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夜と一人

宜しくお願いします

 私は、大きく伸びをした。

「んーん。スキルって本当に便利なのね。気分爽快、快活明朗よ! もう大丈夫!!」

「それは、良かったです。でも、スキルで回復したからって、僕は信用しませんよ。今日1日は安静にしといてください」

 彼は、私を母のように諭す。そして、再びベッドに横たえさせた。

「そういえば、服の汚れがなくなっているのね。洗濯でもしたの?」

「ああ、カリーナが汚れを取ってくれたんです。水の精霊だから、汚れているのが許せないって」

 瞼が重くなり、擦る私。

「ふーん。そうなんだ。サトシさんは、ものぐさだからするわけないと思ってたけど、カリーナか」

「あれれ? 僕ってそんな印象?——急にどうしたの。すごく眠そうだけど?」

「そうなの。何だか、急にすごく眠くなってきちゃった」

「ほら、体は、まだ疲れているんですよ。だから、今日は、ゆっくり休んでください」

 ウトウトと閉じようとする瞼を必死に上げようとした。だが、猛烈な睡魔には勝てず、今にも意識は飛びかけた。

 もうすぐ寝るという時、彼が座っている方へ傾いていた体が水平に戻ったため、どこかへ行ってしまうことがわかった。

 カツカツとフローリングを一定のリズムで歩く音で私は催眠術にかかったように眠りに落ちた。



 目をさました私、そこには彼はいない。

 彼を求め、名前を呼んでみた。しかし、静かな部屋が返事をした。

 わかっていたことだが、この部屋のどこにも彼の姿はない。どこに行ってしまったのだろう。わからない。

 部屋に1つしかない窓には、昨日と同じような双月が心配そうに覗いていた。

「どこに行っちゃったのよ……」

 大きく息を吸って、深いため息を吐いた。私は、再び瞼を下ろした。

 そこには、変わらず、スキルの光がいる。

 暗く沈んでうずくまるように座る私に“成長グロース寄生虫ワーム”が聞いた。

『君は、一体、どうゆう人になりたいんだい?』

 だから、私は、“わからない”と答えた。

 次に、“ホープスターく者”が私に聞いた。

『まだ、どこか痛いの?』

 だから、私は“わからない”と答えた。

 “不知火しらぬひ親火ともしび”が私に聞いた。

『何が君をそんなに悩ませるのか?』

 だから、私は、“わからない”と答えた。

 “倍々(リバティー)”は、何も言わなかった。だから、私も黙っていた。


 でも、最後に月のような光が私に言った。

『彼は、外の森で力を使っているよ』

 それを聞いて一つしかない窓から外へ飛び出した。

 彼が力を使ったとか、そんなことはどうでもよかった。それよりも、私を一人っきりにしてどこかに行ってしまう方が、問題だと思った。

「大切な人が倒れて寝込んでいたのよ。女が大丈夫って言った時でも、そばにいてくれなきゃ! そうゆうところがわかっていないのよね! もう! そばで手を握ってくれるくらいしてもいいじゃない。お説教よ」

 今の格好がレースのインナーにホットパンツとあまりにも薄着だった。羞恥を感じてしまう。なんなら、少し後悔をしている。卑猥な格好で飛び出してしまって恥ずかしい。

 だから、一刻も早く彼の元に向かおう。

 ……それは、あまりにも無理がありすぎる。彼の元に向かいたい気持ちと私が薄着で恥ずかしいのは、さして関係無い。そう! 正直に私は、ただ単に彼に会いたい。

倍々(リバティー)! 力を貸して!」


 私の言葉に”倍々”が反応した。体の中で光がぼうっと力強く灯った。その黄色い光が私を包み込む。その効果は如実な変化をもたらした。

「!!」

 体は、羽のように軽い。

 三階の窓から飛び降りれば衝撃の1つもなく着地することができ、ひと蹴り走り出せば風を切り、ひとっ飛びすれば周りの建物を見下ろせた。

「な、なにこれ。どうなっているの? すごい!!」

 感嘆の声が漏れ出た。その声に反応したのは、“倍々(リバティー)”だった。

『俺は、お前の力を高めてやれる。だが、お前はまだまだ強くなる。弱いままで俺を使っても得られる効果は小さい。励めよ』

「ありがとう!」

 それ以降、こちらに反応してはくれない。”倍々”はツンデレなのかな、と思ってしまう。

 “倍々”の力を借りると、どれくらいの速さで走れるのだろうか。相当速く移動することができた。

 これは、走っている最中に気がついたけど、人とぶつかるかもしれない地面を走っていくよりも、屋根を伝って移動した方が速いことがわかった。映画のスターのようなことをしている自分がとてもおかしくて、楽しかった。

