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2-1 働いたら負け-5

 「『数が多い』という事は、単純に『強い』ということなのさ。それに、キミ達の作った社会はいつだって『多数派』が得をするようにできている。そうしないとキミ達の作った社会は崩壊してしまうからだ。それにしたって、最初は仕方ない事なのかも知れない……だけどね、キミ達地球人はそこから次のステップへ進まなければならなかった」


 「『少数派』を犠牲にし続けるやり方から、『少数派』も受け入れるやり方に変えていかなければならなかったんだ。キミ達は皆同じ様に生まれてくるわけじゃないんだしね。社会に適合できる強者であるキミ達『多数派』は強者としての務めを果たすべきだった。その強さをもって、皆が幸せになれる社会を作る義務があったんだ。真っ当に正義を考え、道徳を重んじるのならばね。」


 「だがキミ達の選んだやり方は『多数派』が『少数派』という弱者を助けず、『多数派』が『少数派』を犠牲にし続ける現在まで続くシステムを現状維持させることだった。キミ達『多数派』が選んだのは正義でも道徳でも無く利益。いつだって『多数派』が勝利する多数決による社会。『多数派』が正義であり『少数派』は悪であると設定し、『少数派』を『常識』という言葉で縛り付けて追い詰めて徹底的に弱者にして利用して犠牲にして悦に浸る為の『多数派』の道具にした」


 ――いまいち言葉が頭に入ってこない。

 青年はわたし(みんな)を「多数派」と表現し、「少数派」を犠牲にし続けたことを批判しているようだけど、正直「少数派」に特別酷い事をした覚えは無いのだけど……


 「――なーにが特別酷いことをした覚えが無い、なんだい。ボクに言わせれば『何もしなかった』ことこそが酷いね。『多数派』と『少数派』、強者と弱者を作ることで成立する社会を黙認し続けた。何もしなかった。おかしいと声を上げることさえしなかった」


 「『少数派』は、弱者は常に敗北の屈辱を受けている。『多数派』の強者が自分達を踏みにじりながら、時に踏みにじっていることにすら気づかずに、勝利の美酒に酔い続ける様は、弱者にとって酷く心をすり減らされるものだし、ボクにとっては苛立たしい」


 「できうる限り多くの人間を幸せにしようと努力し続けない社会なんてものは、ボクにとって酷く歪んでいるように見えるね。強者は弱者に勝ち続けることしか考えていない。敗者がいなければ勝者になれない。その為に弱者を弱者のままに、敗者を敗者のままに縛り付ける……コレが狂っていないとでも言うのかい」


 ……わたし(みんな)にはわからなかった。

 『神』を名乗る青年の話は具体性に欠ける。

 わたし(みんな)は結局どうすれば良かったのか?


 「……さぁ、ね。正直今のキミ達の凝り固まった思想、社会の成熟具合を見るに、ここから変えるのはほぼ不可能だろうね。強いて言えば、こんなおかしな社会が成立しきる前に、『間違っている』と語り、発信するマトモな人間が多ければ……つまりキミ達『多数派』が何でもいいから動いてさえいれば、こんな事態にはならなかっただろうね」


 「『多数派』で強者のキミ達にはプライドが必要だった。強者として社会を正していくというプライドが。間違った社会を許さないというプライドが。弱者を救うというプライドが。キミ達はそれらを持ち得なかったワケだ。『少数派』を時に甚振り時に見捨てて意地汚く勝利を貪った」


 ……なんだかなぁー。

 なんというか、随分青臭いと言うかなんというか。

 はっきり言ってガキ臭い。

 「多数派」と「少数派」、強者と弱者、勝者と敗者、どっちも幸せにしろよ、なんて理想論にも程がある。

 物事ってそんな単純じゃないと思うのだけど、どうか――?



 「……めんどくさっ」


 

 ……そんなわたし(みんな)の思いを受け取った青年の反応は、今までと比べて凄まじく雑だった。


 「タリィー」


 青年は体をだらんと弛緩させた。だらしない。一気に「神」としての信憑性がガタ落ち。


 「……『そんな単純じゃない』とか『理想論だ』とか『ガキだ』とか『具体的じゃない』とか……キミ達はいっつもそんなのばっかだねぇ。問題は大体単純だし理想を追い続けるのは間違ってないしガキの思想に真理が含まれないとは限らないし具体性は必ずしも必要じゃない」


 「要は言い逃れる為の言い訳でしょそーいうのってさ。理想的な世界なんて人間が努力すれば……例え努力の方向がバラバラでも簡単に達成できるさ。色々理由つけてサボりおって。単純に気合いと根性と良心と正義が足りんのよキミ達。『多数派』で強者で勝者なキミ達には責任があるの。それを果たせよバカチン」


 「人という字はぁーヒトとヒトが支えあって出来ているワケで。でもキミ達『社会の歯車』はヒトっつーか最早モノなワケで。冷酷無比なワケで。キミ達の社会は『生命』であることよりも『物』であることを良しとしてるワケで」

 

 どんどんテキトーさ加減を増す青年の口調。……多分、こっちが素だなコイツ。


 「『生命』が『物』になるなんてタイヘンなコトですぜマジ。フツー無理無理。それを良しとする社会って何だい。『社会の歯車』になれなかったら即『社会不適合者』扱いってなにさソレ。健全さのかけらもねーんだよ今の社会にはさぁ!」


 「いいさわかった!もう親切丁寧に説明してあげないもん!もん!」


 「神」……これが「神」……

 残念なヤツだ。本当に。



 「まぁアレよ。『少数派』の“不適合者”達はね、要は『「多数派」のお前らばっかり良い思いして自分達は窮屈な思いばかりしてるのが気に食わないからぶっ殺しますがナニか?』って考えてるんだよばーか!!」



 ……ミもフタもねー……



 「理不尽とか思うかね!?でもなぁ、今“不適合者”になってるようなヤツ等はねぇ、キミ達『多数派』に『常識』という言葉を使われてずっと迫害されてきたワケだ!キミ達に悪気が無くてもね!“不適合者”にとっちゃ先に手を出してきたのはキミ達で、だけどそれに対抗する手段が無くて、ずっと泣き寝入りしてきた!」


 「だ・か・らボクが手を貸してあげたのさ!対抗できる手段を用意して!“廻”を、“C.O.W”を!」


 「ぶっははは!!ワケわかんないかい!?ああ、ああ!じゃあわかんないわかんないと喚きながらエキストラのように死ね!!」


 ヤケクソになった青年の言葉は随分ストレートで、その分理解はしやすくなったが……

 納得はまるでできなかった。できなかったが、どうやらそんなことは気にもされないらしく。



 「やられたらやりかえせる、やったらやりかえされる!!どうだい、これこそ健全な社会じゃないかい!?」


 健全、健全……健全な社会って、何だ?



 わかる事は……これからわたし(みんな)は冗談のように、ゴミのように、殺される。

 そんな社会に、世界に、なってしまった。

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