2-1 働いたら負け-6
凄絶な笑みを浮かべて「神」が狂笑する。
「フフフ……泣け、喚け、『多数派』共!」
「貴様等は全く覚えが無いと宣うだろうが……その今までの幸福な人生のツケ、払ってもらうぞ!!その命でなぁ!!」
テンション爆上がりの青年。「神」ってか悪役のセリフだぞソレは。
「クックック……」
「フハハハハ……」
「アーハッハッハッ!!」
「……ゲホッゲホッ」
華麗な悪役三段笑いを決めた後に笑いすぎてむせた「神」。威厳ゼロ。
もうどう反応していいのやら。
「あー疲れた……まぁそんな感じなんで。テキトーにガンバ。」
「そうそう、ボクは確かにこの事態の仕掛け人だけど、ボクを殺そうが何しようがもう意味ないからね。もうボク無しでも“ゲーム”は機能し続けるしね~。ぶっちゃけ“廻”も“C.O.W”もボク自身の力ってワケでも無し。一応キミ達の中に“廻”の力の『大本』がいてね。『大本』が『おらさもうこんな力いらねーべー!!』とか言うからボクが引き取って再利用してんの」
「つまりボクは体の良い舞台装置なのさ~うえへへへ。この物語の辻褄合わせに都合よく使われた、ある意味被害者よマジで。ぶっちゃけボク自身はそんなマジで『地球人滅ぼしたろ!!』とかは考えてなくてぇ~。まぁ『どちらかというと滅んだ方がいいんじゃないかな……?タブン』みたいなノリでさぁ~」
ノリ……ノリって、お前コラ。これが「神」って。世も末、ってのはこういう時使う表現なんだろうなぁ。
「つーかさぁ、なんなのマジで!ゲームとかで良くあるっしょ!?『ラスボスは「神」だったのだ!!』みたいな!『神』って言っとけばいーや、みたいな!な!」
「雑、雑、雑なんだよバカヤロウコノヤロウ!つーか実際こんなんよ!?全知全能とはほど遠い残念神!!人類滅ぼす力なんて持ってないよーうわーん!」
「だからもう忘れてくれ!ボクは今回脇役以下!舞台装置!背景!ご都合主義で辻褄合わせに使われるポッと出の新キャラかつ雑キャラ!もう出ないよ!主役もラスボスも結局“不適合者”なんだよぅ……きっとキャラだってブレブレさ!」
……確かに、キャラはブレている。
「あ~あ、一応こんな計画でも相当時間かけたしさ~ちょっとはしゃいじゃおっかな~とか言ってこんな場を用意したボクがバカだったよ。はいはいもう解散。質問受付しゅーりょー。『多数派』のミナチンは残り少ない余生楽しんでね~。次会う時は天国と地獄の境目さ。つまり死んだ後ね。もうすぐだねぇ」
「んじゃ、ばいび~」
――――――――――――――――――――――
「神」と名乗る青年との対話はおざなりになげやりに終わり、わたしは目を覚ました。
顔洗ってー
服着替えてー
化粧してー
……まぁ他にも色々準備して。
いつも通りにデパート「スレドイ」内8階のアパレル店、「クラキ屋」に出勤。
制服に着替える更衣室での同僚との会話はもっぱら……
「……昨日変な夢見たんだけど」
「……もしかして、『神』がどうの、とかいう?」
「……そうそれ」
「……やっぱマジなんだね」
「……マジだねぇ」
「…………」
・・・・・・・・・・・・
それ以上の言葉が見つからない。取り合えず、昨日の夢で見た「神」との「質問会」はマジであったことだという確認完了。
だからどうしたっていうか、もうどうしようもないというか。
――客足が少し減った気がする。売れ行き良くない。別に気にしないけど。
昨日の「神」との対話を経て、“ゲーム”に対する実感が人々の中に少しずつ沸いてきたのだろうか。
でも家の中に閉じこもってても“不適合者”がその気になればどうせ意味無いと思うのだけど。
ちなみにある意味当事者とも言えるハルカゼ君はフツーに出勤してきたので、ちょっとざわついた。
人前に出たら色々不味いので、裏方でストックの整理などの仕事をすることを店長に申し出たらしく。
店長は店長でハルカゼ君という“不適合者”、つまり店長にとって面白過ぎる人物が傍にいることは大いに歓迎できる事態らしく、テンション上げ上げでその申し出を許諾した。
