デートと欺瞞
よろしくお願いします。
王都は、聖ルイス協会があった街よりも、区画整理がなされており、極端に狭い路地などはない。全て均等に道幅があり、均等に建物が建つ。
そこで目を見張るのは、ほぼ中心にあり眼下の街を見下ろすように建てられた王城とそこから渦巻状に続くメーンストリートだった。
メーンストリートは、“王の征き道”と呼ばれており、王は、渦巻くメーンストリートを通り、外出する。より多くの民に王の勇姿が見られるようにメーンストリートは渦を巻く。
そんなメーンストリートを通って彼は、昨晩の私との約束を果たしてくれる。そう、私たちは市に向かっている。そして、市は市でも闇市に向かっていた。
王都に限って言えば、普通の市よりも闇市の方が盛り上がっている。なぜなら、大きな都であるので、誰でも彼でも商売が許されていない。通常の市で商売できる商人は限られていた。
しかし、王都ともなれば人と物の行き交いが激しくなる。
そこに目をつけたのが、小賢しい貴族だった。貴族たちは、普通の市の営業許可が下りない者や普通の市では売れない物がある者を貴族主催の市で売らせることにした。その代わり、場所代を請求することで私腹を肥やすという理屈になっている。
そう言ったこともあり、掘り出し物を求めて、多くの者が闇市を利用している。安く、いい掘り出し物を見つけようと思えば、闇市の利用がより適していた。
闇市は日が落ちてから、王都の中心街から外れた各4地点で開かれる。闇市とは言われているが、裏で貴族が運営しているため、無法地帯ではない。
闇市自体は、貴族の代理によって運営され、ある程度秩序だって運営される。しかし、それは運営上の場合であり、売られている物に法秩序などはなかった。
東は、武器、防具や奴隷。
西は、麻薬、毒物や回復薬。
南は、魔法道具やその希少材料。
北は、美術品、宝石や盗品の売買。
主に分けられている分野はこんな感じ。
私たちの目的地は、東地区にある闇市。そこで、冒険にするために彼の武器と私の武器をとりあえずいいものを見つけてやる! くらいには、掘り出し物を見つけるつもりでいる。
お金が多くあったのなら、彼のオーダーメードの武器と防具を揃えるつもりだったのだけれど、今の私たちは、依頼料などの収入がないため、減る一方だからそんなことはできなかった。
闇市は、静かに開かれている。昼の市のような活気はない。まあ、闇市は貴族たちには黙認されているとはいえ、当然に公のものではないので、騒がしいのはNGになっているのだろう。
私個人としては、彼と久しぶりのデートであるので、あまり騒がしいのは好まないので、ちょうどよかった。
「サキの武器は、どんなのがいい?」
彼は、優しく私の武器から選ぼうと提案してくれる。こういうところがまた素敵。
闇市が開かれている東地区の一本通りにひしめく闇市を見て回る。
「んー、軽いのがいいわ。重いものは、振り回せそうにないの」
「あれ? 接近武器がいいのですか?」
「そうよ? 自分の身は、自分で守らなくちゃね」
「そう……。僕が守るから、必要ないと思いますけど」
「でも、武器を持つだけでも、効果はあるでしょ? 後衛よりも前衛の方が実は死亡率が低かったりするものよ、きっと」
と、私の謎理論(私にはそんな知識はない)による説得により、しぶしぶ私が武器を持つことに納得してくれた。
私は、1本の剣に見とれてしまった。何か惹かれるものがある……。出会いとは、総じて第一印象の強烈さがものをいう。
「これなんか、どうかな?」
その剣を指差す。
「へえ、本当実戦向きなのを選ぶんですね。よく切れそうです」
白銀のレイピアを手に取り、服を当てるように構えてみる。その時、彼は、カメラのアングルを確かめるように片目を閉じた。
少し恥ずかしいと感じてしまう。
「ど、どうかな?」
「うん。とっても似合います」
彼のお似合いだというセリフをもらったことだし、レイピアの金貨5枚を支払った。
「大切にしな」
とレイピアを店主が袋に包んだ。
「今度はサトシさんね、どんな武器がいい? 遠慮することなんてないの、あなたが一番いいと思うものを買いましょう」
彼は、クスッと少し笑った。
「そうですねえ。武器と言われても、正直、よくわからないんですけど、かっこいいのがいいです」
「漠然ね! ふふ。——まあ、そうよね、これ名刀なんですって言われても、私たちじゃあ、判断できないもん。実際、私も見た目で選んじゃったし、そうゆうのってきっと大切よ」
私たちは、ブラブラと闇市のものを物色しつつ、これなんてどう? などと言いながら選んでいった。
私と彼は、幾つかの店を見て回って、幾つかのものにある程度の目星をつけていた頃。彼が突然、あ! と何か見つけてしまったと言わんばかりに声をあげた。
