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3-1 弱肉強食/我儘-1

 「っぎ……!」

 「えっ……!?」

 「あ……」


 ポン、ポン、ポーン。ハルカゼ君の持つ大鎌が冗談のように敵対者の首を斬り、頭を宙に舞わせる。

 

 首がぶっ飛ぶ光景を見てもいまいち心が動かなくなってきた。人間って何にでも慣れるんだね!

 コエ~。


 今日は3人の“不適合者”が束になってこのデパート「スレドイ」の8階にあるアパレル店「クラキ屋」にやってきた。

 “不適合者”とは単純に言えば普通の人間では持ちえない非現実的な異能力(“(まわり)”というらしい)を持っていて、その性質から言って大概わたし達のような普通の人間、彼ら風に言うのなら「社会の歯車」に対して容赦が無い。気分次第で雑に殺されることも十分にあり得る。


 しかし、だ。

 

 ここ「クラキ屋」にはそんな“不適合者”からわたし達を守ってくれる正義(?)の“不適合者”がいるのだ!やったね!

 名をハルカゼ・ツグキ。

 正体不明の《???》の“不適合者”。「つうしんぼ」の評価では全項目で最低ランク。要は雑魚。

 ……のはずなのだけど、まさに今、能力で完全にハルカゼ君に勝っている“不適合者”3人をあっさりとぶっ殺した。

 “不適合者”には要は必殺技である“C.O.W”というものが備わっており、どうやらハルカゼ君の“C.O.W”は能力差を補って余りある程の強力なモノらしい。

 多分、ハルカゼ君の“C.O.W”は身体能力を物凄く強化する!とかそういうモンだと思う。

 “C.O.W”を発動したハルカゼ君は正に無敵。さっきの3人を合わせて彼が倒した“不適合者”は100人の大台に乗った。強えー。

 しかもだ。“不適合者”は例外無く、その力の源となるボロボロで小さな歯車を持っていて、その歯車は歯車同士をくっつけると融合し、その力を増すようになっている。

 つまり、ハルカゼ君は今殺した3人の“不適合者”の持つ歯車を奪うことができ、さらにその力を増すのである。

 ハルカゼ君が“不適合者”の死体をまさぐり、彼らの持っていた歯車を見つけ出した。

 その歯車をハルカゼ君自身の歯車とくっつけると、一瞬淡い光を発し……一つになった。

 100人分の歯車を融合させたハルカゼ君の歯車は、彼にとって相当強力な力の源になっている筈である。


 元から強い癖に今なおその強さを増していくハルカゼ君。

 彼に守ってもらえているわたし達は、よっぽどのことが無い限り“不適合者”に殺されることは無い……ような気がする。

 まぁそのボディガードも24時間365日ずっとってワケでは流石に無いんだけどねー。

 あーハルカゼ君と同棲してぇ。

 年中無休のガードマン欲しい。


 実はハルカゼ君はこの私、エンドウ・スベルにメロメロ、とか言う展開無いですかね。

 ……無いか。

 以前アプローチをかけてみたけどさっぱりだったもんな。

 まぁあんな打算見え見えのやり方じゃ無理に決まっていたが。



 あの双子の黒塗りピエロとハルカゼ君の戦いから一か月が経過。

 普通の人間、「社会の歯車」達は“不適合者”達に為す術も無く殺戮される日々であり、“不適合者”による殺人は数が多すぎてもうニュースにもならない程だ。

 殺人事件のインフレ?みたいな感じ。

 まぁ、“不適合者”に言わせればわたし達は「社会の歯車」、物であって生命では無いらしいので、「殺“人”」なんて思ってもいないかも知れないが。

 つーことで今の世界はなかなかの修羅っぷりなのだ。

 強い者が生き残り、弱い者は死ぬ。

 わたし達「社会の歯車」に許されたのは「“不適合者”に殺されるまで生きる」ことのみ。

 世界中の警察、軍隊も彼ら“不適合者”に対して何の対策も出来ていない。

 というか、彼らの中に“不適合者”を排除しようと動いた者も少なからずいたようだが、結果は惨敗だったそうな。

 “不適合者”には傷一つつけられず、ものの数秒で彼らは皆殺しにされたそうな。

 

 完全にこの世界まるごと無法地帯。そんな状況でもわたしがワリとぼんやりと生活を続けられるのは、ひとえにハルカゼ君の守護のおかげだ。

 どういう風の吹き回しか、ハルカゼ君は「クラキ屋」の従業員達を守っている。彼は「クラキ屋」の営業時間中常に“不適合者”の襲来に備え待機。“不適合者”がやってくると問答無用でその首をぶっ飛ばしている。

 ここ最近は結構な頻度で“不適合者”がやってくる。

 その原因は、どうやらあの黒塗りピエロの仕業のようだった。


 「どうやら……ワタシがいる場所をネットに公開されているようです」

 「恐らく、彼らはワタシをチームに加えながら、それと同時にワタシの位置を公開して“不適合者”達を誘いこみ、彼ら二人とワタシの3人で襲来してくる“不適合者”達を効率的に殺害する予定だったのでしょう」


