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砂鐵の鎧  作者: 安斎亮
2/2

1話~4話

砂鐵の鎧 1話



鳴り止まない目覚まし時計と

「早く学校行きなさい」の置き手紙、

嫌という程の絶望に呑まれながら悟った。


「…遅刻じゃん」


……


「哲~ 遅刻はしても朝御飯は食べろよ?」


靴紐を結んでいる最中に、

伯父さんが目玉焼きに塩を振った食パンを渡してきた。


「分かってるよ!」


「あと13分だな」


「そうだね!」


「少女漫画みたいな事でもすれば?」


「交差点の角でイケメンにぶつかるなんて

そんなバカみたいな奇跡ありえねぇよ!

そもそも俺男だし!時間無いから行くね!」


「行ってらっし…」


バタンッ


このド田舎で、食パン一切れを咥えたまま

学校に向けて一気に走り出す。

私服の一般人の中に時間的に場違いな制服姿を晒しているから、

周りの先入観に押し潰されそうになって虫酸が走る。


畑の脇道を進んでいると校舎が見えてきた

丁度その頃に絶望の鐘の音が響く。

普段なら何気無い音なのに、

聞く状況によってはこんなに違うのかと驚いていると

不意に足が止まっていた。


動かそうにも息が続かない、呼吸を整える。

…そして、また俺は走り出す 気分はメロスだ。

(別に友人の為でもなんでも無いけどな)

そんな事を考えながら、

引き攣った笑顔を作って門の前に立った。

チャイムと同様にいつもは気にならない筈の

監視カメラが此方を見ている。


いつもと違う物事に苛立ちを覚えながら、

寝坊した自分を恨んで廊下を駆け出した。


そこに一時間目のチャイムがけたましく鳴った。

目前にあるクラスのドアを勢い良く開ける。


「すみません!遅れました!」


「遅いぞ~ 一時限目に3分遅刻だ」


先生の声と共に教室中に笑いが響く。


「哲くん寝坊かい?」


隣の席の遼が素っ気なく疑問を投げ掛けてきた。


「あぁ、寝坊だ」


授業は正直どうでも良いんだ 大概分かってる。


俺が欲しいのは、休み時間だ。

高嶺の華を口説き落とす夢を見てるんだ。

高嶺の華、『天野來未』…

この学校に美人ランキングが有ったら堂々の1位な生徒会長だ。

中学生に恋愛はまだ早いと言う人も居るが、

俺はそうだと思わない、

別に良いじゃないか、恋してしまったのだから…


「哲君?寝坊は駄目だよ?」


唐突に声を掛けられた。声の主は來未さんだった。

窓から顔を出してる状態だったので、顔が見れない。

いや、咄嗟の照れ隠しの理由には丁度良いだろ?

