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襲撃と救出

宜しくお願いします。

 襲撃——。闇市において、それは日常的に行われている行為でもある。しかし、どの闇商人も数を減らさない。

 なぜなら、闇商人は、闇市の時間帯は貴族に守られ、それ以外は自らが雇ったアンダーや傭兵などの用心棒によって身を守っている。しかし、そこに違いがあるとすれば、運営時間を過ぎれば、闇商人の多くは、ただの犯罪者に成り下がった。闇商人は、所詮その程度のものだった。

 しかし、アマチュア冒険者のアンダーを雇っているということもあり、そこから冒険者になった者もいるので、冒険者も気軽に手を出したりはしない。

 まあ、冒険者は、そんなことをするよりも、冒険に出る方が多いのだけれど……。


 襲撃にするにあたって重要なのは、雇っている者の強さ、数、そして、隠れ家の場所とその構造だ。

 闇商人の情報は、誰も話したがらない。同じ闇商人も敵対同業者の情報ですらも真実をしゃべるものは少ない。それはひとえに報復を恐れていることと公然と不法行為を行っている罪の共同意識なるものが働いているからだ。

 だから、情報の中から真実を精査することは難しい。


 宿に戻って襲撃について、考えることは多くある。

 そんな時に彼が質問をしてきた。

「特別執行権って何?」

 と言う質問。

 彼は、勉強というものが苦手。この手の質問はしてくると思っていた。

 この国では、紙は貴重で、ほとんどの説明は、口頭によるものしかない。話を聞くことが苦手な彼にとっては生きづらい世界だ。

 だから、私は何度でも話して聞かせた。

「えーとね。特別執行権は、冒険者が独自に調査し、判断した事件に対して、独断で治安維持のための力の行使を許可したもの。ちょー簡単に言えば、現行犯逮捕の強力版よ」

「へえー。そんなことができるなんて、冒険者ってすごいですね」

「そうよ? 私たちはたまたま大金を手に入れることが出来たけど、本来は、一生かかってもなれるものじゃないんだから! 申請すれば、貴族位だって一代限りで持つことも許されるんだから!」

「じゃあ、サキはまた貴族になりたいんですか?」

 彼は、笑った。


「もう! 本当に意地悪なんだから! あんな人たちになりたくないわ。だって、実の娘を成り上がりの道具にしか思ってないのよ?」

「だったら、サキをあそこで連れ去って良かったんですね」

「!! そうよ? 何よ、今更、気づいたの?」

「僕は、今まで悩みすぎていたのかもしれないです」

「バカねえ。いつもそうじゃない。あなたは、頭で考えすぎなの。——いつもあなたの方が正しかった。あの結婚式で連れ去りたいって言われた時なんて、胸が飛び出ちゃうんじゃないかって思ったし、涙が枯れちゃうんじゃないかってくらい嬉しかったのよ?」

「僕は、直感で言葉をいってしまうから、それが正しいのか後で考えてしまうんです」

「あなたの場合、直感にできない理由をつけても無駄よ? あなたの直感は、あなたよりも正しいんですもの。どうせ悩むんなら、どうやったら成功するんだろうって考えた方がいい」

「へへ。サキは、僕よりも僕をわかっているんですね」

「どれだけあなたを見てきたと思っているの? 当たり前よ。自分なんてよくわからないものよ。だから、自分以外の人と家族になるんだと思うの」

「だから、君を選んだ僕の直感は正しんだ」

「うふふ。ビビってきたでしょ?」

「はい、ビビってきました」

 彼は目を見て笑う。

 


 彼が突然立ち上がった。まだ、外は暗い。

「さあ、行きましょう」

「え? どこに行くの?」

「獣人の女の子を救いに!!」

「まだ、闇市の時間よ! 早いわ」

「いえ、もう引き上げたみたいです」

「ど、どうしてそんなことがわかるの?」

 彼は、私の戸惑いにただ笑うだけで、それ以上を答えてくれない。

 

 そんな時、カリーナが私たちの会話に割って入ってきた。

「匂いだよ。水の匂いだ。水の精霊である私は、水から色々知ることができる」

「てことは、カリーナが教えてあげたの?」

「修行をしたからか、私の能力を勝手に使ったんだろう。甚だ驚くばかりだ」

「勝手にねぇ……。普通は、契約者でも精霊の力って勝手に使えないの?」

「まあ、そうだな……」

「カリーナって立場弱いのね。ふふ」

「な! そ、そんなこと全くない。私は強いんだぞ!!」

 カリーナは、慌てたように反論した。

 しかし、この話を聞くと、彼が力を使うとき、カリーナは協力していない可能性が出てきた。無断借用とは言わないが、共有スペースにあるものを使っている感覚なのではないだろうか。

 もし、そうならば、これはカリーナに対しての見方を変えなければ、ならない。しかし、これは推測の域を出ない。全く違うなんていうこともあるかもしれない。……だが、心に留めて置くくらいの価値はある。


