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3-1 弱肉強食/我儘-3

 「――フッ……全く……」

 

 殺し合う前の雰囲気としてはあまりに締まらなく、間抜け。

 ある意味で破りがたい静寂を終わらせたのは、ワカサ・ユウキの気取ったその声だった。


 「いや、失礼したね、ハルカゼ・ツグキ。オレらしくない、全くオレらしくない醜態を晒してしまったね……」


 そんな言葉のワリに、まだ気取った態度を崩さないワカサ・ユウキ。

 ……すげぇなぁ。ワタシもこれくらい頭悪くなりたい。人生楽しいだろうな。

 

 「少し時間をくれ」


 彼はそう言うと、グルリと回れ右して、後に控えていたメイド服を着た妹、マリと向かい合った。


 「……マリぃ……」

 「――ッ!!」


 マリの体がびくりと震えた。

 ユウキの声は明らかに怒気に満ちている。

 

 「お前……兄であるオレに恥をかかせたな。妹の分際でっ……!」

 「……あ、あああ……すみま」

 「――は?」


 マリが謝罪を言い終わるより先に、ユウキが無造作にマリの顔面を蹴りつけた。

 

 「いぎぃっ……!」

 「ホント使えねぇクズだな!兄をマトモに支えることさえできないのかぁ!?取柄はその綺麗なツラだけだなぁっ……!!あぁ、本当にお前はツイてるよぉ、容姿がマシだから意地汚く男に寄生できるし、ソレで生きていけるんだから、なぁ!!」

 

 倒れたマリの体中に、ユウキの蹴りが次々とめり込んでいく。


 「それで!?お前今まで何人に男に抱かれたんだえぇ!?知ってんだよオレはぁ……!!お前やることなすことしくじってばかりのクズクズクズ、クズ女だからさぁ、その唯一の取柄で男に取り入って、自分のコトぜーんぶ他人にやってもらおうと思ったんだろぉ!?」

 「うっ!!ぐぇっ……あぐぅっ!!」

 「馬鹿かよマリぃ……馬鹿バカばかだなお前は本当にっ!!いつもお前はどこの誰ともわからんしょうもない男に頼って生きようとしているんだ……おい、いいか、今までにも何度も言っているがなぁっ……!!」


 マリの軽くウェーブのかかった黒髪をひっつかんで無理矢理に立たせるユウキ。

 

 「一番身近にいるじゃないか!!」


 ユウキがマリの腹を思いっきり殴りつける。


 「うぐぇぇっ……」


 マリの人形のような顔が壊れたように歪む。


 「どんな男よりも優秀な!」


 「どんな男よりもお前を守ってやれる!」


 「どんな男よりお前に相応しい!」


 「この兄がいるじゃないか、マリぃぃぃっっっ!!!」


 ……中々“不適合者”らしい姿だと思う。

 ありゃ一種のシスコンだなぁ。


 「オレに従い、オレを支え、オレの為に死ねばいいんだよお前は!!マリ、マリ、マリ!!言った筈だ、お前の人生の始めから終わりまで全てオレに預けろと!!!それがお前にとって一番の幸せだマリ、オレだけがお前の面倒を見てやれるんだよ!わかったかぁ!?あぁ!?」


 最初の余裕たっぷりな表情はどこへやら、おぞましい形相だった。

 重度だ。重度のシスコンだ。


 「……はい……わかっています、お兄様……」

 「・・・・・・・・・・・・ふぅー……うんうん、わかってくれれば良いんだよ、マリ」


 急に優しくなった。情緒不安定だ。この兄さん相当ザンネンなキャラクターしてるなぁ。

 妹の態度に満足したのか、うんうんと満足げに頷くと、グルン!と気取って勢い良くターンしてこちらに向き直ってきた。


 「フッ!待たせたねっ!いやなに……オレ達は生まれてすぐに両親を亡くしてねぇ。オレは妹の親代わりをしているんだがこれがまた難しいのだよ!勿論オレの能力が不足している訳じゃ無いんだが、いかんせんマリはオレに似ず不出来でね……似てるのは顔の造形の美しさぐらいで――」

 「――死ね」


 しょーもない。さっさと殺してしまおう。手に持った大鎌を振りかぶり、ワカサ・ユウキの首を狙う。


 「――む、おおっと!」


 ユウキは後ろに大きく跳躍して、ワタシの大鎌を避けながら距離を大きく取った。

 いつの間にか、マリも小脇に抱えた状態で、だ。

 中々の早業。ユウキは性根こそ残念だが、能力自体は高いらしい。


 「風情の無い男だ、ハルカゼ・ツグキ!そっちがそのつもりなら、こちらも最初から決めにいくぞ?――マリ、やれ!『我儘』だ!」


 ユウキに着地と同時に投げ捨てられたマリは、立ち上がると同時にワタシはまっすぐ見据えてくる。

 その瞳はギラギラと虹色に輝いていた。


 「――これは……」

 「どうかな?マリの『我儘』は!これがマリの“C.O.W”だ!その瞳で見据えた相手の身体能力を大幅に削ぎ落す、自分より強い者は認めないと駄々を捏ねる子供のような我儘な力を持つ魔眼だよ……その効果、『つうしんぼ』で全ての項目で最高評価を取っている者すら一般人並みになるほどだ!どうかな?君の最大の強みである超強力な身体能力を封じられた気分は!」