恋の力は凄まじい物だ。

顔を見なくても声だけで「表情」が分かる。


「夜までゲームでもしてた?」


「まぁ、そんな感じだよ。

そう言えば、また隣の組の男子に告られてたね」


「当然、断ったけどね~」


「來未さんはモテるから羨ましいよ、

僕は好きな人に見向きもされない」


「いやー、私もだよ 似たもの同士だねー」


「...誰が好きなの?」


「それは言えないかなー、ハハハ!」


「そっか...來未さんなら

告白さえ出来ればOK貰えるよ、頑張ってね」


「そうかな? でも、勇気出た!ありがと!」


とても近くから足音が

まるでグラデーションの様に奥に進んでいく。

…明日は進展出来るかな…


感傷に浸っていると、あの二人が来た。

山本遼&若桜夕夏梨の幼馴染コンビ…

変わらない顔触れだ。

幼稚園からの仲だ。

二人の趣味も分かるし、話し方も馴れた。


「どーだった?上手く行った?」


「言ったと思う?」


「行かないと思うけど…フフッ」


遼の苦笑に被せるように夕夏梨が話を始める。


「今日ね!とっても良いことが有ったよ!」


「なにが有ったの?」


「んーと!秘密!内緒だよ~!」


「そっか…」


さっきの遼と同じような乾いた笑いが口から零れた。


いつもと違って、やけに夕夏梨の話し方が器用なので、

本当に良いことが有ったんだろうなと、漠然と、そんな風に思った。


気付くとチャイムは既に鳴っていて、

最後の学活の時間に成っていた。


「明日は異人管轄機関の異人測定だから、

八時半に時雨病院の前に来いよなー。

それと、採血もするから採血駄目な奴は後で言いに来いよー」


それ以外は殆ど聴かなかった、学級通信にも載ってることだ。

それでも、異人測定…何故か不安を煽るそのフレーズは、

いままでに無いほど俺を理由の無い恐怖が襲った…


「哲君~一緒に帰ろ!」

來未さんが声を掛けてくれた、今日で二度目だ。

ちゃんと日記に書かないと…

「來未さん!?家此方だっけ!?」

「いいや!今日は婆ちゃん家に行くんだ~」

「そっ…そうなんだ!」


こんな絶好のチャンスを逃す事は出来ない。

「据え膳食わぬは男の恥だ」と

伯父さんに笑われてしまう…

「一緒に帰ってもらって…良いですか?」

「私が先にお願いしたんだよ~?駄目な訳無いよ!」


そこから二言三言話をした 他愛もない、ありふれた話だ。

その話題は、彼女の口から突然零れ落ちてきた。


「どう?異人測定怖い?」


この話題が出てくることは想定していたが、

かといって心の準備が出来ていた訳ではない。

「異人測定!? …異人測定…正直怖いかな」

「やっぱり?だよねー!」

「來未さんも怖いの?」

「私だって女子だよ?

幽霊も怖いしジェットコースターも異人測定も怖いよ!」

「そっ…そっか!」

「…哲君はさ 私が異人でも怖がらずに友達で居てくれる?」

「もっ…勿論、友達だよ!」

「そっか!良かった!」

すると、遂に恐れてた事態が来た、お別れの時間だ。

「今日は楽しかったよ!ありがと!」

「う…うん!此方こそありがとね!」

…暫くは余韻に浸っていた、これも日記に書かないとな…


それから3時間、家族と食べたご飯もゲームも課題すらも、

何一つ上の空になってしまった。

風呂の中で鏡に向かって赤面をしながら、

陽気に鼻歌を歌ってる事しか出来なかった。


そして、ベットの中に入り込む。

まだ頬に手を添えると暖かい。

來未さんの前ではどれ程顔を染めてたのだろうな。


そして、眠りに付いた。




砂鐵の鎧 第2話


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

御早う御座います 朝の報道ステーションです

早速ですが、速報です

2年前に世界最初の異人を発見し、

今や異人研究機関第一人者である

生きた偉人「アンダー・ウィルソン」博士の

国民栄誉賞授与式が日本時間、

深夜0時3分にニューヨークで行われました

23歳の若さで英雄に登り詰めた彼の半生、

是非御覧くださ…

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

          プツッ…


異人煽りが嫌いな伯父さんがテレビを切る

テレビの報道番組でキャスターの長話を

飽きずに聴ける程視聴者は暇じゃない…

こんな朝っぱらから陰気臭い話を垂れ流して

一体誰が得をするんだろう…


「伯父さん、そこのケチャップ取ってくれる?」


「目玉焼きに掛けるのか?塩の方が旨いぞ?」


「叔父さんの妙な塩推しはどうでも良いから、

そろそろ行かないと遅刻しちゃうよ

今日は遅いからって油断してた」


「昨日みたいに寝坊だって言っとけば良いのに…

急いで朝食食べるよりずっと良いと思うけどなぁ」


「生憎だけど、今日は異人測定と健康診断だからさ

遅れて行くと個人費に為っちゃうし…」


「そーかそーか…異人測定ねぇ…」


「政府の御偉いさんは

よっぽど異人のテロを防ぎたいみたいだね」


「何々?異人の話?」


台所に居た母さんが話に割り込んできた


「異人と言ったらアンダー博士とお父さんよね!

異研プロジェクトの精鋭だったんだもの!」


「母さん…お父さんの話しはよく覚えてるよね

時々弟と息子の顔忘れる癖にさ…」


「あら失礼ね、名前は忘れた事無いわよ」


若くして認知症な母さんは

この話を一昨日もしたことを忘れてる。


「あー、その話は帰ってきたらね?

