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2-5 (知りたがり/欲しがり)道化師二(三)人-4

 「――――“Check Out”」

 

 ワタシは二人のピエロが飛びかかって来るのを見て、即座に“C.O.W”を発動させた。

 巨大な地球儀がワタシを包み、すぐに割れて砕け散る。

 まるで孵化のようだ。“C.O.W”を発動させたワタシはそれ以前とはまるで違う別次元のバケモノ。

 アイダ・リホとの闘いで、ワタシは“C.O.W”を発動させてなければただの雑魚だという事は十分に分かっていた。それに加え、相手が“C.O.W”発動済み、ということを考えれば出し惜しみしている余裕は無い。

 もう今後は初手“C.O.W”発動は絶対、と決めておいた方が良いだろう。


 「アハハ!」

 「あはは!」


 二人のレイピアによる連携攻撃。流石兄弟、というところか。互いの隙をカバーし合う良いコンビネーションだ。

 “C.O.W”発動後のワタシの身体能力は、恐らくこの二人よりも上だ。真っ当に戦えばすぐに決まる闘いだが、数の差と連携がワタシの勝利を阻む。

 

 「めんどくさいっ……!」


 片方のピエロの攻撃後の隙を狙って手に持つ大鎌を振るう。

 しかし、それは横合いからもう片方のピエロが突き出されたレイピアに防がれる。

 攻撃を防がれたワタシのその隙を狙った一撃が繰り出され、それを慌てて避ける。

 避けた先にはもう一方のピエロが回り込んでいて、追撃してくる。


 「ちっ」


 咄嗟に力任せに大鎌をぶん回して、二人を弾き飛ばした。

 きっちりレイピアでガードしていた二人は、弾き飛ばされながらも華麗に宙返りを決めながら危なげなく着地した。


 「話し方も闘い方もめんどくせえなお前ら……!」


 つーかこの二人、そっくり過ぎてどっちがどっちかさっぱりわからん。

 二人がそれぞれ異なる“C.O.W”を持っているなら、その差異に気を付けて立ち回らないといけないのだが、それすらできなさそうだ。

 悪態をつくと、二人はそっくりの不満そうな顔を見せた。


 「こっちだってめんどくさいよ!」

 「全くだね。『つうしんぼ』の評価ではボク達の方が上、しかも2対1なのに随分見事に捌いてくれるじゃないか」

 「むしろ単純なパワーでは押されてる感!」

 「一体どんな“C.O.W”なのかな。……《???》の“不適合者”か。これは虎の尾を踏んだかな?」

 「正体不明ってメンドクサイね!」

 「そうだね、ぼく。――だけど、やりようはある。」

 「《欲しがり》のぼくと!」

 「《知りたがり》のボクになら、その“C.O.W”の正体も暴けるだろう――」


 再び二人が飛びかかってくる――と思いきや一人だけがまっすぐに急接近してきた。

 

 「アハハハハハハッ!!!」

 「っ!?」


 ――連携を捨てた?タイマンではこっちが勝るとさっきの攻防でわかりきっている筈なのに。


 「あああ、欲しい欲しい欲しい!!!その“C.O.W”、ちょうだい!!!」

 

 どうやら突っ込んできたのは《欲しがり》の方のようだ。

 言動から言って、彼の能力は“C.O.W”を奪う能力のようだ。

 《知りたがり》の方と負けず劣らず厄介、ワタシにとっては天敵のような能力だ。

 ……ただソレをわざわざ教えてくるのは間抜けとしか言い様が無いが。


 「くださいよこせちょうだいいただきますくれよ欲しい欲しい欲しいぃぃぃっっっ!!!」


 無茶苦茶な勢いでレイピアを振り回してくる。腹ペコの肉食獣みたいだ。

 だけど全然怖くない。さっきの連携に比べれば、雑過ぎて捌くのは簡単過ぎる。片手間で避けられる。


 彼が“C.O.W”を奪えるのならば、もう既にやっている筈だが、今のところその気配は無い。

 ……何か条件があるのかも。例えば……


 「欲しいほしいホシイっ!!!アハハハッッッ!!!」


 ――このがむしゃらに振り回されてるレイピアを相手に当てなきゃならない、とか?