 私は、荷物を窓の近くの丸テーブルに置いて、ツインのベッドに座り込んだ。

「へー、そうなんだ。じゃあ、移動したっていうのは間違いないようね」

「そうなんです。だから、サキはここで待っていてください、僕だけで助けてきますね」

 彼は、先ほど買った“刃折れの名刀”を腰に差し、出かけようとした。

「何言っているの? 私も行くに決まっているじゃない。私たちは、いつも一緒のはずよ!! 一人で置いておくなんて、私……、拗ねちゃうんだから!!」

 その言葉に彼は腕を組み、考えを巡らす。

 何を考えているんだろうか。隙だらけだ。

 その間に私は、今日買ったレイピアを袋から取り出して、腰に差し、再出発の準備をする。

「やっぱりダメです。連れて行けません」

 返答としては遅い時間を使った。

 だが、そんなことを言っても、“時すでに遅し”。

「じゃあ、私は先に行っているからね」

 と彼よりも先に部屋を出た。


「ちょっと。なんで僕よりも先に行っているんですか」

「それはね……、あなたが遅いからよ」

 振り返り、追いついてきた彼にそう言った。彼は仕方なく私を連れて行かざるを得なくなり、私の後をついてくる。

 少し後ろにいる彼の顔を横目でチラッと見ると、少し困ったような顔をしているが、それよりもあまり気にしていないような感じだった。ここまできたら、力づくでも行くつもりだが、彼には私を追い返そういう意思は感じられない。


 メーンストリートを歩きながら彼に聞いた。

「あの子は今どこにいるかわかるの?」

「ええっと。詳しくはわからないですけど、闇市から離れた場所で移動してないです。城壁の近くです」

「じゃあ、急いで向かいましょ!」

 私が宿から出て行くと、彼がそれに続き、そして、追い越していく。彼は、こっちですよ、と手招きをした。

 私は、彼の半歩後ろをついて走った。

 しっかりと区画整理がなされた王都では、行く方向さえ分かっていれば、道に迷うことはなく、最短時間で着くことができる。

「あの建物の地下です。どうしますか? 帰るなら今です」

 到着した場所は、普通の住宅のような建物だった。しかし、彼が指したのは、建物の正当な入り口ではなく、側面につけられた黒く重そうな扉だった。その扉には、特大の鎖が何重にも巻き付けられており、南京錠で固く閉ざされていた。

 ここに奴隷の人たちがいる。

「本当に今更ね。あなたが帰っても一人で行くわよ」

「それはさせられない。どんな危険があるかわからないなら、なおさらに!」

「もう、一刻も早く助けだしましょう。行くわよ」

 彼は南京錠と鎖でがんじがらめにされている扉の取っ手に手を伸ばした。

 平然と扉を引いた。そして、何事もないように扉が開く。

 驚きを隠せない。誰がどう見ても、生半可な力では、開けることができないはずだ。私は、てっきりピッキングして、南京錠を解くものとばかりに思っていた。だが、彼は、鎖で強く施錠されている扉を関係ないように平然と開けた。


 重量感のある鎖が特有のジャラジャラというけたたましい音を立て、水のように地面に落ちた。

「さあ、行きましょうか」

 彼は、何のためらいもなく、何の準備もせずに、扉の向こうに進んで行く。

 だけど、扉の奥に入っていく時に私は見てしまった。鋼鉄でできた扉の取っ手にくっきりと彼の手形がついていたことを。

 まさに怪力。尋常ならざる力だった。この鋼鉄の扉はおそらくハリボテのように中が空洞でできているなんてことはない。そう、重さ数百キロはあるこの扉に空洞などはないのだ。そして、そこには彼の手の跡など入り込む余地もまたない。

 扉を通るとすぐに階段があった。

 この扉は地下にダイレクトに繋がっている階段なのだが、光明の一筋もない。完全な闇。親切に明かりなどはない真っ暗な地下につながる階段を彼は、私の手を引いて、まるで、見えているかのように突き進んでいく。

「ここで階段が終わるから気をつけて」

 その言葉通り、階段はそこまでで終わっていた。そして、再び扉のようなもの……。二重扉の厳重体制だった。

「これじゃあ、誰も逃げられないわね」

「そうですね。1つ扉を超えられたとしても、また扉。この2つの扉を超えるのは、むずかしそうです」

 だが、彼は先ほどのように扉を開ける。

 松明の光が入ってくる。開けた先は、牢獄のように側面に檻が作られており、少しの明かりでも眩しい。


「どうやら、さっきの音は聞き間違いじゃなかったようですね。侵入者です」

「ふはっ。こりゃ、珍しいぜ。こんなところに人が来るなんてな。こいつらは、殺してもいいんでよな?」

 正面には、机を囲んでボードゲームに興じる見張りが二人。

 一人は、細身で金色の髪が特徴の美青年。もう一人は対照的に腕っ節が強烈な印象を与える男。対照的な二人だった。

 金髪の美青年が私の顔をまじまじと見てから、恥部に視線を走らせていった。

「そうですね。男の方は、殺しても構わないですが、女の方はなかなか上玉。とても楽しめそうじゃないですか」

「かーはっはっは! ちげーねえ。ノック! ボードゲームもつまらなかった。俺らでやっちまおうぜ。バレなきゃ、お咎めなしだ」

「つまらないのは、君が弱いだからです。ゲームに負けたんだ、ヤルのは、僕が先ですよ。シャーク、君の後は、気持ち悪くて嫌ですからね」

 そう言うと、男は机に立てかけていた剣を手に取って、立ち上がった。

また明日。

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