そろそろ行くから水筒お願いね」


面倒臭く為ってきた会話を途中で切って自室に逃げ込む

制服も着ないと行けないし間に合わないかもな…

[8:40]を写し出す目覚まし時計を尻目に思った


「じゃー行ってきまーす」


「行ってらっしゃーい」


制服に着替えて走り出す もう時間が無い。

まぁ、遅れたら遅れたで良いんだけど…

家を出て畑の一本道の脇道を通った突き当たり。

壁に(ひび)が入ってる黒ずんだ病院に、

もう皆集まっていた。


「皆集まったな?よし!出席番号順に並べ!」


その号令と共に酷く五月蠅い足音が起こる。


「哲君!今日も寝坊したの?」

...出席番号順にした先生を少し恨んだ。

目の前に居る夕夏梨が話を振ってくる。

「…寝坊は昨日だろ 今日は…」


「そっか! 哲君はドジだから

今日も来ないと思ってたよ!」


「話聞けよ…」



「あっ、哲君!今日はこの後暇?」


「そう言う遼は暇なのか?」


「まさか!今日は塾だよ!

…話変わるけどさ 二人は亜人じゃない自信ある?」


「…どうなんだろうなぁ?分からねぇよ」


「私はぜっっっったい無いよ!そう言う遼君は?」


「僕も無いよ! 」


「…なぁ、前々から思ってたんだけどよ

…お前ら付き合ってんの?」


「うっ...うん...」「そうだよー!」


「…え?」


「遼君照れちゃって…//」


「えっ…マジで? 遼…お前…」


「ごっ、ごめんね哲君…昨日告白されたんだ

夕夏梨って意外と危なっかしくて…

包丁持って告白されてNOって言える?」


衝撃の発言をぶっ込まれた所で9時半に為った。

廃病院が開き診察が始まる。


「陽菜野中学の異人測定です 最初の人は入って下さい」


病院の奥からいつもの爺さんが出てきた。


「異人だった場合は麻酔針を打ちますね

逃げられたら困りますから…」


…ここから先の話は全く持って聴いていなかった。

無意識に來未さんを探してたんだ あとから來未さんは、

出席番号一番だった事を思い出した。

上の空な意識を引き戻してくれたのは遼だ。


「…哲君?大丈夫?」


「ん?あぁ 大丈夫だよ 」


「今日調子悪そうだよ?先生に言ってこようか?」


「大丈夫だよ、多分だけどね」


そんな話をしている間に遂に時間が来た、

心臓の脈打つタイミングが早くなる...


......



2分間 それが検査に掛かった時間だ。

ただ注射して、それを検査機に入れるだけの、

何てことない検査だった。


出席番号が一番後ろだから、遼も夕夏梨も既に帰っていた。


まぁ良いか どうせ明日会うだろ。


異人測定の終わって足取りの軽くなった俺は、

心の中でスキップをしながら家のドアを開け放った。


「ただいま~!」


今、ドラクエだったら多分、

[返事がない 只の屍のようだ]とログが出るな

別に死んでないけど...


リビングを除き込むと、

とても静かな母とやけに慌ててる伯父さんが、

その重い唇を開いて此方に対しての言葉を掛ける。


「哲、今から病院に行くわよ」


「...病院?」


「貴方の血液に難病の兆候が有ったんですって...

今から救急車が来るから、それに貴方は乗りなさい」


砂鐵の鎧 第3話


家で色々な準備をする あっちでスマホは使えないだろうから

充電器を挿して置いておこうかな...


そんなこんなでバタバタしていると、救急車がやって来た。

母さんも伯父さんも泣いて医師達を迎えてる...


担架に乗るのは始めてだ、救急車に乗るのも...

意外と恐怖は無かった、異人測定の時より遥かにマシだ。

大の大人二人に担がれて救急車で脈拍を随時調べられる。

相当な病気なのか、医者達は口を押さえてキョドっている。

そんな挙動しないでくれ、不安に成るから...


「脈拍、119.67 正常です!」


「よし、麻酔を投与しろ」


「了解しました!」


気が付くと腕には点滴が既に付いていた。

気付かぬうちに意識が所々飛んでいたらしい。

点滴に入っていた液体が徐々に、徐々に減っていく。

気分が良くなってきた 今ならなんでも出来そうだ。


「渡辺... 哲くん? 今気分はどうかな?」


「...ウッ...カッ...アッ...」


あれ?上手く声が出せないな...