 だったら当たらなければいいじゃん。

 連携を捨てた今ならこの《欲しがり》を大鎌でぶった切るのはさして難しくない。

 

 (んじゃ、まずは一人っと……)


 ――その時ワタシは、殺し合いの最中だと言うのに明らかに気が緩んでいた。

 序盤の巧みな連携から一転、馬鹿丸出しのヤケクソ戦法を見せられて、相手の“C.O.W”にも見当がついて、完全に油断していた。

 

 だから、死角から飛び込んで来た《知りたがり》への反応が一瞬遅れた。


 「『チェック』、だよ、君」

 「うおっ!?」


 慌てて《知りたがり》に向かい合う。

 しかし――


 (『チェック』なんて抜かしてる割りに、そっちも雑じゃないか!)


 飛び込んで来た《知りたがり》は、不意を打った優位性からか、随分お粗末な攻撃を仕掛けてきた。

 先ほどまでのタイミングの巧妙さが全く無いし、レイピアの剣筋にも力が無い。何より殺気が全く感じられない。


 「ぬるいんだよっ!そっちから死ぬか!?」


 これなら逆に反撃で《知りたがり》に致命傷を与えられる。彼を遥かに上回る速度で大鎌を振るう。


 その瞬間、《知りたがり》の口が頬まで裂けるんじゃないかってぐらい吊り上がった。

 「かかった」……とでも言いたげな、肝がぞっと冷える笑み。

 攻撃している筈だった《知りたがり》が余裕を持ってレイピアを盾のように構え、防御姿勢を取る。

 最初っから攻撃する気なんて無かったんだ。飛び込んで、攻撃を誘っただけ。攻撃に力がこもっていなかったのは、すぐに防御姿勢を取る為だったんだ。


 《欲しがり》の雑な突撃も。

 《知りたがり》の雑な不意打ちも。


 ワタシを油断させる為だったのだ。よくよく考えてみれば、こんなのすぐわかることだろうに……“不適合者”になったとはいえ、その前は喧嘩もほとんどしなかったし、ましてや殺し合いなど。

 要はワタシは、力はあるものの「戦う」事への経験が少ない。

 だからこんな手にあっさり引っかかる。


 全部悟った時には、《欲しがり》が今までより倍は早いスピードで《知りたがり》に相対して隙を晒したワタシに迫っていた。

 無様に倒れこみながら《欲しがり》のレイピアを避ける。


 「……っ!」


 しかし、避けきれない。レイピアが脇腹のあたりを掠り、わずかに赤い血が飛び散った。

 そのまま倒れこむワタシ。この体勢はマズい。追撃で一気に追い込まれかねない。

 そう思って慌てて起き上がると――


 「やったね、ぼく」

 「やったね、ボク!……アナタの“C.O.W”もらーい!」

 「でも凄いじゃないか、君。あの体制から直撃を避けるとはね」

 「おかげで1割しか奪えなかったよ!」

 「……この野郎」


 やっぱり《欲しがり》の“C.O.W”はそのレイピアで斬りつけることで、こちらの“C.O.W”を奪う能力だったらしい。


 「……余裕じゃないか。追撃してこないのか?」

 「もう勝ったも同然だからね!」

 「『チェック』と言っただろう?《欲しがり》のぼくが君の能力を奪ったんだ。今から《欲しがり》のぼくがその能力を発動する。《知りたがり》のボクでもわからない君の能力でも、《欲しがり》のぼくが()()()()()()()()ソレを発動すれば、ボクの“C.O.W”で『知る』ことができるだろう。――その弱点も、ね。なんせボクはぼくのことは全て『知っている』からね。簡単さ」

 「ぼくはもう20個くらい“C.O.W”を奪ってるから、君の弱点をつける“C.O.W”もきっとその中にあるよ!」

 

 ……なるほど。これが彼らの戦法なのか。《欲しがり》が奪い、《欲しがり》を深く理解している《知りたがり》が《欲しがり》の奪った能力をとことんまで『知る』。そうして相手の“C.O.W”の対策を立て、弱点を突く。

 だけど、ソレは――

 

