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3-1 弱肉強食/我儘-2

 今回ワタシが戦う“不適合者”は二人の男女のチームのようだ。

 “不適合者”なんて名づけられている癖に、チームを組んでいる、という事はよくあるらしい。

 今まで100人程、この「クラキ屋」に“不適合者”がやってきたが、単独である場合とチームである場合は丁度半々ぐらいだ。中には10人という大所帯のチームもいた。

 「チームなんて組めるんなら社会に適応できるんじゃね?」と思うのだが。“不適合者”の定義が揺らぐ揺らぐ。

 ……まぁ、似た者同士ならむしろ結束は強くなる、とかそんなモンなのかも知れない。


 “不適合者”。理由は人それぞれだが、「社会に適応できていないが、それでも必死で踏み止まって社会で生きていた者達」。

 ……あっさり言えばそんなトコだろう。

 「正義」と「普通」と「常識」に無理矢理押さえつけられ、自らを抑え込み続けながら生きてきた者達。

 しかし、彼等は“廻”という圧倒的な力を与えられ、一斉に解き放たれた。

 「正義」と「普通」と「常識」に対抗する力。「少数派」が「多数派」を蹂躙できる力。

 最早自分の中の「悪」、「異常」、「非常識」を抑え込む必要は無くなり、彼等は自由きままにそれまで自分達を抑圧してきた「社会」に牙を剥き始めた。

 

 って他人事みたいに復習してるけど、ワタシ、ハルカゼ・ツグキも“不適合者”だったなそーいや。


 彼等“不適合者”にとって、他の“不適合者”は“ゲーム”の相手であるが、やっと出会えた自らの理解者である、という側面もあるのかも知れない。

 だから、「社会に適応できなかった」彼等が、似合いもしないのに手を組んでチームを結成するのだろうか。


 ……ワタシにはそんなつもりは一切無い。だって協力し合うより殺し合った方が楽しいじゃん?なんて思うから。

 

 ……だけどソレもマンネリだ。ワタシもチームとか作ろっかなぁ。案外、高校時代に入っていた同好会みたいな感じになるんだろうか。同じ志を持った同志、みたいな?



 「おいおい、敵を目の前にしてボンヤリかい、君?」

 「あ、どーもすみませーん」


 目の前の“不適合者”二人を完全無視して余計な事に思いを馳せていた。

 二人組の“不適合者”の男の方から声をかけられるまで、意識が完全に明後日の方向を向いている始末。

 ……たるんでるなぁ、ワタシ。

 でもソレもしょーがないって思う。


 「いや、なんていうか。今まで100人くらい“不適合者”を殺してきたんですけど、弱っちいのばっかで。――強かったのは最初の一人だけでした。その人とはとりあえず引き分けになったんですけどね」

 「へぇ」

 「で、あなたがたにはその最初の一人みたいな強さが感じられないから、テキトーでも勝てるかなって」

 

 気づいたら煽っていた。ワタシはこんなに性格悪かったか。

 しかし、男は煽られてもさっぱり堪えていないらしく、にっこりと笑いかけてきた。


 「ふむ。確かに“不適合者”のほとんどが弱っちいっていうのは、その通りだろうさ。“不適合者”なんてみーんな、結局は社会の負け犬だった者達だしね。負け癖がついているのさ」

 

 ……いやお前も“不適合者”じゃん。

 

 確かに、男の方の容姿は至極真っ当だった。値の張りそうなスーツをビシっと着こなして、少し長めの黒髪には癖一つ無い。あとイケメン。“不適合者”っぽくない。


 「オレの名前はワカサ・ユウキ。天和大学に通っている」

 「へぇ、天和の大学生なんて生で初めて見たよ」


 天和大学はこの国で最も偏差値の高い大学として有名だ。ざっくり言えば、エリート。凄いなー。

 ……それを自分から言ってしまうところにそこはかとない小物臭。


 「おや、そうだったかい?君の周りはロクでもないヤツばかりなんだろうねぇ」


 お、おう。


 「それに比べてオレの周りはみなそれなりに優秀なヤツばかりさ。……ま、オレ程じゃないにしても、だ」


 そ、そっか。


 「そう。オレはエリートだ。この国最高の大学である天和の中ですら、ね。そのエリートのオレでも何故オレが“不適合者”なぞになってしまったのか……それはわからない。オレでわからないのならこの世の誰にもわからないだろう」


 ……ワタシはエリートじゃないけどなんとなくその理由がわかる気がするぞ……


 「オレは社会不適合者なんかじゃない。むしろオレはこんな騒ぎが無ければ、この社会の頂点に立っていた男だ。……君もわかるだろう、生きていれば頻繁に他人と競争になる。そしてオレはその全てに勝利してきた。エリート中の、エリートッ!!」


 そういう芸風なのか?芸人か?