「マズイな...麻酔の投与を減らしてくだ...」


...耳も聴こえなくなった...最近の麻酔はどうなってんだ...

すると、若い医師がボードに何かを書いて持ってきた。


「今、耳は聞こえますか?

聴こえなかったら僕の手を強く握って下さい」


指に力を入れて伝える。


また彼が何か書いている。

「流れてる涙は拭いた方が良いかい?」


...涙?頬の感触も消えてるのか...?


今回を力強く手を握り締める。

でも、彼は頷いてハンカチをポケットにしまった。

手を握ったと思ったのに、もう力が入らない...

こんな状態になると、まるで他人を操作しているみたいだ。


...意識も朦朧としてきた...目蓋が重くなっていく...




......



眩しく光るライトを前に薄目を開けた。

医療ドラマで良く見る光景だが、実際見るのは始めてだ。

それは、手術の始まりの時のフェーズアウト前の描写だ。

つまり、ここから手術の描写を映すはずだ...


映す筈なのに...


メスを持っていたのは機械だった 人じゃない。

半開きだった目を開けて 血眼で人肌を探すが見当たらない。

どんどん風景と理解が合致していく。

真っ白い手術室の中に俺は居るんだ。

執刀をするのは白銀に光る温もりなきプログラムの塊。


そこに、音が聴こえた 救急車以来の[音]だ。

機械のウィンウィン言う音もそうだが、

それ以上に驚いたのは次の誰かの一言だった。

脳では理解してなかったのに、体は分かってたみたいだ。

そして、脳が忘れていた嫌悪感が一気に押し寄せてきた...




「これより、異人、『ワタナベ』の執刀を行います」


砂鐵の鎧 第4話


...一体どれぐらいの時間が経ったのだろう...

10時間位か?それとも一日?

時計も無い手術台では何も分からない。


鉄の腕に腹を開けられても痛みを感じないのは、

麻酔が効いてるからだろ?何故意識を失ってないんだ?


疑問が疑問を呼んで留められた俺の右手を掴んでる

...不意に色々な記憶が脳を飛び交った

走馬燈...とは多分違う...でも何か...知ってるはずの...

足が長く、髭の生えた俺が目の前に映って そして俺に言...


......



一体どれだけの時間が経ったのだろう...

手術が始まってからじゃなく、

俺が意識を失ってた時間は一体どれぐらいなんだろう...


でも、さっきの走馬燈の様な物で何か、目が冴えた気がする...


でも、抜け出せない...


そんな事をしてるうちにメスの痛みを少しだが感じ始めた。

麻酔が切れたら、消えてた筈の感情が甦ってしまう...


...いっ...痛っ...ああぁぁぁぁぁ!


皮が爛れて、肉が爛れて、骨が砕けて...

神経を引き千切ってしまいたい程の衝撃で...

一瞬、世界が色を失った...

そして、首の力が抜けた、頭が上げられない。

痛みが引いていく。


そして...スピーカーから「最後」がやって来る...


「もうサンプルも取れたろ、殺せ」


こんな、なんでも無い日に死ぬのか...

せめて誕生日とか...いや、死に贅沢を求めちゃいけねぇな...

今思えば、なんて事無い人生だったな...

昨日までフツーの人生だったのに、

いきなりこんな所に連れてこられて、痛い思いして...


あれ?なんでこうなったんだっけな...思い出せねぇ...

何か...病気だっけな?いや、違うな...

そもそも今日は何の日だっけ...?

母さんの誕生日...それは明後日だったか?


...


異人...ワタナベ...

俺が異人?いやいやまさか...

それはないだろ...だって確率は1/24700だって...

そんなわけ...ないだろ...?


...あー...そうだった...

異人なら...異能の一つや二つ使えるだろ?

こう言うときには出せないのか...

機械の腕が脳に注射を打とうとしてくるのを

ただ黙ってみてるつもりはない...何か無いか?何か...


3秒。確かそれ位だ。絶望に達するまでの時間。

腕も脚も固定されて、異人御得意の異能は使えない。

俺の人生終了だ、こんな変な終わり方じゃ満足出来ないなぁ。





...一瞬、耳を疑った



聴こえてきたのは壁の破壊音と目の前の機械の腕の断線音だった

そして、声が聞こえる



      「やぁ渡辺哲...























         君を助けに来た」

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