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2-1 働いたら負け-3

 「――夢を見ている時間……ってのはね、人間にとって一番『神秘』に近づく時間なんだ」


 ――唐突にそんな声がした。


 (……え?)


 ――仕事が終わって夕食を食べてシャワーを浴びて適当にテレビを見て……

 そんな何の変哲もない仕事終わりのプライベートの時間を過ごし、いつものようにベッドに寝そべってわたしは眠りに就いた、はずなのだけど。


 「眠っている間、君たちの脳は機能の一部を停止させている。その内一つが想像力に対してのストッパーなんだ。このストッパーが無いと、キミ達はしょっちゅう非現実的な幻覚を見るようになってしまって、まともに生活するなんてできなくなってしまうのさ」


 「……だけど、眠っている間はそのストッパーの機能は停止する。するとときたま、キミ達の想像力は極限まで高められ暴走し、キミ達自身に幻覚を見せるようになる。これが『夢』だ。その幻覚の不条理さには際限ってのが無い。矛盾だらけで辻褄が合わず、非常識で非現実的。とにもかくにも意味がさっぱりわからない。見える筈の無い光景が見え、起こりえない事態が起こりうる。……夢を見ている、というのはある種神秘的な状態なんだ」


 真っ白な空間の中にわたしは立っていた。目の前には癖一つ無い金髪ロングヘア―の、整った顔立ちをした青年がいて、穏やかな笑みを浮かべている。

 上半身には何も着ておらず、下半身に黄金に輝く文様のようなものが入っているスカートを履いているだけの格好。

 彼の事はどこかで見たことがある……


 「ねぇ、想像力には本来限界が無いんだよ。人間というのはどんなとんでもないことでも自分の頭の中でなら成し遂げることができる。天才にも大金持ちにも、なんだったら魔法使いにだってなれてしまうのさ」


 ところでわたしは……わたしは誰だ?――いや、待て、思い出した。

 エンドウ・スベル。デパート「スレドイ」内のアパレル店、「クラキ屋」に不真面目に勤務している28才。

 ……だと思うのだけど。


 わたし?私?ワタシ?

 あたし?僕?オレ?


 自分の中に自分以外の人格を詰め込まれて、ぐちゃぐちゃになっている感覚。

 わたしは一人。

 ……だけどわたしは「みんな」。

 一人であると同時に、何十人……いや何百?何千?何万?もっと多いか?

 「みんな」だけど一人。

 集団にして個。個にして集団。

 

 それが今のわたしだった。


 「キミたちは普段、『枠』の中で生きている。『枠』っていうのは、要はキミ達が『現実』や『常識』なんて表現しているものだと思ってくれ。現実と空想、常識と神秘の境目。キミ達が『枠』の外に出せるのはその想像だけだ」


 「『枠』は非常に強固で絶対的な境界線だ。ある意味でキミ達を守っている、と言えるね。故に、()()()のような存在がキミ達人間に『枠』を超えて干渉できるのはこういう瞬間だけだ。キミ達の想像力が暴走し、『夢』という何でもアリな幻覚を見れるような、この瞬間。この瞬間は『枠』の効果が薄く……ボクのような存在がキミ達に干渉するチャンスなんだ」


 綺麗な金髪の青年は語り続ける。彼はわたし(みんな)ではない。わたし(みんな)の中に属していない。

 つまりはわたし(みんな)とは次元の違う場所にいる存在である、とわたし(みんな)は理解した。

 


 「――さて、ボクの顔に見覚えがある人は?」


 青年はわたし(みんな)に問いかけた。その問いかけに従い、わたし(みんな)は記憶を探っていく。


 ――すぐに思い当たった。あの「つうしんぼ」に顔写真を載せていたヤツじゃないか、こいつ。

 確か……


 

 「そう、ボクが神だっ!アイムゴット!!イエア!!!」


 

 (・・・・・・・・・・・・・・・・・・)



 唐突に妙なテンションになった「神」に対して、

 

 わたし(みんな)は「そんなまさか!」と驚愕した。

 わたし(みんな)は「騙されないぞ!」と憤った。

 わたし(みんな)は「なんてありがたい!」と歓喜した。


 わたしは「すげぇビミョウ」と呆れた。

 


 「……まぁ、ボクが僕自身を『神』って証明するのは難しいけどねぇ。ただまぁ、キミ達も今の自分の状態はどうにも奇妙だとは思っているだろう?自分の中に他人の意識が何千何万と詰め込まれてグチャグチャに混ぜられているその感じは気味が悪くないかい?……悪いね、ソレをやったのはボクだ」