 走るとすぐに、目の前に城壁が近づいて見えてくる。

 日は、とっく沈んでいる。関所はもうとっくに閉まってしまっているはず。でも、閉まっていようと、城塞の高く聳える壁だって越えて行ける自信がある。


 

 次第に壁が近づいてきて、私と壁の距離がゼロになる。鼻先が少し触れた。

 そう思ったのも一瞬。壁と地面がひと続きのものであるようにで壁を走って登っていた。そう、まるで忍者のように。

 壁を登ってゆくと、じきに回廊に着いた。そこから彼を探すためにあたりを見渡す。森を視認すると、そこから飛び降りた。

 城壁の高さは、50メートル強あるが、私はここから飛び降りても、無傷でいられる自信があった。そこを全然高く感じなかった。テーブルの上から飛び降りるように簡単なことだと感じた。

 着地する瞬間に私を取り巻く光は、一瞬強くなる。ずどーんという、音が辺りに響く。

「きゃっ……。まさか、そんなはず。私って女よね。はあ、どこの恐竜よ。アァ、、もう、、、恥ずかしい」

 砂煙が巻き起こり、収まると、足元は少し窪んでいた……。

 その事実に狼狽をし、顔は赤くなる。

「こ、このインナーが重いのよ! このインナーを脱げば……。いいえ、やめておきましょう。結果は見えていますもん。彼を探すことが先ね」


 だから、私はすぐにこの場を逃げるように立ち去った。

「……彼には黙っとこ。こんなのさすがに笑えない。ダイエットよ。ダイエット」



 彼は、すぐに見つけることができた。なんといっても、彼がいる場所は、私のなんて比べるまでもなく、土煙が立ち込め、激しい破壊痕が残っていた。だから、すぐに見つけられた。

 見つけた彼は、森という危険な場所で仰向けで倒れ伏していた。

「もう。なんで、こんなところで寝ているのよ。危ないわ」

 カリーナが眠っている彼のお腹の上で座っている。私に気がついたようで、話しかけた。

「力をコントロールするために修行をする、というので付き合ったが、体が耐えきれなかったようだな」

「そうなの……彼は大丈夫?」

「気力をごっそりと持って行かれていたが、大丈夫だろう。だから、そうキツく睨んでくれるな」

 私は、彼に近づいてしゃがんだ。気持ちよさそうに寝ている彼のほっぺを人差し指でつつく。

「一人で隠れて修行ですか? 私は、寂しかったんだからね」

 寝ている彼に文句を言った。

 そして、仕方ないなと思いながら膝枕をし、スキルを発動させる。


スキル:祈り輝く者(ホープスター)


 私のスキルは、彼の体を淡い緑色の光で包み込む。擦り傷だらけだった彼の体から傷が消えていった。

 やがて、彼から光が消えて、彼が目を覚ます。

「うーん。よく寝た」

「何がよく寝たなの? こんなところで寝ているなんて信じられない。もしかしていつもここで寝ていたなんてことはないでしょうね」

 彼が私と目があって一瞬硬直する。そして、起き上がって驚いたように言った。

「な、何でこんなところに!?」

「あなたがあまりにも帰ってこないから、迎えに来てあげたのよ?」

 少し落ち着いた彼は、私の格好に目を這わせて、クスッと笑った。

「そんな格好で?」

「……、ええ。少し寒いわ」


 そりゃそうです、と彼が笑って、防寒のために羽織っていたマントを纏わせてくれた。

「ありがとうございます。迎えに来てくれて」

「お代は高くつくわよ? そうね。明日買い物デートをします。フォロミー」

「喜んで、お伴します。最近は、ずっと一緒にいたけど、デートって何だか久しぶりな感じがします」

「そうね、私はそれでも幸せだったけど、女にとってデートってやっぱり特別なのよ」

 そうと決まると、すぐに、彼に抱きかかえられた。

「では、帰りましょう。ひとっ飛びしますね」

 それは、本当にひとっ飛びだった。彼が一度地面を蹴ると、少し遠くにあった城壁を飛び越えていた。

 私は思わず声を張り上げた。

「すごい!」

「でしょ?」

 その時の彼はどこか誇らしげだったのを覚えている。

 それは、しばしの夜空のデートだった。私は、彼の腕の中で、嬉しくて、楽しくって、安心した。明日が楽しみになった。

また明日

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