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 「コイツのことか、女」じゃねーよワタシ馬鹿。

 締まらない恥ずかしい。カッコつけるんじゃなかった。慣れないことはするもんじゃないね……


 「なんで。よりにもよって。知り合いって。せっかくの祭りの始まりがコレですか?」


 クールキャラをかなぐり捨てて抗議する。


 「ナニそれヒドくねぇ?むしろ運命とか感じない?」


 オレンジ色の髪の女がヘラヘラ笑いながら問いかけてくる。

 アイダ・リホ。高校の頃の同級生で、同じクラブに入っていた。その頃は普通の黒髪で、ロングヘアだったから、今のオレンジ色のベリーショートは随分思い切ったイメチェンだ。おかげで最初は全くわからなかった。


 「運命?……フラれた人とこんな状況で再会とか、むしろ気まずさしか感じない」


 そう、やめときゃいいのにワタシときたら、高校時代彼女に告白なんてしてしまっていたのだ。同じクラブということで距離が近くて、話してると楽しくて、ついつい舞い上がって勇気なんてものを振り絞ってしまった。

 しかもだ。ワタシは未だにそのことを「若気の至り」などと笑えない。

 今でも時々夢を見る。つまりぶっちゃけ今でも忘れられない。

 ワタシは誰かに告白されたことなんてなくて……そして告白したのはこの人だけなのだ。

 26才にもなって、高校生の頃の恋心を引きずっている、というのはどうにもみっともない。みっともないがそれ以降彼女を忘れられるような出会いは無かったし、求めもしなかったのだ。

 なんでとっとと次にいかなかったのか。なんでとっとと忘れようと努力しなかったのか。

 ……今、とてつもなく後悔してます。


 「フラれた?……あぁ、そう思ってたんだ?」

 「それ以外に何が?」

 「あたしとしちゃあ、フったつもりなんて無いけどね」

 「え?」


 混乱と微妙な居心地の悪さでソワソワしていたワタシに彼女は予想外の言葉を告げてきた。


 「ハルカゼにコクられた時、あたし思ったんだ。『今のあたしじゃ無理。ハルカゼと釣り合わない』ってさ」

 「……はー?何言ってんの、クラスで一番の美人だった癖に」

 「こういうのは見た目の良し悪しだけじゃないんだっつーの。てか別に一番じゃ無かったし。」

 「一番だったんだよチクショウ」

 「じゃあ何であたし嫌われてたんだ?毎日他の女子から睨まれまくってたし、男子からも距離置かれてたし」

 「女子から嫌われてたのはむしろ容姿が良かったからこそだよ。しかも男子と仲良くなるの、君は上手かったからさ、まぁ嫉妬だね。んで、途中から男子からも距離置かれたのは君に嫉妬した女子が君の悪い噂を流しまくったせいだよ。多分全部捏造だけど」

 「何それコワっ!?知りたくなかったぁ……」

 「女子からそんな扱いを受けてる君に近づいたら面倒だってんで、男子もみんな君から離れちゃったのさ」

 「でもハルカゼ……っつーか、ハルカゼ君達、クラブの皆は最後まであたしと絡んでくれてたよな?」

 「そういう色恋やら嫉妬まじりの人間関係が面倒だって思ってるヤツばっかだったからなぁ。……でも、ワタシ達みんな、君に……その、こ、恋をしていたに違いないよ……」

 「いやそれはナイナイ。だって君たち『三次元の女に用は無い』って言ってたような人達じゃんか」

 「別にワタシはそんな事言ってないけどね……まぁあのクラブの連中の殆どはそういう事を公言するような奴らだったけど、ぶっちゃけ強がりだよ。みんな女の子に告白する勇気なんて無くて、燻っていただけなんだ」