――今ストックは中々面白おかしい状況になっている。
“不適合者”としての超パワーのせいか、あれだけ乱雑としていたストックの中の商品が猛烈な勢いで整理整頓されていっている。
「やべぇ、接客出れない分差し引いても便利過ぎるな。最高。色んな意味で」
“不適合者”なのに平然と出勤して仕事をこなすハルカゼ君。
“不適合者”を平然と従業員として扱う店長。
……多分どっちも頭のネジがぶっとんでやがる。
「ハルカゼ、ここの連中守ってくれるってよ。……だからな、少しでも長生きしたけりゃいつも通りここに出勤してきた方がまだマシだぜ?」
店長は今日ずっとハルカゼ君に興味津々で、しきりに話しかけていた。ハルカゼ君がちょっとヒクくらいに質問攻め。“不適合者”について情報を仕入れまくってホクホク笑顔。
似合わないからやめて欲しいわこの見た目ヤクザめ。
「……なんで?“不適合者”だったらわたし達なんて嫌いなんじゃないの?」
「『皆さんの事は、別に……』だそうだ。“不適合者”も色々ってワケだな。顔見知りが死ぬのが嫌らしいぜ。まぁアイツが嫌いなのってウチに来るお客様共の方じゃね?9割ぐらいクソだしな」
「…………」
わたし、“不適合者”より店長の方がある意味コワい。出鱈目、適当、混沌。思考回路が意味不明だ。
「この祭りは楽しいぞぉ」
「なにがそんな楽しいのか。バカなのか」
「おうよ。踊る阿呆もといバカだ。そんなバカには昨日の夢は最高オブ最高だった。まさか『神』なんてもんと話せるとはな。中々面白いこと言ってたじゃねーか」
店長が昨日のあの「神」と名乗る青年の言葉を復唱した。
「人という字はぁーヒトとヒトが支えあって出来ているワケで。でもキミ達『社会の歯車』はヒトっつーか最早モノなワケで。冷酷無比なワケで。キミ達の社会は『生命』であることよりも『物』であることを良しとしてるワケで」
「『生命』が『物』になるなんてタイヘンなコトですぜマジ。フツー無理無理。それを良しとする社会って何だい。『社会の歯車』になれなかったら即『社会不適合者』扱いってなにさソレ。健全さのかけらもねーんだよ今の社会にはさぁ!」
「――だったか。俺はこのあたりなかなかイイ線いってると思うぞ」
「……どういう意味で?」
「愉快さの度合い」
「…………」
ダメだコイツ。
「なぁエンドウ。ある偉人の言葉をお前に送ってやる」
「はぁ」
「『働いたら負けかなと思っている』」
「絶対偉人じゃねぇソイツ」
「偉人だよ偉人。それも超ド級のな。なんせこの言葉はとんでもない真理だ。この国の労働システムがどうこう、って話はおいとくとしても、だ。――『神』も言ってただろ、俺達は『社会の歯車』、つまり『生命』じゃなくて『物』だってな」
「……それで?」
「エンドウ、俺達は『物』なんだよ。わかんねぇか?お客様共に文句言われた時の事を思い返してみろよ。アレが『生命』に対する言葉か?奴隷、なんてレベルじゃねぇ。まるで家電がぶっ壊れた事にむかついてるような口調じゃなかったか?アイツ等は俺達の事を『生命』だ、なんて思ってねぇんだよ。『物』だよ『物』。つまり、『社会の歯車』だ。言い得て妙じゃねぇか、えぇ?」
「むぅ」
「ヒトという『生命』が『社会の歯車』という『物』になっちまう……コレが『生命』としての敗北じゃなくてなんだってんだろうなぁ……クククッ」
「…………」
「いいじゃねぇの “不適合者”。『物』になっちまったクズ共なんざぶっ壊しちまえば良いさ。アイツ等はしっかり『生命』やってんだろうよ。ソイツ等同士の戦い、“ゲーム”なんてもう俺達『物』にとっちゃ眩しくも面白いもんだと思うぜ?明るく激しく鮮烈に、自分が死ぬのを覚悟で俺は最前列かぶりつきで観戦させてもらうぜ」
『生命』である“不適合者”。『社会の歯車』ではない“不適合者”。
たかが『物』、敗北者であるわたし達には到底届かない領域――。