「ん? どうかしたの? 可愛い子がいたなんて言ったら、怒るからね!」
彼が見ていた場所は、乱雑に幾つかの武器が突き刺さった樽だった。彼は、お目当てのものを指差した。
「これなんか僕の感覚にフィットします」
「へえ、かっこいいわ。サトシさんに似合ってる(フィット? フィットって……)」
彼が選んだものは、赤漆の腰刀だった。鞘の造りからしてとても立派なものであると感じさせる。
彼は、その刀を手に取った。
「うん。これがいいです。おじさん、これはいくらですか?」
「ん? ああ、そこにあるのは、全部銀貨3枚だ」
銀貨3枚は安い。今まで選んだものはすべてが金貨5枚ほどするもので、それと比べると破格に安い。だから、銀貨3枚を即決し払った。
その時、刀を売ったおじさんが失笑した。
「毎度。お兄ちゃんたちは、お目が高いね、そりゃ名刀だ。“刃折れの名刀”なんて大層な名前がある。自分で名刀なんていってりゃ、世話ねえぜ。ぐへへ」
陽気に笑う。
「サトシさん、抜いてみてよ」
彼は、一年に一回の誕生日プレゼントをもらった時の子供のように目を輝かせた。
「見といてくださいよ!!」
彼が嬉しそうに新しく買った刀を抜いた。
「「あれ?」」
びっくり。刀を抜いてみると、そこにはあると想像した美しい刃はなく、ハバキから少し先のところで刃は折れていた。まさに刃渡り4センチ。
こんなものに銀貨3枚も価値があるわけない。こんなものは即刻処分で、無価値のはず。完全に騙された。
刃渡り4センチを見て明らかに彼が落胆しているのがわかった。
「ちょっと! これは、どうゆうことなの! お金を返してよ!」
「そりゃ無理だね。お兄ちゃんが確認もせずに買ったのが悪いんだ。俺はただ売っただけ。よかったぜ、買い手がなくて困っていた“名刀”が売れてくれて。ぐへへ。——名刀だったもんで、素人が試し切りなんてして折っちまったんだな。まったくしょうがないぜ、なんでも切れるなんて思われても、刀がかわいそうだ。ぶへへへ」
「違うわよ! なんで折れているものなんて売っているの! 刃折れの名刀なんて嘘言って、ありえないじゃない」
「いやいや、そりゃ本当にそう言われてんだ。有名な話さ」
店主は、白々しく下手な嘘をつく。
「嘘よ! 騙したのね!!」
「騙した? そりゃ人聞きが悪い、オイラはここに物を置いて、それを気に入った客が買っただけだ。オイラの店が嫌ならあんたらから近づかないでもらいたいね。ここは、闇市。騙すなんて言葉を言っている時点で、負けさ。信じられるのは自分の目と口だけさ」
「ぐ、ぐぬ」
本来、闇市とは、そう言った場所だった。騙される方が悪いではなく、騙された方が負けなのだ。安く買うために、客の方も店主を騙すことさえある。ここは、そういった場所だった。
「大丈夫ですよ。ほら、武器があるって見せかけでも効果はありますし、鞘もあれば、木刀みたいにも使えますし、何より柄さえあれば、魔法で刃を作ればいいんです」
彼は、笑って見せてくれたが、私は、可哀想だと思って、他のものも買ってもいいのよ? と提案する。
「いえ、本当に必要ないです。僕は、これが気に入っているんです。刃がなかったのは残念ですけど、それ以上にこのフォルムが好きなんです」
「そう? それでいいならいいんだけど……」
すると、“刃折れの名刀”を売った店の店主は、追い出すように言う。
「ほれ、用がないならいった! こちとら、買う気のないやつに見せるほど、親切じゃあねえ」
その言葉に追い立てられるようにその場を後にした。
「サトシさん、本当にそれでいいの? まだ、お金に余裕があるから、別のものも買えるのよ?」
「本当に大丈夫です。別に強がっているわけではないですよ?」
と彼は笑った。
私たちの闇市での用件は武器を買うことだったので、ここでの目的は済んでしまった。だが、向こうの世界では、私の家が厳しい家柄であったため、彼とのデートも日が暮れるまでには戻されていた。まだ宵の口といった時間に彼とまだデートしていたい。
だから、私は言った。
「ねえ、まだ帰りたくないわ。少し……、もう少しだけ、買い物をしていたいんだけど、どうかな?」
「いいですよ。とっても楽しい場所ですもんね」
確かにここは楽しい場所ではあるけれど、もちろん、それだけではない。彼がいるからに決まっている。
東地区の闇市の真の闇は、奴隷の売買にある。
武器と防具の合間にごくごく稀にある奴隷商の近くを通ると、まるで武具のように生きた人が売買されている。そして、武具などと同じように気軽に売買されていた。
物のように人が……、この場所では、人ですら物だった。何も変わらない。闇がそこに転がっている。
「……すみません! 私を買ってください!!」
とその声で、私と彼は立ち止まった。
また、明日。




