるかもしれなかったのよ? それがたまたま別の地、とかじゃなくて、()()()()に逃げることができたのよ! 手間が省けていいと思ったの。ただそれだけよ?」

「本当にそれだけですか? もっと、個人的な遊び心があるんじゃないんですか?」

 そういうと、彼女は、驚いたよう後に、楽しそうに笑った。


「あはは! ばれちゃった!——こんな状況だから聞くけど、サトシさんは無人島に行く時に何か一つだけ、持っていけるとしたら、何を持っていく?」

 急な質問だが、きっと無人島と異世界を同じように考えた結果である。

 少し悩み、閃いたことをいう。

「そうですね。……逆境にも負けないど根性でしょうか!」

 かっこよく答えた。

「はあ、何言っているの。あなたに決まっているじゃない! あなたがいなきゃ、無人島なんて行かないわ」

 彼女は、僕の目を見て、真直ぐに嘘偽りのなく言ってのけた。

「そうゆうのは、反則です」

「あなたの負けね!」

 そう言い、少し染まった頬で、僕のことを上目遣いで見る彼女のことをかわいいと思ったが、僕も彼女の答えを聞くと、やっぱりずるいなと思う。




 そういえば、今頃、あの親父殿の追っ手はきっと苛烈なものになっていたことだろう。どこに隠れたんだと、怒鳴り声を上げて、死ぬ気で探しているだろう。なんせ、あの政略結婚は、ずば抜けてでかいものだったから。

 その時、ギシッと椅子が軋む音がした。音のする方に視線を向けると、若い牧師が一番前の長椅子で教本らしき本を片手にパタンと閉じているところだった。

「ようこそ、迷える子羊たち。お困りのようですが、この教会の唯一の牧師の私に聞きたいことがありますか?」

 見ず知らずの僕たちに気さくに話しかける。少し丁寧すぎる牧師だな、と怪しんだが、教会は来るものを拒む場所ではないことと牧師とは元来悩みを聞くのも仕事だなと思い、何よりも教本を片手に、教会の椅子に座っている人間が“悪”であるはずがないという判断で、真実を言わずにこの状況について聞いてみようと思ったのだが、僕が言うよりも先に彼女が言葉を発していた。


「牧師様。私たち、バージンロードを逆走してら、どこか知らないところに出たの。どういったわけなのかしら?」

 牧師は、こちらに近づいてきて、少し小さな声で説教でも言うようにいった。

「ふむ。なるほど、元来バージンロードとは今まで歩いてきた道であり、そこを歩くことでこれからの未来を新郎と歩んでいく意味があります。しかし、そこを逆走するということは、今まで歩いてきた道を逆走するということになりますね。つまるところ、それは、あなたたちの人生のやり直しということになるんでしょうか」

「「そ、そんなことが起こるのですか?」」

 素直にそんなことがあるのかと驚いた。

 まさか、人生のやり直しを異世界で! というようなことだったとは。まさかのどんでん返しだったが、僕も彼女も自分の人生をやり直したい。もしくは、こんな家嫌だと思う人種であったので、驚きはしたが、そうゆうこともあるんだ、と納得してしまった。

