4話
4話になります。よろしくお願いします
「マニーズ! ネリー! 援護お願い!」
「まかせて!」
「は、はい!」
目の前にいるゴブリンの集団にデルフィンは単身切り込む。ゴブリンは知能の低いモンスターなので動きも単調で弱い。今も身の丈にあっていないこん棒なんかを大きく振りかぶっている
当然当たるわけもなくデルフィンの剣がゴブリンの胴を切り裂く
切り裂くという表現は正確ではないか・・切るというより引っ叩いている。漫画などで一閃などというのは夢物語のようで剣というより鉄の塊でぶっ叩いてる感じだ
まぁ、どっちにしろ絶命するわけだが。
デルフィンが振り抜いた隙にほかのゴブリン達が襲い掛かろうとする
残りは三体
こいつらの足止めは俺たちの仕事だ。ネリーとマニーズはそれぞれ魔法と弓で足止めする
デルフィンが飛び出した瞬間に放っているのだが、うまく当たるときとそうでないときがある
今回はマニーズの矢が当たり、ネリーの魔法は外れたようだが、矢も致命傷にはなっていない
マニーズが剣を抜きネリーのフォローに入る
俺は回り込んでその様子を見る
下手に飛び出すと二人の流れ弾に当たってしまう
ネリーとマニーズが問題なく二体を相手にしているので、余った一体に狙いを定める。疾風のように駆け抜けゴブリンの足に体当たりを食らわせて体勢を崩し一目散に離れる
大したことをしていないのだがこれで十分なのだ
むしろこれ以上は邪魔になる
体勢が崩れた隙を見逃さずにデルフィンはゴブリンを打ち付けると鈍い音と共にゴブリンの顔が熟したトマトの様に潰れる。ぶっちゃけかなりグロい
「こっちは終わったよ!」
デルフィンが振り返るとネリーが笑顔で応えていた
パーティを組んで数日経ったが、三人と一匹の連携はうまくいっている
元々デルフィンが飛び出してネリーが援護する形だったらしいが、ネリーが一人になるのが心配だったらしい
一度、背後から襲われネリーが窮地に陥ったこともあったのだという
だが、その心配もマニーズが入ったことで無くなった。マニーズはデルフィンほどではないが剣を使えるので二人でならある程度の不測の事態にも対応できる。そうなればデルフィンは前にだけ集中できるのでかなり助かっていると言っていた
更にデルフィンとネリーが喜んでいたのは俺の存在だ
そのスピードで前と後ろの両方のサポートに入れる。一人で敵を倒す事は出来ないが、不意を突いて敵の隙を作れるのは戦いにおいてかなり重要な要素なのだ。初めての集団戦で見せたマニーズと俺の連携には二人とも目を丸くして驚いていた
「マニーズを誘って正解だったな!」
「うんうん。かなり楽になったね」
「が、頑張ります」
今、俺たちは緊急任務の探索任務を請け負っている
探索と言うと聞こえがいいが、要はある遺跡で落とし物をしたので拾ってくるって依頼だ。とある学者がとある遺跡を調査している際、大ネズミの集団に囲まれそうになり、逃げ出す時に落としたのだそうだ
ねずみに驚いて慌てて逃げるとか、ドジっ娘か。きっと厚眼鏡で髪がボサボサだけど、メガネ外したら美少女何だろう。うんきっとそうだ
と、思っていたが正直土下座でお詫びをしたい
ここに来るまでに一度遭遇したのだが……阿保みたいにデカかった。俺の三倍はあるほどのネズミに囲まれたら、そりゃ逃げ出すわ
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日が落ち始めたところで三人は野営の準備を始める。暗くなってからでは危険だ
マニーズとネリーが大きなリュックを降ろし、準備を始める
ちなみにデルフィンと俺は手ぶらだ。見た目的にはデルフィンが一番重い物を運べるのだが、前衛が重い荷物を持っていては咄嗟の動きができないので、それは暗黙の了解らしい
デルフィンが周りを警戒しつつ、ネリーがテントを張り、マニーズは火を起こしている
俺はあどけない顔でそれを眺めている
足元うろついても邪魔者扱いされるのがオチだしな
「準備できたよ」
ネリーが辺りを警戒しているデルフィンに声をかける
「了解。ありがとうな」
三人で火を囲み、夕食のウサギの肉とシチューと食べる
「やっぱマニーズの料理はうまいなぁ」
料理担当はマニーズだ
「申し訳ありませんねぇ。料理が下手で」
ネリーが口を尖らせて拗ねる
デルフィンとネリーは料理ができない子だった
比べてマニーズは料理がうまいらしい。さすがはご主人
まぁ、俺は素焼きの肉なんだが
「この後は魔時計で見張りを交代しながら休憩しよう」
「うん、マニーズとカールいるから見張りも楽になったよねぇ。ほんと良い子見つけられてよかったぁ」
ネリーがいつも以上に間の抜けた声でマニーズに抱きつく
魔時計はこの世界の砂時計みたいなものだ。ボタンがいくつかあり、それで時間を設定し魔力を流し込むと光る。設定した時間を過ぎると光が消えるという仕組みだ
この世界での時間はかなり適当だ
魔時計が光っている間は一人が火の番をしながら辺りを警戒するので休めないのだが、俺が入った事で少し事情が変わった
