3-3 《?駆けずり回る負け犬共?》-5
……さて、どうしたもんか?
「――“取り合えず、みんな服脱いで~”――」
あれ、そういやこれって複数人が対象でも有効なんだろーか?
と、思っていたが、僕を嘲笑っていた女子高生達がみんな凄い勢いで服を脱ぎだしたのを見て、安心した。
「な、なんだよコレぇ……っ!」
僕の“C.O.W”……強制的に自分の言葉に従わせる能力。それが、《会話》の“不適合者”であるウツキ・キキの出来るコト。
こんなテキトーな命令で裸の女子高生達をたっぷり鑑賞できる。我ながら怖いっての。
「あはは、ヒデ―なぁ。コレ、ぱっと見は君達露出狂のド変態だよ。バケモノの僕でもヒくよ?……んー次はどうしよっかな?そうだ、アレだ、――“全員、M字開脚!”――」
女子高生達が丁度アダルトビデオでよく見るように、座り込んでガバっと足を開いた。もう何でもアリか。
あと、気が付いたんだけど……
(そういや、生で女の裸を見たの、初めてだ……)
今まで醜い僕にはもちろん恋人なんて出来なかったし、「そういう」機会はさっぱり無かった。
だけど……
(・・・・・・・・・・・・)
普通なら絶対にありえない光景。若く可愛い女が僕に向けて一番大事なトコロを見せつけている。
(コレって。コレってもしや)
辱めようとして適当に言った命令だったけれど、今更になって気が付いた。
(「そういう」こと、ヤりたい放題じゃねぇか!?)
何でも言うこと聞かせられるって……いやそれなんてエロゲ―!?
やべぇ。メチャクチャ心臓がドクドクいってやがる。
「ゆ、許してぇ、許して下さい……!」
「あやまる、あやまるからぁ……」
「こんなの無理、無理!助けて、誰か助けてぇ!!」
ははは。
許さねえし謝っても意味ねぇし、助けが来ても無駄だ。
僕は“不適合者”だ。
“廻”があり、“C.O.W”という切り札がある。
お前等「社会の歯車」なんてどうにでもできる。
圧倒的。圧倒的な支配感……!
見ろよオイ。あんな性格悪そうな事言ってたこのメス豚共、こうやって絶望してる姿は結構そそるじゃねぇか。
もっとだ。もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと……!!!
グチャグチャに、もっともっとグチャグチャに……
自分の醜い顔がもっと醜く歪んでいるのがわかった。
「は、ハははァッ……」
短くも狂気に満ちた笑いが喉から飛び出してきた。
おおし、ヤったらぁ。そうだ、思う存分……!!
「次は、そう、次は、そーだなオイ、次は……!!」
次は。次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は……!!
……えーと……次は……
「……ごめん。もういいやぁ……――“全員、自分の首をへし折れ”――」
裸の女子高生達どころか、その場にいた僕以外の「社会の歯車」の死体が、首がぐにゃりと曲がった死体が、そこら中に転がっていた。
僕は酷く冷めていた。自分自身でも驚くくらいの心変わりっぷりだった。
何でも、そう何でも言うこと聞かせられる!何だってやってやれる!
そう思って「一線」を思いっきり飛び越えようと思ったその瞬間……
急に虚しくなった……
何でも言う事聞かされる?だから何なの?マジで。そんなやり方で為した事に何の意味があんの?
……僕は漫画とかアニメとかゲームとか、結構好きなんだけど。まぁオタクだ。
なんせその瞬間だけは、僕は僕じゃなくて、その物語の主人公になったような錯覚に溺れられるから。
オタクってのは冴えないヤツが多い、なんて乱暴な事を言われるけれど、まぁ実際そんなトコだろうよ。
「自分の人生」という物語が充実してて面白けりゃあ、架空の物語に頼る必要なんて無いもんな。
で、そういう物語の主人公って、大概カッコいいんだよなぁ。間違っても女の子を無理矢理犯したりなんかしねぇよ。いや、そういう主人公もいないこた無いけれど、別に憧れない。
このきったねぇ顔面にこの能力。こんなのむしろ主人公にカッコいい正論かまされながらぶっ飛ばされる小悪党じゃん。ダサすぎるったら、ない。
まぁ~どうせ僕自身はカッコいい主人公になんかなれねぇーよ。だったら墜ちるとこまで墜ちちまえ~って思ったことは何度もある。さっきなんて、結構本気で。
だけど、どうやら僕は墜ちるとこまで墜ちることすらできないらしい。
自分でも意外だった。
まだ諦めてねぇとか、そういうことじゃない……と思うんだけど。
犯すのはダメで殺すのはOKって思考回路も自分でも謎だし。
一体僕はどうしたいのだろう。何になりたいんだ?