「教会とは、もともと神聖な場所です。時として、信じられないような神の祝福も起こり得るのです」

 神の祝福というか、神の悪戯と感じてしまう。

 横を見れば、彼女も突然の状況についていけていないようで、身を震わせている。


「す、す、素晴らしいわ。なんて素敵なの」

「……やっぱり、驚かないんですね。僕は、すっごく動揺しているんですけど……」

「サトシさんは少し考えすぎなのよ。誰も知り合いがいないってことを私たちは、望んでたじゃない」

 少し興奮気味の彼女は、とても可愛い。今日は、結婚式ということもあり、マロン色の髪の毛がラメでキラキラとしているのが、さらに、彼女を輝かせている。

 僕には、女の子と髪のことはよくわからないけれど、何やら、複雑な結び方をしているらしく、すごく豪華な髪で首筋が見えるところの評価は高い。


 彼女は、鼻息荒く、興奮のまま牧師に尋ねる。

「牧師様。この世界のことを教えてください。私たち、この世界で生活したいの」

 この言葉をリピート再生をしたいと思った。

「こ、ここで生活!? 何言っているんですか? 戻る方法とかじゃなくて?」

「言葉通りだわ。私たちは、ここで生活するのよ? だって、私はもうお父様のいいなりになりたくない」

 驚き戸惑う僕とは正反対に彼女は視線を外さずに言う。その目は、本気だった。

 僕は知っている、彼女がこの目をした時は、どう説得しても変わることがないということを。だから、僕がいつも折れることになる。今回もそうなるだろうということが経験でわかってしまう。というか、僕は彼女のこととなるとすぐに折れてしまう。


 僕は、彼女の手を握り、見詰め合う。

「そうだね。もう、君と離れ離れにならないのなら、わけのわからない世界でもいいかなと思えます」

「ふふ、一生手放してはダメよ? あなたはその道を選んだんですもの」

 彼女は、少し気が強く、天真爛漫だ。でも、それは僕の前だけのもので、彼女が自分の意見を言えるのは僕だけだった。

 だから、僕は、彼女のわがままが大好きなのだ。

 二人の間に甘い空気が流れていたが、その空気を壊す咳払いが牧師から聞こえてきた。


「二人の時間のところ悪いのだけど、この世界についてお話ししてもいいかな?」

 その言葉で我に返り、おとなしく牧師の話を聞いた。

 牧師は、どこからともなく、黒板を持って来て、僕たちを長椅子に座らせた。

 この世界についての講義が始まる。


 牧師は、淡々と抑揚のない平坦な口調で事実だけを語った。

「この世界は、五人の王が治める世界。

 五人の王は、色によって区別されており、マゼンタシアンイエローホワイトダークの五色になっています。

 今、私たちがいる国は、シアンの国。ここの王国は精霊の国で、この国は他の国よりも数年に一度攻めてくる使徒の進行にも負けず、死者が少ない。君たちは運がいいです。境界線ボーダーにでも行かない限り、死ぬことなんてないのですから」

 冒頭は、このような話で始まった。

 講義の間ずっと彼女は小気味良く相槌を打っていたが、僕は牧師の催眠にも似た話口調だったからか、それとも、学校の講義でいつも寝ていたからパブロフの犬のような条件反射で睡魔が襲ってくるのか。なんだか眠くなり、いつの間にか眠ってしまっていた。



 肩を揺すられて目を覚ます。どのくらい寝たかは見当がつかないが、30分では済まないことは、確かなようだ。

「まずは、当面の生活資金を調達しに行きます」

 彼女が顔を近づけて起こしてくる。

 近い顔に僕は、キスをしてしまうおうかと思ったものだが、さすがにこの状況、特に牧師が彼女の後ろに立っている状況でキスをする度胸は僕にはない。


 彼女に手を引かれ、教会を後にする。牧師はその様子に手を振って送り出してくれていた。

 教会を出たところで、手を離されてしまって少し寂しい思いはしていたが、引っ張られるだけではなくて、彼女と同じ速度で歩けることだけでいいとしよう。


「当面の生活資金ってどうするんですか? 日本通貨なら少し持ってますが……」

 僕は、後ろポケットから二つ折りの財布を取り出して中身を見せた。

「わかって言っていると思うけど、当然、円は使えないわ」

 そして、彼女は無価値の財布を没収して、一言。

「これからは私がお金のやりくりをするからね!」

 からっ風とかかあ天下という言葉がある。これはかかあ天下一という意味で、群馬の嫁は、天下一の嫁であるという褒め言葉であるが、だからか、彼女はとても強かだ。

 僕の意味のない財布を取り上げた理由は、態度で示した。

 彼女は、財布をチラチラと左右に揺らしてみせる。やっぱりそう言う意図があると思う。彼女ならうまくやりくりできるだろう。

 教会から石板で舗装された歩道を歩くこと数分。


「ここで資金を調達します」

 そこはなんとも豪華といった外装だった。でも、その見た目に現れる物騒な気配に少し尻込みたくなる。

また、投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