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3-3 《?駆けずり回る負け犬共?》-6

 やられっぱなしだった。


 ……さっき気づいたんだけど、僕、ロクに喧嘩なんてやったことないんだよねぇ……

 チャラ男の拳や足が次から次へと僕の体に叩き込まれていく。僕も対抗して闇雲に腕を振り回してみるけれど、かすりもしない。


 「はっ、なんだそりゃ!?殴ってるつもりかよオイ!!」


 あっさり避けられてそのままボディブロー、金的の追い打ち――


 「ひゃっはぁ、死ねブサイク!!」


 顔面へのパンチ。鼻が潰れる。

 地面に倒れこんだところにさらに顔面にサッカーボールキック。


 悲鳴すら上げられない。

 意識が途切れそうだ。

 全ての事柄の輪郭がぼやけていく――


 最早思うように動かない体。それでも……


 「う、うぅっ……」


 立つ。何でこんなに頑張っているのかわからなくなってきた。

 ここまでボロボロにされてるのに、まだ立てるなんてスゲーな。

 “不適合者”だからか?


 「はっ、ザコが……まぁだやるつもりかぁ?」


 男は完全に僕を見下している。


 「顔面ボコボコだなぁ?まぁ前よりかはマシじゃね?なーんてな!」


 ぎゃはは、ぎゃはは、と不愉快に笑う。


 「よぉ、見ろよコレ。――つーか、もう目見えてねぇんじゃねぇか?おーい、見えるかーコレぇ?」


 男はいつの間にか、僕の財布を奪っていた。


 「いつの間に……」

 「テメェがあんまりにもザコいからよぉ、ボコるついでに、なぁ。全然気づいてなかったみたいだなぁ?」

 

 そう言いながら僕の財布を漁り始めた。


 「名前分かるヤツ、入ってねぇの?……お、保険証みっけ。……ウツキ・キキ、ねぇ」


 財布を投げ捨て、男はホロフォ(ホログラム・フォンの略)をいじくりだした。


 「何、やってんだ……?」

 「――あん?いやぁ、どーせだからよ、テメェがどれほどのモンか「つうしんぼ」で調べてんだよ。名前さえわかりゃあ色々分かるだろ?……よし出た――うーわ、やっぱザコじゃねーか」


 

 >>>>>>>>

 《会話》の“不適合者”:ウツキ・キキ

 出席番号26465番


 ・ステータス

 「ちからづよさ」:くそです

 「がんじょうさ」:くそです

 「すばやさ」  :くそです


 ・“C.O.W”

  相手に自分の「命令」に強制的に従わせる。ただし、相手の意思の強さによって効き目に差がある。

 特に、“不適合者”に対しては効き目が薄い。


 ・殺害人数

  “不適合者”:0人


 ・破壊個数

  社会の歯車 :28個


 ・特記事項

  なし

 >>>>>>>>


 

 僕の「つうしんぼ」はこんな感じだ。


 「シけてんなぁーオイ。フツーの人間としても“不適合者”としてもイイトコ無しじゃねぇか」

 「う、うっせぇ!――“自分の首を絞めろ!!”――」

 「無駄だってぇの……」


 僕の“C.O.W”での「命令」を受けても、男の手はほんの少し上に持ち上がっただけだった。


 「ソレもタネがわかっちまえば大したことねぇなぁ。さっきはイキナリだったからちょい焦ったけどよー……なんつーの?そーいうモンだ、ってわかっちまえばどうってことねーなぁ」


 無防備に男が近づいてくる。迎え撃つように腕を振り回したが、あっさり避けられた。


 「落ち着け落ち着けぇ。ホレ、これ、オレのステータスな」


 ホロフォの立体映像を見せつけてくる。


 ……男のステータスは、全て「とてもよくできています」……つまり、最高評価だった。


 「勝ち目ねぇって、な?」


 最初の苛立った様子はすっかり無くなっていた。むしろ憐れむような口調だ。


 「あーあ、最初はムカついてたけどよーここまでヒデェと可哀想になってくるわ……」

 「ぐっ……!」


 ある意味嘲られるよりも屈辱的だった。


 「……もういい、もういいよお前。殺さないでやるからもう帰んなぁ。シラケちまったぜ。女だってまた調達すりゃあ良いしさぁ」

 「お前……」

 「あん?」

 

 「何で“不適合者”なんだ……?」


 気になっていた。人生楽しそうなチャラチャラしたコイツが、何で……?


