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異世界冒犬譚  作者: さくら
夢見る乙女が描く未来
8/126

5話

5話になります。少し更新頻度が遅くなります。

 「死ぬかと思ったぁ……」


轟音と共に崩れた床はそのままネリーを飲み込むはずだった。はずだったのだが……俺の見間違いだろうか、一瞬ネリーが空中を浮いた感じがした。その直後にデルフィンが手を伸ばしネリーを引っ張り上げたのだ


「よくフローティングが間に合ったね。危なかった」


「もう無意識だよぉ……怖かった……」


「フロー……ティング?」


マニーズも俺と同じ疑問を持っていたようだ


「魔法の一つだよぉ。あんまり長くは浮いてられないけどね」


突如自分を襲った不運にネリーはその場に座り込みながらもマニーズの質問に答える


「すごいですね。そんな魔法があるんですか」


「初級魔法だよ。私は魔力の制御が下手だから、こういう変性の魔法は苦手なんだぁ」


とはいえ、助かったのだから大したものだろう


「二人とも! これを見て見な!!」


叫ぶように二人を呼んだデルフィンは崩れた穴を見つめながら神妙な顔つきをしている


「え? なになに? どうしたの?」


へたり込んでいるネリーにマニーズは肩を貸す


「え……? これは……?」


マニーズが驚嘆の声を漏らす


俺も近づいてみるが、足が短いので穴の縁にいくだけでも怖い……恐る恐る穴を覗き込むと、そこには石に装飾が施されているいくつかの柱が見える。どうやら下の層があるようだ


「見つけちまったみたいだね……あたしら」


「え? どうするの?」


ネリーはデルフィンの顔を伺うように尋ねた


「どうするも何も行って見るしかないだろう」


「え!? でも危ないよ!?」


「馬鹿! 危険は承知だよ! 誰も踏み入ってない場所だからこそお宝が見つかるんじゃないか!」


今まで通ってきたところはすでに調査がされ危険は少なかった。だが、この穴の下は今見つかったばかりなので誰も足を踏み入れていない。もちろん遺物や貴重な品が見つかる可能性は高いが、同時に魔物の住処になっている可能性もある。なにより、罠の解除もされていないのだ。危険は大きい


「うちらはツイてるんだよ。こんな幸運めったにないよ?」


「そうだけど……」


「マニーズはどう思う?」


マニーズはまさか自分に振られるとはと驚いた顔でデルフィンを見る


恐らくデルフィンは下に行く事に同意をしてほしいのだろう、二対一なら尻込みをするネリーを強引に納得させられると考えたのだ。俺としては、危険な目にあってほしくはないのだが……正直ちょっとわくわくするのも事実だ


「私は……行って見たいです」


マニーズの答えに満足する様ににっこりとほほ笑んだデルフィンはネリーを見る


「はぁ……わかりましたよ。行けばいいんでしょ行けば」


顔に諦めの表情を浮かべながら抜け落ちるようにネリーは漏らした



*********************************************



 下の層に降りると雰囲気が一変した


岩壁はかわらないのだが、至る所に装飾がされておりいかにも遺跡な感じがする。小部屋と入り組んだ部屋も多くなり、罠も数か所発見した。そのいずれもが魔法の罠なので、ネリーが常に周りに気を配っている


また、今までに見たことのないモンスターも現れている。ミイラのような人の化け物が時折襲ってくるのだ


白いボロを見にまとったミイラは武器を携え何度か襲い掛かってきた。ゴブリンよりは知性があるようで、デルフィンの剣を何度か受け止めていた。ミイラより頭の悪いゴブリンが不憫ではある。脳みそちっちゃいのだろうか


だが、ゴブリンよりはモロい


俺が体当たりをするだけで崩れ落ちるのだ


そしてまた前方の曲がり角から足を引きずるような音が聞こえた


俺は耳をピクンとさせ威嚇する

「グルルゥ……」


「二人とも、またお出ましのようだよ」


それを見たデルフィンが二人に警告する


曲がり角の向こうからゆっくりと人影が伸びる。そして奴らは姿を現した。相変わらず気持ちの悪い風貌だ


「いくよ!!」


デルフィンが飛びだすが、後ろの二人は動かない。一体が相手の時はマニーズも少し前進する手はずだが、敵が一体かどうかはまだ判断できない。それを察した俺はデルフィンの更に先へと進み曲がり角の奥を見る


通路の先に二体いる……が、こちらにまだ気が付いていないのだろうか


今はこの一体に集中で問題ないと判断した俺はデルフィンが戦っている相手に向き直る


それを見たマニーズは少し前に出てネリーを守るように位置を変える



——ッボウ!



