2-4 本気の出し方-1
ストックの扉を開け放つ!するとそこに広がっていたのは完璧に整理整頓された空間!
“不適合者”ハルカゼ・ツグキの超パワーによって一部の隙もない商品管理場所になっていた!
こんな事態は「クラキ屋」デパートスレドイ店史上初!
わたしは改めて“不適合者”ハルカゼ・ツグキの恐ろしさを思い知った!
だが!こんなことでわたしは退かない!ハルカゼ・ツグキをラッキースケベでメロメロにするまでは死ねん!
……む!目標発見!ハルカゼ・ツグキだ!この男、商品整理だけでなく掃除まで完璧にこなす気なのか、濡れ雑巾でひたすら床を拭いている!真面目!
「は、ハルカゼく~ん~!」
わたしは声帯の限界を超えたキャワイイ声で目標に声をかけながら走り出す!
その先はもちろん、目標であるハルカゼ・ツグキ!
「……?エンドウさん、どうしたんですか?今日休みじゃ……」
走る!走る!走る!
しかし商品が完全に整理されていて見通しが良すぎる!
これでは偶然を装って思いっきりこけてハルカゼ・ツグキに抱き留めてもらって二人の距離急接近!テキなコトができないのでは……!?
(まだだ!諦めるなわたしぃ……!)
目標との距離、あと数秒で射程圏内に入るっ!
考えろ!偶然を装って自然にこける、そんな可愛いドジっ子を演じる完璧な演技を実現する方法を!
憶するな、大切なのは成功するイメージとかなんとか!
(次の一歩でおもいっきりこけながら前方に飛べば目標とクラッシュ&ラッキースケベだ!)
極限の状況により加速するわたしの思考!一瞬で最適解を叩き出す!
(この一歩……左足を思いっきり右斜め前に踏み出し……)
(そのまま続けて右足をまっすぐ前へ……)
(すると右足に左足が派手にひっかかり……!)
――アイキャン、フライッ!!
「届けぇぇぇ!!!」
「ゑ?」
飛んだ!わたしは飛んでる!目標に向かって一直線に……!!
「オラァ!!!」
「ぐへっ」
クラッシュ!!愛の弾丸と化したわたしは目標を打ち抜き、そのまま押し倒す!!
そしてラッキースケベを装う為一瞬で目標の手を取り、誘導!
右手、おっぱい!
左手、おしり!
「決まった……!!!」
「…………ナニが?」
目標は混乱している!畳みかけろわたし!
「アイタタタ、ゴメンネハルカゼクン……ッテキャーエッチ―」
「・・・・・・・・・・・・」
「モ、モウ、ドコサワッテ……アンッ」
「・・・・・・・・・・・・」
「ハ、ハヤク、テ!テェハナシテヨー」
「・・・・・・マジギレして良いですか?」
「な、何故!?」
――いや、ナゼもクソもないわコレ。作戦失敗。
「完璧に自然なラッキースケベだと思ったのに~」
「いや完璧に不自然でした」
「ちなみにわたしにベタ惚れとかしてない?」
「してませんよ……何ですかコレ?」
「さぁ……?」
「・・・・・・・・・・・・」
あ、やべぇ!ハルカゼ君の目つきが絶対零度なカンジに!
こうなりゃ正々堂々勝負だ!正面から殴って倒す!
「ハルカゼ君や」
「……何ですか?」
「童貞?」
「ぶっ!?」
「童貞?」
「いきなり何ですか!?」
「うるせぇさっさと答えろコラァ!!!」
「何故ー!?」
「貴様のムスコが不能になっても良いのか!?アアン!?」
「怖い!」
「アーユーチェリーボーイ!?」
「う、うぅ……そ、その、大学の頃に……」
「教官に嘘をつくとは良い度胸だ!!褒美にアレを潰す!!!」
「すみませんでしたぁぁぁ!!!」
「もう一度だけ聞く!!!貴様は童貞か!?」
「イエスマム!!!自分は守る価値の無い貞操を守っているウジ虫です!!!」
よし童貞か!なら話は早い!