 「君も“不適合者”としては中々やるようだね。ネットじゃあ君は評判だよ。『つうしんぼ』の評価は最低中の最低の癖に、居場所が割れているせいで何度も何度も他の“不適合者”に襲撃されているにも関わらずその全てにあっさりと勝利している、とね。――ちなみにこの情報は“不適合者”では無い一般人からのものだ。彼等『社会の歯車』達も変に逞しいね。“不適合者”についてネットで情報を交換し合っていて、それを楽しんでいるようにも思える」

 「……へぇ」


 彼、ワカサ・ユウキのキャラクターに圧倒されながらも、何とかそう答える。

 ……ワタシ、ネットで評判なのか……


 「ふふふ、そうだろう意外だろう。危険極まりない“不適合者”を一般人が話のタネにしてるんだ。奇妙に見えるかも知れない。……だが、オレにはわかる。危険極まりないからこそ、『社会の歯車』等と呼ばれるつまらない人々には魅力的なのだろう。――そういえば君は『死神』なんて陳腐な異名をつけられていたな。それが彼等の楽しみ方なのだろう。ふふ、下らないね」


 マジか。『死神』なんて大袈裟に呼ばれてるとか結構恥ずかしい。


 「『社会の歯車』とはよく言ったものだ。壊れても代用できる程個性が無くてつまらない、生命では無い『物』……む。そうか……わかったぞ……!!オレは自分が“不適合者”では無いと思っていたが、だからと言って『社会の歯車』とは思えない……なるほど、そうかそうか、社会の頂点に立つ者と言うのはある意味で『社会に適合していない』と言えるのかもな!むしろ社会を支配する者!それも“不適合者”に含まれると……そういうことかっ!!」


 ――よし、ノーコメントだ。ツッコんだら負け。小物臭いとか負けフラグ立て過ぎだろ、とか言ったらもっと面倒くさい事態になると見た。待機。


 「――いやいや結論を急ぐな……むしろ神がオレの命を守る為に敢えて、社会不適合者でも無いオレに“廻”を与えたとも考えられるっ!!……むぅ、エリートオブエリートのオレですらこの問題はわからんっ!!わからんがとりあえずオレは神に愛されてることは確かだっ!!」

 

 「――そうなればますます君には負けられんな!あぁ、わかっている、わかっているとも。君は間違いなく強敵だ。噂では10人の“不適合者”のチームを相手にしても君はあっさりと勝利した、というじゃないか。君は強い。認めよう。真のエリートは認めるべきものはきちんと認めるのさ」


 「――しかし。しかしだ。君の勝利は単純に君の力だけでもぎ取ったものか、と問われるのならば、それは違う。君の居場所はネットで公開され、それ故に数多くの“不適合者”に狙われた。“不適合者”にも脳味噌ぐらいはある、君の情報を『つうしんぼ』で探ることぐらいはしただろう」


 「――そして君の評価は全ての項目で最低であることを知る。そうなると、まぁ、油断せざるを得ないだろう。そうしてフラフラと寄ってきた愚かな“不適合者”を君はその油断をついて倒してきたのだろう」


 「――だがっ!真のエリートであるオレはどんな相手だろうと、勝負となれば油断はしないっ!徹底的に情報収集を行い、万全を期す!」


 「――目撃者からの証言によると、君の戦闘スタイルはいたって単純!まず最初に“C.O.W”を発動し、大鎌を振るい正面から何の工夫も無しに戦い、そして勝利する!君の基本能力は至って貧弱にも関わらず、まるで王者のような小細工無しの戦いぶりで、相手を圧倒する!弱者が強者に勝つ為には、策を弄するのが基本だろうに、君はそれを必要としない!」


 「――ここまでくれば馬鹿でもわかるが、君の“C.O.W”はそう複雑なものではない!恐らく、単純に身体能力を強化するものだろう!だが、それが規格外なのだろう!?きっと君の“C.O.W”の身体強化は『つうしんぼ』で最高評価を取っている者すら圧倒できる程に違いあるまい!そうでなければ説明がつかない!」


 「――単純に強い……そう、時にそれが一番厄介なのだ……何をすれば勝てる、という方程式が無い。ふふふ、言っていてこのオレをもってしても肝が冷える。だが!」


 そう言ってビシっとずっと後ろに控えていた女を指さす。

 女はコスプレで使うような可愛らしいフリルのついたメイド服を着ていた。顔立ちは美しいが、人形のような無機質さを感じる。

 

 「――彼女はワカサ・マリ……オレの妹にして、オレがこの“ゲーム”に勝つ為のキーだ!……認めよう、ハルカゼ・ツグキ!君はこのエリートのオレでも単独では勝てん!だが!彼女がいれば話は別……っ!!オレ達兄妹のコンビネーションならば、君を圧倒できる!1+1が2なのは算数の世界だけだと言う事を教えてやろう……フフ、フハハ……ハッハッハ!!!マリ、行くぞ――――“Check Out”!!!」


 ワカサ兄妹が同時に“C.O.W”を発動した。彼等の体を大きな地球儀が包み、割れた。


 「――さぁ、ハルカゼ・ツグキ!!君も“C.O.W”を発動しろ!!」

 


 ・・・・・・・・・・・・いや、その、なんというか。



 「……もうしてます……」

 「ゑ?」


 話長かったし痛々しかったから……うん。もう強引に始めようと思って“C.O.W”を発動したのだけど、彼、ワカサ・ユウキは自分の話に夢中になってて全く気付いて無かった。


 「……え、え、え。……マジ?マリ、見てた?」

 「・・・・・・・・・・・・」


 メイド服の妹、マリがコクコクと頷いた。


 「「「・・・・・・・・・・・・」」」



 何とも言えない空気が場を包んだ。

 ホント、緊張感ねぇなぁ……

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