ミイラが火の魔法を放った


今までにもいたがこいつらの中には魔法を使える奴がたまにいる


咄嗟に避けたデルフィンはそのままネリーの方を見る


マリーも同様に振り返りネリーの射線上を開けた


「やあぁ!」



——ッドス!



ネリーの放った氷のつららがミイラの体を貫いた


「やった!」


ネリーは小さくガッツポーズして喜ぶ


「おらあ!」


つららが刺さり悶えているミイラをデルフィンが力任せに切り裂いた


「ネリー! 浮かれるのは止めを刺してからにしな!」


「ぶー……」



奥の二体も倒し奥へと進むと大きな鉄の扉が現れる


「大きい扉だね。この先になにかあるのかな? ネリー! 罠とかどうだい?」


「んー、特になさそう」


「よし、マニーズ。開けててくれないかい? あたしはすぐにフォローに入れるようにしてる」


「はい!」


マニーズが手を掛けゆっくりと扉を開く。身を屈めていた俺とデルフィンは人ひとりが通れるほど開いた瞬間に中に入り、辺りを見渡し危険がないかを確認する


「大丈夫そうだ」


デルフィンが合図をすると、二人も扉をくぐる


広場になっているこの場所は今までと違った様相をしていた。部屋の中心には長いテーブルと複数の椅子が置いてある。更にその奥は数段高くなっており、他とは違う豪華な装飾がされた椅子が置いてあった。偉い人が座っていたのだろうか。今も誰かが座っている


……座ってる?


誰かいる!

「ガルルルゥゥ!」


俺の視線に気づいたデルフィンも咄嗟に構え目を凝らし、椅子に座っているモノがなんなのかを見極めようとしている


「死体……か?」


装飾で飾られた椅子には冒険者らしき死体が座っていた


というか、冷静に考えれば生きてる人間なら臭いでわかったな。この独特な鼻をつく匂いはミイラ化した臭いですわ。びびって損した。いや、びびるでしょ普通。デルフィンとマニーズの松明とネリーの光る魔導具だけしか明かりないんだし。そんな中でビビらないほうがおかしい。俺が悪いわけじゃない


三人と一匹は身を寄せ合うように固まり、ゆっくりと死体へと近づいた


そこには胸を剣で貫かれた死体があった


「これは……」


胸に刺さったその剣はどこか妖しく、どこか惹きつける様に淡く光っているようにも見えた


「すごーい。何だろうこの剣? すごい値打ち物なんじゃないかな?」


「ああ、そうだね」


そう言いデルフィンは剣に手を伸ばす


「あ、触って大丈夫ですか?」


マニーズが心配そうに声をかける


「なに大丈夫だろ」


引き抜かれたその剣はとても美しかった。見た目はどこか古ぼけており、柄にはこれといった装飾はない。刀身もお世辞にも研ぎ澄まされてはおらず、くすんでいるように見える。だが、この剣は見た目ではない美しさを感じさせてならない。その証拠に剣を見た三人は呼吸をすることすら忘れてその剣に魅入っていた。


「な、なんなんだい。この剣は……すごいね」


思い出したかのように息を吐きながらデルフィンが呟いた


「すごい。綺麗……」


「名のある剣でしょうか?」


「わからないね。とりあえず持って帰って武器屋に見せてみよう。ものすごい値段で売れるかもしれないよ」


「そうだね。で、どうする?まだ探索は続ける?」


「……いや、こんなすごいものを見つけたんだ。一旦引き返そう」


デルフィンの言葉に二人は頷いた。これほどまでに素晴らしい武器を見つけたのだから、かなりの金額になりそうだ。これ以上危険を冒す必要はないと判断したのだろう。マニーズとネリーは来た道を引き返す


「デルフィン! 早くしないと置いてっちゃうよー」


「……あ、ああ」


デルフィンはその手の中にある剣から眼をそらせずに言葉だけでネリーに答えた

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