「よし、いくらでもヤらせてやるからわたしを24時間365日年中無休で守ってくれ!!!」
「何言ってんのこの人ぉーーー!?」
「もう孤高のソロプレイしなくて済むぞ!!!」
「やかましいわ!!!」
「男女の間にあるのは恋でも愛でも無い!!!エロスだ!!!」
「身も蓋も無い!!!嘘だと言ってください!!!」
「ヤれれば良いんだろヤれれば!!!」
「そんなことはないと意地でも言ってやる!!!」
「既成事実も作って退けないようにしてくれるわ!!!」
「やーめーてー!!!」
「うえっへっへっへぇ……身も心もわたしのモノにしてやんよハルカゼェ……!!!」
「う、うわー!!!クソォ、コノヤロウ!!!殺る!!!」
「ゑ?」
「――――“Check――」
「すみませんでしたぁぁぁ!!!」
守られようと思ったらむしろ殺されそうになった。しかも全力で。わたしがチェック・アウト・ワールドしてしまいそうになったわ。やっぱ、無理矢理は駄目だね。キチンと合意の上でするべきだよね。
この場合それ以前の問題なワケですが。
「……とりあえず、何でこんな事したか、全部ゲロって下さい」
満面の笑みで言われる。すげぇ。ハルカゼ君ってマジギレしたら営業スマイルよりも自然に笑うんだね!
……逆に怖いぃ……
「――いやそんなことしなくても守るつもりだったんですけどねぇ」
「うんにゃ、もっと生存確率高めたいのよ。同棲しようよ何でもするから」
「打算的だ……」
「打算じゃない付き合いなど無い」
「ひでぇ」
事情を全部話した、けどまぁハルカゼ君の反応は素っ気ない。
「そこまでして死にたくないんですか?自分の体まで使って?」
「はん、もう大事にするもんでもないわい」
「……言ってて虚しくないですか」
「……虚しい」
「・・・・・・・・・・・・」
あーあ、もう完全に素に戻っちゃったやアハハハ。
「というか、エンドウさん」
「ん、何?」
「男性と付き合った事あるって言ってませんでしたっけ」
「あー、うん。2年前くらいまでかなー。仕事で参っちゃって愚痴ばっか言ってたらフラれたけど」
「じゃあもうちょいマトモなアプローチのやり方知ってるでしょ……なんですかアレは……」
「あー……」
いや、確かにそうなんだけどねぇ。なんというか……
「……本気でそういうことする方法、忘れた、みたいな?」
「へ?」
「いや、2年も『もー彼氏とか作んのとかどーでもいい……生きるので精一杯……』みたいな生活送ってるとそういうノウハウを忘れる、っていうか、理屈では覚えてるのだけど実行に移せないというか」
「は、はぁ……」
「そもそも本気になる気力も無くなっちゃうんだなコレが。要は、本気の出し方を忘れる」
「・・・・・・・・・・・・マジで?」
「マジ」
「マジかぁ……」
なんかしんみりしてしまった。
「まぁ恋愛とかに限らないよ。時々は本気で何かに取り組んでないとさー、いざ本気でやんなきゃいけない時に本気出せないんだよねぇ~わたしだってさっきの一連の行動、どっかで『まぁ失敗してもいいか~』とか思いながらだったし……」
「何かソレ、死ぬよりある意味怖いですね」
「……あー、そうかもねぇ。ハルカゼ君はわたしみたいになっちゃダメだよ~」
すると、ハルカゼ君は一瞬悪巧みをするような笑みを浮かべた。
「……いや。僕はしばらくは心配いりません」
「……あー……なるほど」
ハルカゼ・ツグキ。“不適合者”。
命がけの“ゲーム”に身を投じている最中は、「本気の出し方を忘れる」なんてあり得ないだろう。それがほんの少し羨ましかった。