何かよくわかんねぇけど、妙にイライラする……!!
何が“不適合者”だ馬鹿、結局何にも変わってねぇ、「社会の歯車」から逃げなくても良くなっただけじゃねぇか!?
「クソっ!!あぁクソォ!!ああぁもう!!どうすりゃいいんだ!?」
「何わめいてんだデブ!!なぁに調子乗ってんだコラァ!!!」
「!?」
――殺気。唐突だった。苛立って無我夢中で喚いていたらその隙をついたように、ナイフが一本僕に向かってぶっ飛んできた。
「っ!」
慌てて避ける。“不適合者”としての身体能力が無ければ、脳天にそのナイフが突き刺さっていただろう。
――そして、こんな攻撃ができるのは……
「“不適合者”……!」
この時、すぐに相手に敵意を向けられたのは気が立っていたからだろう。もしかしたら人生で一番イライラしていたかも知れない。
「誰だ!!僕は今ムカついてんだよ!!」
そんな安いセリフを吐くと、地面から空まで、何から何まで、真っ黒い「何か」に覆われていった。
もしかして、これが“結界”か。“不適合者”同士がお互いを「敵」と認識した際に発生し、“不適合者”を弱体化させるとか言う……!!
すぐに相手の姿が見えた。
「このブサイク……オレの女に手ぇ出しやがったなぁ……ぶち殺す!!」
いかにもチャラそうな男だった。いかにも染めました、といった感じの不自然な色合いの金髪、日焼けサロンで焼いたみたいな人工的な浅黒い肌、センスの無い骸骨のアクセサリー。
これまた僕が嫌いなタイプだ。見た瞬間、カッとなった。
普段なら、こういう手合いからは関わり合いにならないようにすぐ逃げ出す。しかも相手は“不適合者”。
だけど、僕だって“不適合者”で力がある、ということで暴走していたのだろう、逆に食ってかかっていた。
「オレの女ぁ?はっ、オイオイ覚えがねぇっての!!何イチャモンつけてんだよ!!」
「しらばっくれんなよテメェ!!何でハダカになってんだコラ、デブテメェ何しやがった!?」
……あのクソ女子高生共の誰かの彼氏、ってとこか?
「……何しようが僕の勝手だろうが!!あのビッチ共の誰がお前の女なのか知らねぇけど、どうせ生きてる価値ねーよ!!
「……誰が、だとぉ?あのハダカになってるヤツ全員だよブサイク!!テメェと違ってオレは女にモテるんだよ!!クソッタレェ……都合の良い女共だったのによぉ……!!」
「あーなるほど!要はテメェも生きてる価値ねぇヤツってことだな!!」
カッコワルい言い争い。そこから勢いで、僕は男に命令した。
「――“自分の首をへし折れ!!”――」
「!?」
男の両手がガクガクと動き出して、その男自身の首をしっかりと掴んだ。
「死ねよこのチャラ男!!」
他愛ない、勝った!!
――というのは流石に虫が良すぎた。なんせ相手も“不適合者”であって――
「う、うおおおお、オラァッ!!」
男は自分の首から強引に両手を引き剥がし、僕に向かって突進してきた。
「ワケ分かんねぇことしてきやがって!死ねボケ!!」
「なぁっ!?」
僕の“C.O.W”に抵抗した……!?同じ“不適合者”には効果が薄いのか!?
「クソッ!――“動くな!!”――」
「ぐぅっ!?あークソ!めんどくせえめんどくせえなぁ……!」
止まらない。大分動きは遅くなったけれど、それでも十分に早いスピードで近づいてくる!!
――ヤバい。もしかしてこいつ、相当強いんじゃ……
考えている内にあっさりと距離を詰められ、思いっきり殴りかかってきた。
「動くな」の命令が不完全ながら効いている為か、大分ぎこちない動きだったが、それでも僕より早いかも知れない。
何とか避けたが、避けた先に強烈な蹴りが迫っていた。腹に足が思いっきりめり込む。
「――うげぇっ!!」
たまらず嘔吐する。
「きったねぇぞブサイク!!……ハッ、お前ますますブサイクになってんぞオイ。ハズカシクねぇのか?そんなんでよぉ……オレだったら生きてけねーよ!!」
優位に立った余裕からか……男は愉快そうにゲラゲラ笑った。
男が僕に向けてくるモノが、苛立ちから嘲りにはっきり変わったのを感じる。その事実から来る屈辱だけが、僕の戦意を支えていた……