 「あー、それな。多分オレの趣味が悪いんじゃねぇの?」

 「趣味……?」

 「死体にしか興奮しねぇの、オレ。女の死体。オレこの通りモテるからさぁ、女はほっといても寄ってくるし、セックスも沢山できるけどよー、正直本気で気持ち良いと思ったことって無かったんだよなぁ。なんでだろーなぁ、って思ってたんだけどよぉ、この前……っつっても“不適合者”になる前のことなんだけどなぁ……」


 「姉貴が首吊って死んでたのを見たんだわ」


 「付き合ってた彼氏にフラれたとかなんとか、クソ下らねぇ理由でよ」


 「部屋の中央で、プラーン……って。馬鹿みてぇだったよ」


 「でもな」



 「オレ、ソレ見てメチャクチャ興奮してたんだよ」


 

 「姉貴にだぜ?」


 「ヤバくね?ヤバいよなぁ」


 「気づいたらソレオカズにしてオナニーしてたね」


 「イった時はそりゃあ気持ち良かったぜ」


 「相手のいるセックスよりも、何倍もなぁ」


 

 「まぁそういうこった」

 「あのままいったら、寄ってくる女を全員殺してた」

 「そりゃあシャカイにテキゴウできねーわな」

 「だから“不適合者”なんだろ、多分」

 「実際“不適合者”になってからは女はぶち殺してから犯してるしなー」

 「何度やっても飽きねぇんだなコレが」

 「ヤベェんだよマジで」

 「潰れた頭見てたら何度でも勃起できそうだしよ」

 「いくらヤっても全然満足できねー」

 「えぐり出した心臓見てるとそれだけで射精しそうになるし」

 「オッパイちぎりとって、ソイツにマーキングしてやったのも良かった……」


 

 「――うるせぇ、――“喋るな”――」

 

 僕は我慢できなくなって、そう言っていた。


 「……だからソレ、効かねえって」

 「くだらねーんだよ」

 「何が?」

 「死体愛好家なんていくらでもいるっての。ネットでちょっと調べりゃあそんなヤツ、一杯いるだろ」

 「そんなかでも特にオレはヤバいんだろ」

 「どっちにしろくだらねぇんだよ!」

 「オイ、なーににそんなキレてんだよ。“不適合者”に選ばれた理由なんてどうせみんなくだらねぇのばっかだろ?」

 「何だと……?」

 「何お前、“不適合者”にそんなに夢持っちゃってんの?選ばれた、とか何とか言ってっけどよぉ、要は社会に適合できなかった負け犬だろ、オレら。“廻”が与えられなきゃ、そのまま社会に殺されてただけだぜ?お前が“不適合者”になった理由だってよぉ、どうせそのツラで女できなかったとか、そんなんだろ?」

 「うるせぇ」

 「まぁ~単純な理由だよなぁ。本人にとっては大問題だろうがよぉ、社会全体からしたらそーでもないだろ。精々ワイドショーとかドラマのネタになる程度だろ。「社会の歯車」共にとっちゃ丁度良いオモチャだぜ。自分の身に降りかかってこなけりゃ、だけどよ」

 「うるせー……」

 「おとなしく、誰の目にもつかねぇようにさ、ヤりたいことヤって過ごしとけって。お前の“C.O.W”ならいくらでもやりようあんじゃん。で、他の“不適合者”に見つかったら、潔く死のうぜ?だからよ、その時潔く死ぬ為にだなぁ、生きてるうちにヤりたい放題ヤろうぜ?」

