2-5 (知りたがり/欲しがり)道化師二(三)人-2
いきなり星の無い夜空に放り込まれたかのように……“結界”が見える景色を真っ黒に染めていく。
ワタシと、このピエロ達。どちらも“不適合者”で、お互いに敵意を示した証拠だ。
「……なんだ、お前ら。チームでも組んでるのか?」
このピエロ二人はおそらく二人とも“不適合者”だろう。
確かに協力し合ってはいけない、なんてルールは無かったが……
社会に適応できない“不適合者”のような存在がまともに協力なんてできるのか?
「そうだよ!ぼくとボクはとんでもなく仲良しだから!」
「そうだよ。ボクとぼくはとんでもなく仲良しだから」
口調の違いこそあるものの、二人の容姿はあまりにそっくりだった。双子かなにかかも知れない。
「ぼく達は兄弟なんだ!それも双子の!」
「ボク達は兄弟なんだ。それも双子の」
「二人して同じ事言わなくていいんだよ面倒くさい」
そう文句をつけると、二人はさらにいやらしくニタニタ笑った。
「そう言われてもね!ぼくはボクを愛しているし!」
「そう言われてもね。ボクはぼくを愛しているし」
「「そう、丁度こんな風に――――」」
そう言ったかと思うと、二人のピエロがいきなり猛烈な勢いで抱き合い、そして……口づけを交わした。
「…………!?」
周囲の人々が驚き、息を呑んだ。
わざとらしいくらいに音を立てながら、激しくお互いの唇と舌を求めあっている。
二人の話を信じるのならば、彼らは兄弟だ。普通なら兄弟同士で恋人のようにキスをしている、なんて場面は、大概の人間にとっては気味の悪い光景だろう。
しかし、彼らのソレは妙に絵になるモノだった。
黒塗りのピエロ二人が、どうやったらそんなに人を愛せるのか、というぐらいに……壮絶、とも表現できるぐらいに口づけを交わし合う奇妙な光景は、「そういう前衛芸術です」と言われても頷けるような、混沌とした魅力を醸し出していた。
なるほど、コレは……とても真っ当に“不適合者”だ。
「同性愛者。しかも兄弟で。……なるほど、イかれてるな。確かにそりゃ“不適合者”だ」
そう呟くと、二人は名残惜しそうにお互いの体を離した。そして、こちらを不思議なモノを見るような目つきを向けてきた。
「何言ってるの!?この程度じゃ“不適合者”でもなんでもないよ!」
「……驚いたな。そんなぬるい考えの“不適合者”っているんだね。驚きすぎてぼくの言葉をなぞる気が無くなってしまったよ。……ま、それはしょっちゅうなんだけどね」
「そりゃ良かった。同じ言葉を繰り返されるのは時間の無駄だからな」
「……ねぇボク!この人ホントに“不適合者”……!?」
「“結界”は発動しているから、彼が“不適合者”なのは確かだよ、ぼく」
「その割にはとっても中途半端!『社会の歯車』みたいに『普通』で『常識的』!」
「そうだね。……ねぇ、君。君は本当にぬるいね」
「……いきなり何だ」
「ボクが調べたところ、君はこのデパートの従業員だろう?君は、この店の……倉庫、かな?そこから天井裏の隠し通路を通ってわざわざ人目の付きにくい一階下のトイレの個室に移動してからここへ向かってきた。いかにも『たまたま外から来ました、自分はここのデパートとは無関係です』って装うかのように。まるでここで働いてたり買い物をする『社会の歯車』共に配慮しているみたいだ。『ここには凶悪な“不適合者”なんていません』ってね。社会に適応できない“不適合者”の癖に、社会を破壊できる“不適合者”の癖に、随分『社会』に優しいんだね、君は?」
「……そうわかってんのなら、わざわざバラしてるんじゃねぇよ」
周囲がざわめいている。
「ここの従業員の中に“不適合者”……!?」
「そういやあいつ、見たことあんで……!『クラキ屋』のヤツや!」