 「・・・・・・・・・・・・」

 「覚悟はできたかい?」

 「それじゃ、いっくよー!――――『血まみれナイフでダーツゲーム、ど真ん中狙って投げたら一周回って背中にグサリ!アナタは貴方の牙で食い破られるの!』」


 《欲しがり》の持つ、ワタシの血の付いたレイピアが真っ黄色に染まる。


 「――『ああ因果応報自業自得!お返しするわ、ダーリン!!!』」


 《欲しがり》のヘンテコな呪文と共に、バラの装飾の付いたレイピアがドロドロに溶け出した。

 

 「さぁ、再生の時だ。《欲しがり》のぼくのこの剣が、君の“C.O.W”を宿して新たなる形へ――」

 

 《知りたがり》の愉悦の籠った言葉は、


 「――う、う、う!ウワァァァッッッ!!!」


 《欲しがり》の絶叫に遮られた。


 「え!?な、何だ、どうした、ぼく!?」

 「あ、あああ、あ、ひっひ、ヒヒヒヒ、ささ、さ……」


 《欲しがり》のピエロが急に気が触れたように痙攣しだし、ばったりと倒れこんでしまった。

 ――あぁ、そうかぁ。

 ワタシもそういえば、「アレ」を手に入れた時はあんな感じだった。

 そう、


 「寂しい」

 「……え?」

 「……寂しいさみしいサミシイさミしい寂しイサみシイ!!!サミシイよさみしいよ!!!」


 そう、寂しかった。




 痛みが湧く。でも寂しくてどうでもよくなる。


 怖くて仕方ない。でも寂しくてどうでもよくなる。


 気が狂いそうだ。でも寂しくてどうでもよくなる。




 ――確かに、そんな感じだった。


 彼らの戦法は確かに優れたモノだったのだろう。

 奪って、知る。

 相手の力を奪いつつ情報を収集し、有利に戦いを進める。

 確かに、この二人は良いコンビだったのだろう。

 弱点を的確に突く、素晴らしく殺し合いに向いた二人だったのだ。

 

 ――だけど、残念なことにワタシの“C.O.W”……もとい、ワタシの力に弱点など無い。


 《欲しがり》の体を《知りたがり》が抱き起して支えている。

 その間にも《知りだがり》は《欲しがり》が奪ったワタシの“C.O.W”を「知って」いるのだろう。

 その顔には先ほどまでの余裕さは無い。不気味なピエロの顔は、今やただ追い詰められた獲物の顔になっていた。


 「――で?ワタシの“C.O.W”、『知れた』?」


 ワタシは一瞬で《知りたがり》の背後に回って、大鎌の刃をその首に当てていた。

 驚愕の表情を浮かべながら《知りたがり》は振り向いた。


 「い、つの間に……」

 「本気出せばこんなもんよ。ワタシの“C.O.W”は最強だからね」

 

 そう言ってやると、《知りたがり》は気が触れたような笑い声をあげた。


 「ギャ、ギャあっハハハハハああははっっハハハ!!!キミのぉ!?“C.O.W”、だってぇえ!?バッカじゃねぇの、だってコレ、これ、はぁ――」

 

 

 

 ピエロの首が二つ、宙に舞った。


 「……《欲しがり》。手に入れちゃいけないものが世界にはあるんだよ。《知りたがり》。知っちゃいけないことってのが世界にはあるんだよ。ベタだけど。だからお前らは“不適合者”なんだ。きっと、もしも、こんな世界にならなかったとしても、お前らは死んでいた。“不適合者”になって、力を得てもおんなじだよ。どーせ、なんやかんやでお前らは世界に壊されてたに違いないよ」


 だけど。


 「ワタシは違うけどね。ワタシは最強の“不適合者”だから、世界に壊されたりなんかしない」




 ……人を殺した。「社会の歯車」じゃない、生命を殺した。

 なんて不道徳。だからこそ、興奮する。

 殺し合いってなんて刺激的なんだろう。もうちょっと遊んでいたかったけど、相手が悪かった。

 ダメだよね~興味本位で玉手箱を開けちゃあ。あはは。



 今回はちょーっと都合が悪かった。

 次は願わくば、気持ちよくはしゃげる相手がいいなぁ、なんて思うワタシであった。一件落着。

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