 「えー、そうかぁ?」

 「そうだよ」

 「そっか。わかんなかったな。やっぱなんやかんや言ってあたしは女で、皆は男だったからってことかなぁ。何か寂しいぜ」

 「……男だから、とか女だから、とか……そういうの、あんま好きじゃない。雑過ぎるよ」

 「……変わんねーなぁ、ハルカゼは」


 まるで高校生の頃に戻ったかのように話が弾む。正直、今でもワタシは女性と話すのは苦手なのだけど、彼女とはとてもよく話したし、その一つ一つが楽しくて仕方が無かった。

 何だか悔しいが、やっぱり今でもワタシはアイダ・リホが好きなのだ。馬鹿じゃないんですかワタシ。


 「変わってなくて安心したぜ、ハルカゼ。それでこそやりがいがあるってモンだ」

 「いや、どーいう意味なの」

 「……なんつーかなぁ、あたしはあんたにゃ敵わねーって思ってたんだ」

 「いやわかんないから」

 「あたしよりハルカゼの方が『特別』って感じがしたんだよ」

 「特別……?」

 「おう。単純に容姿が良いだの勉強ができるだの、そんなありきたりな評価基準とは別のところで、あんたはあたしとは別次元にいるって感じたんだよな。んで、そのあんたからコクられちまったもんだから、思わずつっぱねちまった。あんたと恋人同士になったら、あたしがどれだけつまんねぇ人間かって事を常に突き付けられそうでさ」

 「なるほどなるほど。全くわかりません」

 「……まぁあたしにもはっきりとは説明できねぇしなぁ。とにかく、あんたが嫌いでフったってワケじゃねぇんだよ」

 「今更そんなこと言われましても」

 「だよなぁ……なんせ――」


 突然、彼女から殺気が迸った。


 「……!?」

 「――いまやあたしは二人共“不適合者”――」


 ――来る。

 向けられる殺気につられるように、ワタシは彼女を「敵」だとはっきり認識した。


 「殺し、殺される関係なんだからなぁっ!!」


 真っ黒な“結界”がこの場一帯をすっぽりと覆った。



 ――――――――――――――――――――――



 「殺し、殺される関係なんだからなぁっ!!」


 そう彼女が吠えた瞬間、辺り一面が真っ黒に染まっていった。


 「な、なに、これ……」


 茫然とした。目に映る景色すべてが黒く塗りつぶされていく。まるで夜空に放り出されたような気分。

 商品が並ぶ棚も、服を着せられたマネキンも、レジの設置されたカウンターも跡形も無く消え去ったかのように見えなくなった。

 ただただ真っ黒な、何も無い空間が広がっていた。

 その空間の中で色彩を持っているのは周りにいた人々だけで、その中心で対峙するハルカゼ君とオレンジ色の髪の女以外は皆パニックに陥っていた。


 「なんや、なんやねん!?」

 「ここどこや!?」

 「う、うわぁぁぁぁぁっっっ!!」

 

 喚きながら走り出す者、茫然と立ちすくむ者……

 つい先ほどまで「日常」の中にいた人々は、いきなりの「非日常」への突入に耐えられていなかった。

 それは、わたしも――


 「なんなのよ……!どういうこと!?」


 ワケがわからない。わからないがとにかくマズい。考えるまでもなく、デタラメなことに巻き込まれてしまっている。


 「落ち着け、エンドウ」

 「……!?店長!?」


 突然肩を叩かれたので振り向くと、こんな状況にも関わらず平然とした店長がいた。


 「お、落ち着けるワケ……!!」

 「そりゃ俺だって参ってるがな。どうやら面白いことが起きてるっぽいぞオイ。もったいねぇじゃねぇか、パニクってこんな面白過ぎる見せモンを見逃すなんてよ」

 

 店長はくいと顎でしゃくって対峙する二人を示した。そちらを見ると……


 「――おおおらぁっっっ!!」


 彼女が雄たけびを上げながらハルカゼ君に向かって突進していた。

 その手にはどこから取り出したのか、赤い棍棒が握られていた。

 黒い宝石が埋め込まれた、彼女の身の丈程はありそうな巨大なものだった。

 それが凄まじいスピードでハルカゼ君の脳天に振り下ろれる。


 「……っ!!」


 ハルカゼ君が見かけによらず俊敏な動きで横に飛んでそれを避ける。

 その手にはこれもまたどこから取り出されたのか、灰色の大鎌が握られていた。

 岩石から無理矢理切り出したような歪な形をしている。


 「そらそらぁっ!!」


 嵐のような棍棒の連打がハルカゼ君を襲う。

 それを時に避け、時に大鎌で受ける。


 「はは、見ろよエンドウ。あいつら少年漫画みたいなコトやってんぞ」

 「だからなんでそんな落ち着いてられんの!?」


 まるでアクション映画でも見ているような気分だった。夢でも見てるのか、とも思ったけれど、そこにある「戦い」は本物の質感を持っていた。

 


 あの棍棒はハルカゼ君の頭を簡単にカチ割れるだろうし。

 あの大鎌は彼女の首をあっさりと刈り取れるのだろう。

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