2-3 つうしんぼ-1
――どうしようもないのは重々承知、なんだけど。
「やっぱ、落ち着かないよね」
そうひとりごちる。今日のシフトは休み。わたしは部屋のベッドに寝ころびながら、ホロフォ(ホログラム・フォンの略)で「つうしんぼ」を起動して、画面を眺めていた。
「つうしんぼ」の機能の一つ、“不適合者”達の情報の表示。
こんなもの見たところで意味なんかあるのか?と思う。
どれだけ“不適合者”の事を知ったって、“不適合者”に遭遇した後のわたし達の運命なんて「殺される」以外にあるんだろーか?
自分のやってる事はとんでもなく無意味ではないか?ってか、無意味だよねコレ。
「はぁ~……」
それでも「知ろう」とするのは何故だろう?
店長がいつか言った通り、この世のルールはわたし達にとってたった一つになったのだと思う。
「“不適合者”にぶっ殺されるまで生きる」
それだけに。この「つうしんぼ」のリストにある“不適合者”達の誰と遭遇しようが、差異なんて大してあるものか。だから各々がどういう奴か、なんて知る必要のない情報……
「なんだけど。何やってんだか、わたし」
その癖休みの日になーんにもしないで「つうしんぼ」をいじくりまわしているだけってのはどうも、虚しい。
かといって録り溜めているドラマも買ったまま放置している小説にも目を通す気分にならなかった。
今や、そういうものに夢中になれる気がしなかった。
このまま行けばご飯とお風呂以外でベッドから起き上がらずに休みの日を浪費する結果になりそう。
「つうしんぼ」のメニューから「“不適合者”のみんな」という項目に進めば“不適合者”達の名前がリストとしてずらりと並ぶ。名前の一つをタッチすると、その“不適合者”についての詳しい情報が表示される。
例えば、リストの一番上。スプリ・ダイフという名前をタッチしてみると――
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《絶対上位》の“不適合者”:スプリ・ダイフ
出席番号1番
・ステータス
「ちからづよさ」:ふつうです
「がんじょうさ」:ふつうです
「すばやさ」 :ふつうです
・“C.O.W”
対峙している相手の全ステータスを強制的に自分より下の評価にし、“C.O.W”の効果も弱体化させる。
・殺害人数
“不適合者”:0人
・破壊個数
社会の歯車 :0個
・特記事項
2080/7/1に死亡。正体不明の敵と戦闘になり、敗北し殺害される。彼の歯車は現在行方不明になっている。
>>>>>>>>
……ってな感じに、情報が出てくる。
まず名前。この例の「絶対上位」みたいに“不適合者”には異名がついているらしい。
出席番号は“不適合者”になった順番を指している。
ステータスは“不適合者”の基本的な能力の評価で……
「ちからづよさ」
「がんじょうさ」
「すばやさ」
を……
「とてもよくできています」
「よくできています」
「ふつうです」
「くそです」
「とてもくそです」
の五段階で評価している。下の評価の時の表現がなんかなげやりかつ辛辣だなぁ……
“C.O.W”の項目ではその効果を表示されている、のだけど、一度も使っていなければ表示されない、らしい。
つまり、“C.O.W”は強力なんだけど、一度でも使ってしまえばタネがバレてしまう、ということ。
正に切り札だ。……まぁ、バレたからナニ、って感じの能力も多いのだけど。
このスプリ・ダイフの能力とか普通に考えてすごく強力で、対抗策なんて無さそうだし。
殺害人数はその名の通り。
“不適合者”を沢山殺していれば、それだけ“不適合者”が持つあのボロボロの歯車を奪えている、ということになる。
ルールにもあったけれど、“不適合者”が各々持つ、その力の源である歯車……それらは、二つ以上がくっつくと一つに融合して、“C.O.W”を強くすることができる。
力の源である歯車を奪っている、ということは普通に考えればその持ち主は殺されている、と同義であって。
“不適合者”の殺害人数はそのままどれだけそいつ“C.O.W”が成長しているか指している。
……ちなみに、なのだけど、融合による“C.O.W”の強化のシステムは単純な足し算だ。
例えば10個の歯車を奪った“不適合者”がいるとして……
他の誰か……例えば5個の歯車を奪ったヤツがそいつの歯車を奪うことができたなら……
10+5。15個分の力を持った歯車が出来上がる、らしい。
と、なると沢山“不適合者”を殺していると、その分狙われやすくなったりするのかな?
逆に恐れられる、ということもあるかも知れないけど。
その下の破壊個数、「社会の歯車」というのはまぁ、わたし達の事だろうなぁ。単位が「個」になっているところに謎のこだわりを感じる。
そして、最後の特記事項。ここに何か書かれるのは大体既に“ゲーム”に敗北した“不適合者”達だ。いつ、誰に殺されたのか?そういったことが書かれている。
例に挙げておいて何だけど、スプリ・ダイフの特記事項に書かれている内容はかなり変わっている部類だ。他の敗北して殺されている“不適合者”については「《○○〇》の“不適合者”と戦闘になり、敗北し殺害される。彼の歯車は《○○〇》の“不適合者”の持つ歯車と融合した」という感じではっきりと書かれている。
だけど、スプリ・ダイフの特記事項には誰に負けて、その歯車がどこに行ったか、まったく判明していない。
ま、どうでもいいか。わたしには関係ないや。知ったとこでどうにもならない。
……「どうにもならない」ばっかりな自分が虚しいとは思う。
さて、次は我らがハルカゼ君の評価。「つうしんぼ」には検索機能もついているので名前さえわかれば一発で情報が手に入れられるのだけど……
>>>>>>>>
《???》の“不適合者”:ハルカゼ・ツグキ
出席番号83200番
・ステータス
「ちからづよさ」:とてもくそです
「がんじょうさ」:とてもくそです
「すばやさ」 :とてもくそです
・“C.O.W”
???
・殺害人数
“不適合者”:0人
・破壊個数
社会の歯車 :0個
・特記事項
なし。
>>>>>>>>
くそオブくそ。ナニコレ。
以前強襲してきたアイダ・リホが「オール1」と表現したのはこういうことか……
しかし、それでも。
いつかハルカゼ君が破壊したサンドバックを思い出す。
「・・・・・・・・・・・・」
……“不適合者”ってのは最低でもあれくらいはできるってことなんだよね……
もしかしたらあれだって全然本気じゃなかったかも知れない。
改めて、こりゃわたし達が何したって無駄だ、と実感する。
基本的能力は最低ランク。だけど、それでもハルカゼ君はアイダ・リホと互角に渡り合って見せた。
やっぱりそれは、ハルカゼ君自身の“C.O.W”の力なんだろうか。
「――――“Check Out”」
あの戦いで、ハルカゼ君がそう言った時から戦況が変わった。
それまで防戦一方だったのが、逆に圧倒するまでになってた。
“Check Out”。それが“C.O.W”を使う為の呪文?なのだろう。
でも“C.O.W”使ったらその詳細が「つうしんぼ」に表示されるはずなんだよね……異名も《???》だし。色々ワケあり?もしかしてメンドクサイ案件?
……ソレも今更か。