 「うるせぇっての!」

 「まぁまぁんな熱くなんなってぇ。つーかよぉ、オレと組まねぇ、お前。その“C.O.W”がありゃ色々『工夫』出来そうじゃん?とりあえずお前が生きてる時にヤって、その後オレがぶっ殺して楽しむ……いや、お前も死体姦すっか?なぁ……」



 「ぁああああああああっ!!うるせぇうるせぇ、う・る・せぇ!!!」

 「くだらなくねーよ!!」

 「僕の苦悩はくだらなくねーよ!!」

 「この体、この顔でどれだけ苦労してきたか!!」

 「お前にゃわかんねーよ!!」

 「わかってたまるかよ!!」

 「僕の絶望は……」


 「僕だけのモノだ!!!」


 「誰にも語らせねぇ!!」

 「この絶望に耐えて、やっと!!」

 「やっと……っ!!その見返りが得られたんだ!!」

 「“不適合者”!“廻”!!“C.O.W”!!!」

 「やっと人生を逆転できるような力を手に入れたんだよ!!」

 「諦めたくない……!!」

 「自分に胸を張れる自分になるって事をさぁ!!」

 「僕はまだ足搔くぞ」

 「僕はまだ生きるぞ」


 



 「―――このまま終わるのが、気に食わねぇからだ!!!!!」




 殺す。コイツを殺して、僕は生きる。

 殴り合いじゃ勝てねぇ。“C.O.W”で勝負だ。



 「――――“自分の首を……っ、へし折れぇぇぇぇぇぇぇ!!!”――――」



 男の腕が首に、少しずつ近づいていく。


 「いやいや、お前言ってることメチャクチャだぞ?」

 「『自分に胸を張れる自分になる』?」

 「“不適合者”になって、“廻”を手に入れて、“C.O.W”っつー切り札まで持って」

 「お前が今までやってきたことは何か、思い返してみろって」

 「殺しただろ?」

 「殺しまくっただけだろ?」

 「そんなモン持っててもよ、そんなことしかできねーんだよ、結局」

 「足搔いてどーすんだよ」

 「生きててどーすんだよ」

 「アタマおかしくなっちまったか?」

 「確かに、“不適合者”は社会を変えたけどよ」

 「だから何だってハナシだよ」

 「変わろうが何しようが」

 「くだらねぇモンはくだらねぇ」

 「オレも」

 「お前も」

 「社会も」

 「くだらねぇんだよ」

 「マジになんなって」

 「熱くなんなって」

 「それこそくだらねぇって」

 「・・・・・・・・・・・・」

 「わかんねぇか」

 

 「しょうがねぇヤツ。見逃してやろうと思ってたけど、こりゃ殺すしかねーな」


 


 歩いてくる。

 歩いてくる。

 歩いて、くる……


 全力の「命令」がまるで効いてない。


 いや、よく見ると手はビクビク痙攣してるな。


 「命令」に耐えているのか……


 もっと強くすれば、いいのか。


 ……だけどこれ以上は無理だ。


 死ぬのか。


 死ぬのか……


 それでも諦められない僕は、異常か。


 そりゃそうか。


 異常に決まっている。


 “不適合者”なんだから――


 実は、アイツの言うこともわからなくもない。


 くだらないのかも知れない、と思う……


 “不適合者”になっても、殺す事ぐらいしかできやしない。


 だけど。


 前は殺すことさえも出来やしなかった。


 このまま生きていけば、また違う何かを見つけることができるという希望を持つことは――


 滑稽だろうか。


 特に具体的な将来設計なんてないけれど……


 そんなモノが無い癖に、「社会の歯車」共を犠牲にしてまで生きることは……


 罪に違いないが、それでも。


 