 「キミ達の想像力が暴走する程に高まっているこの瞬間に僕はキミ達に干渉した。……キミ達は今、夢を見ている。だけどその夢の内容はボクに操作されたものだ。キミ達の意識を一纏めにしてしまったのはひとえにボクが一人ひとりに語り掛けるのが面倒だったから。この時間に眠っている者の意識を全て集めて纏めて一つの意識にした」


 そこまで言って、青年はふぅ、とため息をついた。


 「世界中の人間全て、とはいかなかったけどね。この時間に起きている人間は少なくない。生活習慣の違いや住んでいる場所毎の時差のせいで、全ての人間全てにこうしてボクと話す機会を与えることはできなかった。眠りについていない人間にボクは干渉できないんだよ基本的に。ま、それはおいおいやっていくさ。今後時間をズラしてこの『質問会』を開催する予定さ……そう、『質問会』だよ、キミ達」


 そこで言葉を切って、神と名乗る青年はわたし(みんな)をまっすぐに見据えた。


 「キミ達、ボクに聞きたいことが山ほどあるだろう?だからこの『質問会』を開いたのさ。例えば、最近なら“不適合者”のこととかなかなかホットじゃないかい?まったく何の説明もしないってのも面白くないしね、主にキミ達を鑑賞しているボクが。答えられる範囲で答えてあげるよ」


 わたし(みんな)がざわめき立った。


 「そうだなぁ、手始めにキミ達が日頃思っていることに関して答えてあげるかな。まず、キミ達が死んだ後に行くとされる「天国」や「地獄」と言われる場所は実際にあるよ。どっちにいくかを決める判断基準は秘密。今のところね。死んだら教えてあげよう。なに、いまやその時はそう遠い未来じゃないだろうしさ。ご期待下さいってね」


 「あとは……えーと、『神』というのはホントに『全知全能』なのかってことかな。答えはノーだ。できないことは沢山ある。クソ野郎に天罰を食らわせることもできないし、戦いにしても“不適合者”達の方が強いぐらいさ」

 

 「ただ、キミ達よりかはやれることは多いかな?こうやってキミ達の意識を集めて『質問会』が出来るのもそうだし、キミ達の世界で紛争が無くなったのもボクが『使徒』……ボクの指示で動く人間の事なんだけど……を送り込んだからだ。なかなか頑張ってるでしょ?」

 

 「……なかなか信じられないかな?まぁそうかもねぇ。ボクもボクが『神』だと思っているけど、もしかしたらボクが知覚できない、より上位の本物の『神』がいるかも知れない、なんて思うことがある。だけどね、こうやって『質問会』を開けるぐらいの力はボクにだってあるんだよ。それがボクが『神』である証拠には……ならないかなやっぱり」

 

 「信じられないなら、この夢が醒めた後に他の人に確認すればいいんじゃない?『昨日変な夢見たんだけど。神がどうとかこうとか』みたいな。きっと『わたしも見た!』なんて人がいるんじゃないかな?そんな上手くいかないかな。あはは」

 


 わたし(みんな)はこの青年がいわゆる「神」であるかどうか考えてみた。

 個であるが同時に集団であるわたし(みんな)の意見は、わたし(みんな)の在り様とリンクするかのように肯定と否定が混ざりあったものだった。

 半信半疑、というやつか。いや、疑の方がかなり多い。7:3ぐらいかな?

 ただ、信の中にも疑があり、疑の中にも信が混じっている。

 そんなきっぱり分けられる話じゃないのだろう。

 「神」とか何とか言われてもはいそーですか、と信じられるものでも無い。

 ただ、今のこの状況は確かに「神」か、それと同じようなモンでも無いと仕掛けられないだろう、とも思う。


 「まぁ、ボクが本当に『神』かどうかなんてどうでもいいじゃないか!大切なのは今だよ今。キミ達を悩ます“不適合者”と彼らの“ゲーム”について、色々知りたいだろう?自慢じゃないけど、ボクは結構この件について詳しいぜ?一応仕掛け役だしね。まぁ……」


 青年がサディスティックな笑みを浮かべた。


 「知ったところで、キミ達……ちっぽけな『社会の歯車』にはどうにもならないけどね?」


 ――確かにどうにもならないかも知れないけれど、わたし(みんな)だって何も知らないままなのは流石に我慢ならなかった。

 

 

 この理不尽に説明を。

 わたし(みんな)は各々の疑問を『神』を名乗る青年に一斉に向けた――。

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