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2-1 働いたら負け-4

 「……はぁ。なんでこんなことをするのか、だって?」


 理由。“不適合者”同士の一般人への被害、影響を全く考えていない“ゲーム”を執り行うその理由。

 その圧倒的な武力差から、ソレに対して耐え忍ぶことさえ許されないわたし(みんな)の一番の疑問はそこだった。

 

 ――何故、こんなことに?


 いまいちまだ実感が沸かないとはいえわたし(みんな)の状況は最悪だ。いつ“不適合者”に虫けらのように殺されるのか、わかったもんじゃない。あの戦闘力を見れば、警察、軍隊に頼っても無駄だということは嫌でもわかる。

 常に首筋に刃物を当てられているようなものだ。これではまともに生活なんてできない。


 ――わたし(みんな)が、なにをしたっていうのか?


 「なんで、って?なにをって?――結論から言ってしまえば、キミ達がそれをわかっていないからだよ」


 青年は心底残念そうな表情だった。


 「実際に目にすると予想以上に悲しいなぁコレ。あれは2010年代後半頃だったか……『異星人』がキミ達を滅ぼそうと行動したのもわかるってものだ。救いようがないねキミ達。……まぁ、なんだ。簡単に言ってしまうと“ゲーム”の最終目的は地球人の絶滅だ。ありきたりだろ?キミ達に直接干渉できないボクが何十年も準備して仕掛けた殺戮のシステムだ。“不適合者”がルール無用で殺しあえばキミ達だってただでは済まないだろ?……まぁ遠回りなやり方なのは自覚してる。だけどボクにはこういうやり方しかできないんだ」


 「もっと簡単にキミ達を掃除できればいいのに!あぁぁ面倒くさい!でもぶっちゃけさっきも言った通りボクって『神』だけど『全知全能』って訳でも無いからさぁ!色々手を回さなきゃならないのさ!がってむ!!」


 ぐわーっと綺麗に整った金髪をかきむしる青年。ふざけた口調の割にはその苛立ちは本物のように見える。


 「……どこから話したもんかね。――そうだなぁ、“不適合者”がどういう基準で選ばれているか、ということから語ろうか。まぁ、要はキミ達が言うところの『社会不適合者』の中から“不適合者”が選ばれていると考えてくれて構わない。『社会不適合者』は社会に適応できない故に、生き辛くてたまらない。なもんで、時に社会に反する者、つまりは『犯罪者』になる場合がある」


 「ただここで気をつけて欲しいのが、『社会不適合者』と『犯罪者』は必ずしも同じではない、ということだ。キミ達がどう思っているかはともかく。『犯罪者』は犯罪という行為を通してある意味で社会に交わることに成功しているのさ。『犯罪者』は警察に捕まって、受刑者として刑務作業に従事し、晴れて社会の歯車、社会の一パーツになれるのさ」


 「要は、『犯罪者』は犯罪によって社会と自分とのズレから生じたストレスを発散し、社会に適合できるようになる可能性がある、ということだ。もちろん、幾度罪を犯しても社会に適合できない人間もそれなりにいるのだけどね」


 「『社会不適合者』の中でも、今回“不適合者”に選ばれたような人間はね、社会と自分とのズレをその時点で解消できていない、解消しないように自制している者の中でも選りすぐりの、ストレスで爆発寸前の危険人物候補達だ。ほんの少し、理性というストッパーが緩んでしまえば大規模な反社会的行動に移るような、ね」


 「爆発寸前の状態で耐え忍んで苦しんで、それでも社会の中で生きていたのが“不適合者”。社会というモノへの憎悪は意識無意識の差はあるだろうけれど相当なものなのさ。まー今回そんな人間達が非常識で強力な異能力を持っちゃたもんだから、そりゃまぁその力の矛先は社会だ。んで、社会ってのは『多数派の』人間が作っているものだから、自然に『普通で』『数が多くて』『常識的な』その他大勢で没個性な『社会の歯車』やっちゃってるキミ達が彼ら“不適合者”の標的になるわけだね」


 ……そんな話を聞かされてもわたし(みんな)には反応しようが無い。だって結局わたし(みんな)は何も悪くない、何の罪も犯していないってことだろう。

 なのに、何故、「神」を名乗るこの青年はわたし(みんな)を危険に晒す“ゲーム”の仕掛け人になったんだ……?


 「そう焦らない焦らない。今までのは前提の確認のようなものだ。そして今からは――キミ達の醜悪さと犯した『罪』を語るよ。……いやぁ、勧善懲悪の大義名分を語る瞬間の興奮はなかなかのモンだねぇ。ある意味、ここまで下劣な悪役になってくれたキミ達にはある意味感謝……はやっぱヤメだね。胸糞悪い」


 そう言って、青年はヘラヘラ笑った。


 「この『罪』が許せなくて、かつて『異星人』達はキミ達を滅ぼそうとした。だけど、『異星人』達の首謀者は倒され、その仲間も迂闊に身動きできなくなっている。……滅びを一度は避けられたのは、『罪』を償えたからじゃない。一人の人間が圧倒的な力を持って裁定者を無理矢理押しつぶしたのさ。――『罪』は、その時から60年と少しの時間が経った今でも、キミ達の中に確かにある」


 「そして、その『罪』を許せないのは『異星人』だけで無く、このボク、『神』もだ。キミ達に生きる資格は、無い」


 力強い宣言。その気迫にわたし(みんな)は気押される。


 「キミ達の『罪』は、そう……『多を生かす為に少を殺し続けた』事だ。ただ数が多いだけの事を『正義』とし『常識』とし『普通』とし、ただ数が少ないだけの事を『悪』とし『非常識』とし『異常』とした。キミ達はみな違うように生まれてきたくせに、『違う』ものを犠牲にし続けた。だからこそ、『異常』な“不適合者”はキミ達を殺そうとし、ボクは地球人を滅ぼそうとしているのさ」


 

 ……わたし(みんな)の「罪」。それを聞いてもいまいちピンと来なくて。

 だからこそ、わたし(みんな)は裁かれるのかも知れなかった。

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