 「何か、何でもいいから、何か……!!何かを、為したいんだ!!!」



 ああ、確かにくだらない言葉だ――なーんにも決められない、くだらない僕のくだらない言葉――


 

 

 「――――“Check Out”」





 ……声が、聞こえた。

 僕のものでも無い。目の前の男のものでも無い。

 女の、声。


 その声が合図になったように、今まで僕の命令に逆らい、ほんの少ししか動かなかった男の腕がバネ仕掛けのように持ち上がって。



 「――――!?」



 驚愕の表情を浮かべた顔が、がくり、と傾いた。

 男の腕が、その男自身の首をへし折ったのだ。



 「――彼の抵抗力を『弱体化』させました。これがマリの“C.O.W”……」



 メイド服を着た人形のような女だった。無機質な印象。しかし、とんでもなく美しかった。それこそ、今まで見てきた女の中でも一番じゃないかと思えるぐらいに。

 その美しさは、単純に容姿が整っている、という話ではないのだろう。

 月並みな話だけど、内面か――いや、僕の中の何かと共鳴?しているから美しく見えるのか――?


 

 「助けて、くれたのか……?」


 そう問いかけると、女は凄い勢いで距離を詰めてきた。


 「はい、はい!その通りです!貴方を、ウツキ・キキを助けたいと思ったから、このようにさせて頂きました!」

 「うぉっ!?ち、近い近い!」


 醜い僕に自分から近づく女なんていないと思っていた――


 「――ってか、何で僕の名前を?」

 「戦闘が始まってから、ずっと見ていましたから」

 「ええ……」

 「失礼ながら、貴方を助けるべきかどうかを見極めよう、と」

 「……さっきまでの様子のどこに、僕を助けるきっかけがあったんだ……?」

 「そうですねぇ、まず見た目がタイプです」

 「……はぁ?」

 「今まで色んなブサイクを見てきましたが、貴方がぶっちぎりです」

 「そ、そうですか……」

 「あと性格もねじ曲がってそうですね、その顔と比例して」

 「キミはゲテモノ好きなのかな……?」

 「そうですね」

 「・・・・・・・・・・・・」

 「ゲテモノソムリエです」

 「嫌なソムリエだ……」

 「なので、ゲテモノにはこだわりがあります。ただのゲテモノに用はありません」

 「は?」

 「貴方はゲテモノの癖に、諦めない。何を諦めないのか?それすらわかっていない癖に。足搔いている。必死で足搔いている。ソレがマリには輝いて見える」

 

 意味がわからなかった。どうやら僕は好意的に見られているらしい。穏やかな彼女の笑み。そんなモノを、僕は知らない――


 「申し遅れました。マリの名前は、ワカサ・マリ――《我儘》の“不適合者”――」


 そう言いながらさらに近づいてくる――どころか、抱きついてきた。


 「ゑ?」


 ワケが、まったく、わからない。

 しかもだ。なんか彼女の顔がどんどんどんどん近づいてくる。

 意味不明過ぎて全てがスローモーションに見えた。

 つーか、これ、アレだ。まるで、アレだ。


 今からキスでもされるみたいだ。


 いや、無い。ナイナイナイ!!まさか、まさか僕に、こんな綺麗な女の子が――


 

 唇と唇が、触れた。その事実に、脳味噌の中の否定文が全部ぶっ飛んだ。



 「――!?……?―…!――――!?!?!?」


 ――さぞ僕は、彼女から見ておかしな事になっていたに違いない。


 僕にとって、「ある日突然“不適合者”になる」、なんてことよりもファンタジー感あふれる出来事が、今、起こった。起こってしまった。



 「――貴方を、本気で愛する者です」 



 その彼女の言葉が、するりと入ってきて、僕を蕩けさせてしまった。



 多分この女の子は、天使に違いない。そう、ベタな表現だけど、天使。

 ……じゃなかったら説明つかねーよナニコレ。

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