以前、ネリーが見張りをしている時に寝てしまったのだ。その時に俺が傍で警戒しつつ火の番をしてやった。そういう時に悪いことは重なるもので狼が近づいてきていたのだ。それを察した俺が吠えて全員叩き起こしたのだ。結果、大事には至らなかったという事があった
犬の体になってから眠りが浅く、ちょっとした音にも反応できるのだ。もちろん熟睡もできるのだが
翌日、事情を知ったデルフィンがネリーを叱り、俺を抱きしめながら褒めてくれた。筋肉質な御胸はそれはそれで良い物だと思いました。鎧を着こんでやられるのは勘弁だが
以降は見張りと火の番のサポートに俺が一緒に居るというのが基本になった。なので、横にはなれないが座ったままでの仮眠程度なら安心できるという話だ
「じゃあ、今日は私からですよね?」
「ああ、悪いな」
「いえいえ、カールお願いね」
マニーズと俺を残し、デルフィンとネリーはテントの中に入っていった
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翌日、日が高くなる頃には目的地へと到着した
フンダート遺跡
かつて古代エルフ族が建築したとされる塔で三階程度の小さな塔なのだが、実は地下が本体という変わった遺跡らしい。十年前に初めて地下の存在が明らかになり、大学と貴族が互いに出資し調査を行っているのだとデルフィンが言っていた
大学なんてあるのか
「今は誰もいないと思うけど、浅い階層にはもしかしたら調査で人が来るかもね」
「そうだな。人がいても下手に近づくなよ?」
「わかってるよぉ」
デルフィンとネリーの会話にマニーズは一人納得する様に頷いている
マニーズは警戒しないで近づきそうだしな
「よし、それじゃ早速入ってみますか。皆、いくら調査されてるからと言っても気を抜くなよ?」
「はーい」
「は、はい!」
木の扉を開けると石の壁と床が俺たちを迎える
昼間なのに薄暗いのだが、壁には点々と光る・・松明のようなものが掛けられている。ようなというのは火がついていないのだ。蛍光灯のように淡く光っているのだが、さすがに蛍光灯はないだろうからこれも魔法だろうか
デルフィンを先頭に奥へと進んでいくと、とある一室に下へと続いている梯子があった
「ここから地下だな」
「結構深いねー」
「さてと、カールが降りれないな」
「あー、たしかに……あ!こうすればいいんじゃない?」
閃いたようにネリーが俺を抱えデルフィンの首に巻いた
え……・
「おお!暖かい……これいいなぁ」
前足で右肩を挟み、後ろ脚で左肩を挟む格好だが……ふ、不安定で怖い
マニーズはその光景を苦笑しながら見つめている
「でも、ちょっと後ろに傾いたら落ちちゃわないか?」
「あー、そうだね。じゃあこうしようか」
無抵抗の俺をデルフィンから引きはがし今度はマニーズの背中に背負わせる。丁度リュックが椅子のような恰好になり、上半身でマニーズの頭を抱え込む
お、こっちはマニーズにしがみつけるから安定しそうだ
「「あはははは!」」
二人は俺とマニーズのパイルダーオンを見て、腹を抱えて笑っている
失礼な
「ひっ……ひぃ……ダメだ。力が入らない……」
デルフィンのツボに入ったようだ
「二人とも笑いすぎです」
マニーズが口をとがらせて抗議する
「わ、悪い悪い。よし、遊んでないでさっさと降りようか! ……っぷ!」
無事に降りるとむき出しの岩壁の通路が続いていた。岩をくりぬいたような地下はしんと沈んだ湿気のある空気をしており少し肌寒ささえ感じる
降ろしてもらった俺は辺りを警戒しつつ先に進む
時折、横部屋があるが見たところ特に何もなさそうだ。木製の家具や石のテーブルなども目に入るが、長年放置されていたせいか、だいぶ風化している
更に下へと続くスロープは木でできているせいかギシギシと軋みいつ床が抜けるか気が気でない
道中で大ネズミと大きなクモが襲ってきたが冷静に片付け先へと進む
ちなみにどちらも俺は見ているだけだった。クモとかネズミに噛みつくとか嫌すぎるでしょ
「話によるとこの辺じゃないかな? さっきの大部屋とかまさに聞いてた通りだったし」
依頼を受けた際に情報取集をしており、類似した部屋を通り抜けたのだ。目的地はこの辺なのだろう
「落とし物って本だよね?」
「日記だと言ってましたね」
少し開けた場所に出た。ここが学者が襲われた場所のはずだ
「あ! あれじゃない?」
ネリーが何かを見つけたようだ。小走りで壁際に近づく
「ほら! これ! あったよ!」
「簡単にみつかったな。これで300ゴールドは楽勝だな」
本を拾った三人は安堵と喜びで和やかに話をしているのだが……
俺の耳はそれ以外の音を感じていた
低く響き渡る音が先ほどから気になってしかたがない。地響きのような……その音は少しづつ大きくなっていく……ネリーの立っている後ろから
ネリー! ちょっとそこから離れろ!
「ワン! ワンワン! ワン!」
「え?」
「どうしたのカール?」
俺が狂ったように吠え始めたのをみたマニーズが近づき宥めるように俺を撫でる
だが俺は吠えるのを止めず、じっと一点を見つめる
「!? ネリー!! そこから離れろ!」
いち早く察知したデルフィンが言い終えるよりも早くネリーの足もとが崩れた