 ナニその能力。強過ぎ。でもなんでお前がドヤってるんだ。


 「――そして……これがオレの“C.O.W”――」


 ユウキが両手に拳銃を持っていた。アレが彼の武器か。


 「『弱肉強食』!!!」


 彼がその引き金を引いた。弾丸が次々にその銃口から飛び出し――


 「さぁ、獣達よ!!行けぇっ!!!」


 ――弾丸がその姿を獣に変えた。


 銀色の炎に包まれたワタシの身の丈の3倍くらいある巨大な獅子だ。それが一気に六体。

 その獅子達が猛スピードで駆け回り、ワタシを取り囲んだ。


 「うわー……」


 これまたデタラメな“C.O.W”だ。


 「フフフ……その獅子達はなぁ、君とオレの能力に差があればあるほど巨大になり、力を増すんだよ。……うんうん、今日の獅子は随分大きいじゃないか。今までで見た中で一番大きいぞ……絶好調のようだな!」


 ユウキの悦に入ったような声が響き渡る。


 「これがオレ達兄妹の必勝パターンだ。マリが弱らせ、オレが食らう。弱体させる能力と、弱い者に対して圧倒的な力を振るう能力……完璧だ。最高に完璧な相性だ……やはりマリはオレがいないとダメだな……」


 弱い奴相手に強い能力って無茶苦茶ダサいな……

 まぁそれはともかく、確かにこの二人は能力()()は相性が良い。


 「では、少々早いが、クライマックスだ!獣達よ、蹂躙しろぉっ!!!」

 「――グオオオオオッッッ――!!!」


 ワタシを取り囲んでいた銀色の炎に包まれた獅子達が、咆哮を上げながら一斉に飛びかかる――


 「はははははっっっ!!!勝った!!!他愛もないなぁ!!!」


 ユウキが高らかに笑う。勝利を確信したようだ。


 

 ――しかし、なんというか……

 

 

 今回もやっぱりつまらなそうだなぁ。


 


 ワタシは、獅子達を大鎌の一振りで全て真っ二つにし、全滅させてやった。

 



 「……へ?」


 ユウキの間抜けな声が聞こえた。


 「――弱い。色んな意味でもういいよ、お前等」


 

 ワタシは、ワタシの“C.O.W”は――


 最強だ。


 そして、最近思う。


 ……強すぎるのも困りものだ。せっかくの楽しい楽しい殺し合いも、つまらないワンサイドゲームになってしまう。


 「ば、馬鹿なっ!?」


 ユウキが滅茶苦茶に銃を乱射し、その弾丸が次々と銀色の炎を纏った獅子になっていく。

 ユウキは、獅子の大きさは彼とワタシの差を表していると言った。

 恐らくソレは、「つうしんぼ」に記載されている能力を反映しているのだろうと思う。

 「つうしんぼ」に()()()()()()()()()、ワタシの能力は最低中の最低。さらに弱体化までさせられているのだから、この獅子達が巨大になるのは道理。


 それなのに、何故。


 「何故だ、何故だ、何故だ、畜生……っ!」


 ワタシが大鎌を振るう度に、強力な筈の獅子達がゴミのように斬り捨てられていく。

 何故、こんな事になるのか――


 「・・・・・・・・・・・・」


 “()()()()()()()()、ワタシはあの二人に敵う筈が無いのだ。

 いや、それどころか、ワタシは本来どの“不適合者”よりも……


 「・・・・・・・・・・・・くそっ」


 ……何だか腹立たしくなってきた。余計な事を考えたせいでちょっと不愉快。あの兄妹の首を思いっきり刈り取ってやることで、ストレス解消しよう。

 ワタシの“C.O.W”が最強だから、あの兄妹は勝てない。それでいい。


 「と、止まれ……っ!とまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれ……!!!」


 獅子を切り払いながらユウキに向かって突撃していく。早く、早く、早く。

 今までで一番速くワタシは駆けていた。

 こんなつまらない戦い、早く終わらせよう。


 「とまれ、とまれよ、とまれとまれとまれっ!!!――くそっこんなバカなぁっ……まさか、このオレがっ!!このオレがぁっ……!!――おい、マリぃぃぃっっっ!!!オレを、オレを守れ!」


 最早銃撃も辞めて、マリに助けを求めるユウキ。


 「おいマリ!この役立たずめ、あの男、さっぱり弱くなっていないじゃないか!!責任取ってその体を張ってオレを逃がせ!!――――お、い……ま、り?」


 突然、ユウキの体が崩れ落ちた。まるで急に力が抜けてしまったように……

 そんなユウキに、マリは、



 「……死んでください、お兄様」



 何の感情も感じられない声で、言い放った。

 

 

 ――肉を断つ感触。ワタシは、いつも通りに、敵の首を斬り飛ばした。






 「――まぁ、なんだ……なんでこうなったか、理由はわかんなくも無いんだけど……」


 残り一人。ワタシはマリの首に大鎌を突き付けた。


 「お兄さんを、『我儘』、だっけ?それで弱体化させたのかぁ。まさかマトモに立てなくなる程弱らせられるとは恐れ入ったよ。でも、ま……ワタシには効かないよ、ソレ。――何か言い残す事ある?君には同情できなくもないし、それくらい聞くよ?」


 そう問うと、彼女、マリは会ってから初めて、笑みを浮かべた。

 人形のような顔が、今初めて命を吹き込まれたかのように、無邪気な表情を見せた。


 「殺さないで。逃がして」

 「お、おぉ」



 こっちがたじろいでしまう程に、どストレートに提案してきた。

 なんだ、この娘。残念お兄さんよりよっぽど愉快そうだぞ。 

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