 ……というのがハルカゼ君の推測。とんだ置き土産である。

 沢山の“不適合者”を誘い込み、その全てを返り討ちにすることで彼らの持つ大量の歯車を入手し、戦力を増強する。そういう魂胆だったのだろう。

 しかし、その作戦を立てたピエロの兄弟はハルカゼ君にあっけなく殺害され、「“不適合者”が沢山やってくる」という状況だけが残された。

 ハルカゼ君が強力な“不適合者”で無ければ、次から次へとやってくる“不適合者”達に、わたしを含む「クラキ屋」の従業員達は皆殺しにされていたに違いない。


 「――つまり、ハルカゼ君がいるからここに“不適合者”がやってくるんでしょう!?こんなとこには居られない、自分は辞めさせてもらいます!」


 そう店長に告げて辞めていった従業員もチラホラいる。店長の方も、


 「……まぁ、もうこの店忙しくねぇし。辞めても構わんぞ」


 あっさりとその要求を呑んだ。……個人的にはココにいた方がまだ死なずに済むと思うのだけど。

 ハルカゼ君の居場所がネットに公開されたことで、「クラキ屋」及びデパート「スレドイ」の客足は極端に減少した。

 まぁ、わざわざ“不適合者”のいる場所に寄り付きたくは無いわな。

 なので、客足ゼロもあり得る……なんてわたしは思っていたのだけど、意外にもチラホラ、デパート「スレドイ」に来る勇者はいた。

 「もう何もかもどーでもいい、死ぬまで生きるだけさー」とヤケクソになっている人がデパート「スレドイ」の現在の主な客層である。

 

 デパート「スレドイ」は極端な例ではあるけれど、世界全体のムードは大体そんな感じ。わたし達「社会の歯車」はヤケクソになって回転し続けている。


 “不適合者”の気分次第ですぐ死ぬにも関わらず、平然と職場や学校に向かう人々はワリと多い。

 まぁ絶望して家に引き籠る人も確かにいるけれど。

 「どうしようもないから、どうもしない。何もできないから、何も変えない」……そう考える人は意外な程多かった。

 こんな状況でも相変わらず街中をブラブラしている人々。いっそシュールに見える。

 で、その人々が唐突にゴミのように殺戮されるのも日常茶飯事。

 

 ……ホントわたし、よく生き残ってんな。

 


 

 「んー、最近ちょいマンネリじゃね?」


 ――こんな無茶苦茶な状況でもそんな事をのたまうのがウチの店長クオリティである。


 「アホみたいな数の人間が死ぬのももうありふれてるしなぁ。ウチに来る“不適合者”もしょっぱいのばっかだし」

 「……てんちょーはブレないねぇ……」

 「ハルカゼ、強過ぎだろ。あんなの戦いになってねぇよ。結末が分かりきっている戦いの観戦程つまんねぇものもそうそうねぇよなぁ」

 「生きてるだけマシって思ってろよ」

 「あー俺そういうの嫌い。生きてるだけマシ?馬鹿かエンドウ。生きてるだけじゃ損なんだよ。生きることによって得をする為には生きるだけじゃ足りねぇ。なんか面白いこと、楽しめることがねぇとな」

 「今の状況は十分に面白過ぎると思うんだけど」

 「うーむ、まぁ最初はな?もう人間がアホみたいに死んでいくのを見て結構テンション上がったさ。ハルカゼが少年バトル漫画やってんの見るの楽しかったさ。死ぬかも知れねぇってスリルは心地よかったさ。でもソレばっかじゃ飽きるんだよ。殺戮と闘争、それが『安定』しちまってる。こいつはある作家の言葉なんだが、幸福ってのは『安定している事』じゃなくて『変化し続ける事』なんだと。どんだけぶっ飛んだ状況も、ずーっと続いてりゃ結局飽きる。常に以前とは違う刺激があることが、真の幸福なんだよ。なぁ、エンドウよ」


 そこで言葉を切る店長。


 「俺はただ、幸福になりたいだけなんだ」


 店長は、祈るように言葉を紡いだ。



 そんなことをダラダラ話していると、


 「あーまた来たかぁ」

 

 店長が今店に入ってきた男女二人組を見て、そう呟いた。


 「“不適合者”?」

 「おう」

 「そっかー」


 ストックの中に居るハルカゼ君に声をかける。


 「ハルカゼくーん、“不適合者”来たよー」

 「はーい、行きまーす」


 ストックからハルカゼ君がノロノロ出撃し、ダラダラと男女二人組の“不適合者”に近寄っていった。


 「はいどーもこんにちは。さっさと始めましょー」


 そうハルカゼ君が語り掛けると、男の方がニヤリと笑った。女の方は無表情。

 瞬く間に真っ黒い空間が景色を塗りつぶしていく。

 もう見慣れた光景。“不適合者”同士が敵対の意思を持った時に現れる結界が展開されていく。


 「てんちょー、あの二人はどう思うよー?」

 「結論から言って今回もまたつまんなさそうだな」



 わたし達には最早、まるで緊張感というものが無かった。

 ――また殺し合いが始まると言うのに。

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