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2-1 働いたら負け-1

 ――私達の居場所は暗い地の底だった。

 その時代の最高の権力を持つ者の居場所の地面の真下に、世の理に反する力、「異能力」を使い地下に住居を造るのだ。

 権力者が移り変わる度に、私達は「異能力」を示し、彼らに協力を持ちかける。

 それは時に脅迫めいたものになることもあるのだが……

 

 私達の役割は、私達以外の「異能力者」の排除。

 権力者の人脈と私達の感知能力の両方を使い、徹底的に「異能力者」の所在を調べ上げる。

 「異能力者」は存在するだけで世を乱す。

 「異能力者」は能力以前にその在り様が社会の一部品として適さない。

 「社会の歯車」にはそんなものは必要無い。

 人はヒトという「生命」ではなく、歯車という「物」として存在することで、社会の一部分となりこの世界を存続させる道を選んだのだ。

 「物」になれない者には死を。

 「生命」としてあろうとする者に死を。

 そうして私達はこの世を守護してきたのだ。


 そのことに疑問を持つことなど、私達――(まわり)の一族には考えつきもしなかった。

 廻の一族……その起こりは確認できる限りおよそ千年前だが、きっとそれ以前から存在し、この世を守ってきたのだろう。

 自分が産まれた時には決まっていた使命。「異能力者」を殺す時以外は地下の住居から出ない生活。

 そんな状況で、疑問など持てる方がおかしな話だろう。


 私は、廻の一族の第千代の“技師長”として育てられた。

 “技師長”とは、廻の一族の「最終手段」となる者に与えられる異名だ。

 廻の一族では、子供が産まれる度に“技師長”としての適性があるか調べられる。

 適正がある者には“技師長”の名を継ぐ為の相応しい力を手に入れる為の特別な修練が課せられ、その者以外には適当に異能力を一つだけ与えられるのみだ。

 “技師長”以外は使い捨ての駒だ。“技師”と呼ばれる彼らは“技師長”が手を下す程では無い脆弱な「異能力者」の排除や、その命を使って強力な「異能力者」の調査を担当する。

 

 私は、「普通」の人間達が平穏に生きる為に、「異能力者」を殺し、“技師”を犠牲にし、社会の歯車を管理し続ける運命を背負っていた。



 ……背負っていた、はずだった。



 ――――――――――――――――――――――



 ――目覚ましの音が部屋中に鳴り響く。

 ワタシはだるい体を無理矢理に動かしてベットを抜け出した。


 「……っ~~~ふわぁ……」


 ……眠い。昨日の「初戦」の疲れだろうか。

 クソぉ、アイダ・リホめ。

 あの後、「つうしんぼ」で彼女の評価を見てみるとかなりヤバイ相手だった、ということがわかってゾっとした。他に何人かも見てみたが、その中には彼女の評価を上回るヤツはいなかったから、恐らくかなり上位の“不適合者”だ。

 見知った顔ってだけでもやりづらいのに力もあるときた。


 「あ~あ……」


 絶対また再戦するんだろうなぁ。ワタシは負ける気はサラサラ無いし、彼女もそうそう負けるタマじゃない。なんでこうなっちまうかなぁ。

 ……ふと、寝るときすら首からかけているペンダントのケースの中身に目をやった。

 ボロボロの歯車だ。この戦い……“ゲーム”の原因でもあるソレ。


 「まぁ、前よかマシか」


 例え初恋(片思い)の人と殺しあう事態になったとしても、それでも以前の日常よりかはずっと良い。

 そう思ったら彼女とゆくゆく再戦することにも納得がいく……ようないかないような。


 ケースの中の歯車を取り出して、眺める。

 ……しかし、ボロい癖に妙な魅力があるな。

 なんというか、コイツ……


 「――そこらへんの人間よりずっと生命(いのち)らしいな」


 それが素直な感想だった。



 ――――――――――――――――――――――



 「――いいねぇ」

 

 店長が良い笑顔でホロフォ(ホログラム・フォンの略称)を眺めていた。表示される立体映像を見てはホウホウと頷きながらニヤニヤしていた。

 気持ち悪ぃ。

 なにがそんな面白いんだよ。

 つーか仕事しろ。


 ……いや、仕事に関してはわたしが言えることじゃないし……そもそも、もうそんな場合じゃないのかも。


 「おいエンドウ、これからの世界の未来について語り合おうぜ」

 「ロクなことになんない。以上。おしまい」

 「おいおいつれねえなぁ。確かにロクなことにはならんだろうが。祭りみたいなモンだろうがこんなモン。踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃソンソンってヤツだろ」

 「ナニソレ……」

 「踊ろうぜエンドウ」

 「嫌です」

 「後悔しても知らんぞ」

 「どうしたって後悔する気がする」

 「言えてるな。だが俺は踊る。踊り狂うぜ」


 そう言ってホロフォのディスプレイをこちらに向けてくる。


 「正体不明の《???》の“不適合者”様がすぐ傍にいるんだぜ。こんな面白い事があるか?」

 「面白過ぎて困るわ」


 画面にはある日突然ホロフォにインストールされた「つうしんぼ」の「ハルカゼ・ツグキ」のページが表示されている。

 この「つうしんぼ」って一体何?って話なのだけど、とりあえずわかっていることは……

 

 ・最初の“不適合者”が現れた日に全ホロフォに強制インストールされたプログラム。

 ・“不適合者”と“不適合者”同士の戦い、“ゲーム”についての情報が記載されている。


 ……この二つ。で、“不適合者”ってのは……


 「所属する集団、コミュニティに上手く適合できていない者達」を指している。

 ……つまり、学校とか会社とかで上手くいってないヤツってことかな?

 ハルカゼ君の場合なら、この店、「クラキ屋」という場に適合できなかった、という訳だろうか。


 「要は社会不適合者のド変人共か。そりゃ今まで随分苦労してきたんだろうなぁ」


 文章とは裏腹に同情の念が全く籠っていない店長の言葉。……上機嫌だ。今まで見たことが無い程上機嫌だ。


 「んでもって、“(まわり)”と“C.O.W”ねぇ。いやぁすげぇなぁ。あーあ、何で俺が“不適合者”じゃ無いんだ?チクショウめ」


 “廻”。「つうしんぼ」の説明によると、“不適合者”に与えられた「異能力」だそうだ。得た者は超常的な身体能力や武器を与えられ、さらに「Check out」という呪文を唱えることによってその真価を発揮し、一人ひとり異なるという“C.O.W”要は必殺技を発動できる状態になるそうな。

 ちなみに“C.O.W”は「Check Out World」の頭文字を取って命名されたらしい。

 直訳したら「世界から出ていく」という意味になるのだけど。……まぁ不穏だよね……


 んでもってその“廻”とやらを“不適合者”に与えたのが……


 「まさか『神』なんてもんが出てくるとは思わなかったぜ。なんかもう変な所で雑だよなオイ」



 神……そう、神様だ。

 この件には神様が絡んでいるらしい。もうどうしろと。……踊るしかないのもしかして。

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