「“不適合者”がいるような店で買い物させられてたんか!?」
……せっかく色々気を遣ったのに、あっさりとその気遣いを無駄にされた。ちょっと虚しい。
「せっかく隠してたのに、全部無駄になっちゃったね!」
「お前らのせいでな」
「その割りに全然ショックを受けてないね?」
「……どうせいつかバレる。それが物凄く早かっただけだ」
「ソレ!ソレがわかんない!」
「はぁ?」
「チグハグなんだよ、君。自分がこのデパートの関係者であることを隠そうとしてた癖に、それがバラされてもさっぱり堪えてないし、そもそもその隠蔽の仕方も雑なんだよ。一体全体君は何がしたいの?」
「・・・・・・あー、ところで、何でバレたんだ?」
「あ!あからさまに話逸らした!」
「まったく、君はよくわかんないね。……いいさ、種明かししてあげよう。君の半端な隠し事を暴けたのは、ボクの“不適合者”としての能力、“C.O.W”のおかげさ。このデパートに入る前に、前もって発動しておいたんだ。戦闘以外にも役に立つ能力だからね」
「ぼくももう“C.O.W”発動してるよ!えへへ、ボクとお揃い!」
「ボクは《知りたがり》の“不適合者”」
「ぼくは《欲しがり》の“不適合者”!」
「《知りたがり》のボクの能力は、ざっくり言ってしまえば情報の収集だ。ボクが『知りたい』と思ったことを調査の過程をすっ飛ばして『知る』ことができる」
おい何だソレ便利過ぎる。隠し事できないってことか。そんな“C.O.W”もあるのか……
「ここに来たのは、君がここにいると“C.O.W”で『知った』からだ。同じ様に、君が天井裏の隠し通路をコソコソしているのも『知った』し、何故そんなことをしているかも『知った』」
「嫌な能力だな」
「でもその嫌な能力でもわかんないことがあるんだ!」
「そう……君の“C.O.W”の詳細がさっぱりわからない。こうして対峙してもなお、だ。君はもしかしたら何か特別な“不適合者”かも知れない、とも思ったけれど……」
「実際会ってみたら特別どころか『社会の歯車』みたいにツマラナイ奴にしか見えないや!」
「君には“不適合者”としての覚悟が感じられない。化け物になった癖に、まだ社会に牙を剥く決心がつかないのかい。君は確かによくわからない。だけど、それ以上にツマラナイ」
「ツマラナイ!」
「ツマラナイ」
ニタニタ笑いながらツマラナイツマラナイと連呼される。
――さっさと殺し合いたいのに頭のおかしい説教ばかりされていい加減ストレスが溜まってきた。
「……はいはい、ワタシはツマラナイですよ。――で、殺していいか?」
「あはは、怒っちゃだーめ!」
「短絡的だね。でもまぁ、ちょっと提案があるんだ。聞いてくれないかい?」
「何だ?」
「とっても特別な提案、提案!」
「君は確かにツマラナイ。その“C.O.W”以外には何の興味もそそられない。だけど、逆に言えば僕の能力でも『知る』事の出来ないその“C.O.W”にはとても興味がある。そこで、だ」
二人は全く同じ動作で、どこからともなく取り出したバラの装飾のついたレイピアをワタシに向けて構えた。
「ちょっと味見させて!」
「ボク達にその力、示してくれよ。君の力が有用だとボク達に納得させてくれれば……」
「仲間に混ぜてあげる!」
「一人より二人、二人より三人だ。チームとして、この“ゲーム”を乗り切ろうじゃないか」
なるほど。まぁそりゃ一人より徒党組んだ方が勝ち残りやすいだろうが……
「――お断りだ、変態共。ワタシは殺す気でやる。お前らも殺す気でかかってこい」
くだらない。群れることが好きなら、“不適合者”なんてやろうと思わないっての。
ワタシには、お前らだってツマラナイ奴にしか見えないよ。